「僕が折れずにやってこられたのは、『僕は趣味で地球を救ってます』みたいな、そういうスタンスでやってきたからだと思っています」と語る村木風海氏
「僕が折れずにやってこられたのは、『僕は趣味で地球を救ってます』みたいな、そういうスタンスでやってきたからだと思っています」と語る村木風海氏

「火星に移住する」という夢を叶(かな)えるために小学4年で二酸化炭素の研究を始め、高校生のときにCO2回収装置「ひやっしー」を発明。

現在は大学で学びつつ、一般社団法人炭素回収技術研究機構(CRRA[シーラ])代表理事・機構長として、回収した二酸化炭素から燃料を生み出す「そらりん計画」に取り組む村木風海かずみ)さんが『火星に住むつもりです』を刊行した。

化学者、発明家、社会起業家の顔を持ち、型破りという言葉では収まりきらない21歳現役東大生の素顔に迫る!

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――小学生のときに「人類で初めて火星に住みたい」と思ったそうですが、それでなぜ二酸化炭素の研究を始めようと?

村木 火星について調べたら、火星の空気の95%が二酸化炭素だと知り、将来、自分が火星に住むためには二酸化炭素を集めてなんとかしなきゃと思ったのが最初のきっかけです。

小学4年で研究を始めて今11年目なのですが、当初は地球の問題には興味がなくて、火星に住むことばかり考えていました。でも中学2年のときに地球温暖化の専門書に出会ってショックを受け「二酸化炭素を吸い取る技術があれば、地球も守れるし火星にも住める」と思ったんです。

それが、ボタンひとつ押すだけで空気中から二酸化炭素を集められるCO2回収マシーン「ひやっしー」の発明につながりました。

――どうやって空気中の二酸化炭素を回収するんですか?

村木 「ひやっしー」の中にはアルカリ性の液体が入った二酸化炭素回収カートリッジが入っていて、そこを空気が通ると二酸化炭素の成分が液体に溶け込んで二酸化炭素が回収されるというのが基本的な仕組みです。

こうした方法は「二酸化炭素直接空気回収」と呼ばれていますが、僕が作ってきたシステムの何が新しいかというと、世界最小の圧倒的な小型化です。実際、スーツケース型の装置を実現するのには苦心しました。

――原理を思いつくだけじゃなく、実際に作って製品化しちゃうというのがすごいですね。 

村木 「ひやっしー」の初号機を発明したのが高校2年生の冬で、中身の基本的な部分のシステムは、中学3年の頃から作り始めていました。僕のモットーは、「思いついたアイデア=すぐに実行!」です。ひらめいたと思ったら、とりあえず手を動かして作ってみるんです。

ただ試作品を作るにもお金が必要で、そこが一番大変でした。最初はそれまでためていたお年玉を全部使ったりしながら、自分の家をだんだんラボ化していったのですが、最初のプロトタイプを作って特許を申請するのに100万円ぐらい必要でした。

そのとき総務省の「異能vation(いのうべーしょん)」という破壊的なイノベーションを起こしそうな個人に国が年間300万円を援助するプログラムがあることを母が見つけてくれて、ダメもとで応募したら採択されました。それもあって「ひやっしー」を完成させることができたんです。

――今は「ひやっしー」の事業化だけでなく、回収した二酸化炭素から燃料を合成する計画にも取り組んでいるんですね。

村木 はい。二酸化炭素が溶け込んだ「ひやっしー」のカートリッジのアルカリ溶液で、スピルリナという藻の一種を培養すると糖分ができます。そこからエタノールを作り、さらに軽油とほぼ同じ液体燃料を作るのが「そらりん計画」です。

私たちのビジネスモデルは「ひやっしー」を定額でユーザーに貸し出して空気中の二酸化炭素を回収し、温暖化防止だけでなく間接的に家庭やオフィスでの集中力を向上させるというソリューションの提供なので、「そらりん計画」に必要な二酸化炭素自体の原材料費はただどころかマイナスで手に入る。

一般的なバイオ燃料と比べてもコストで有利ですから、将来的には既存の燃料と対抗できる格安の燃料を供給できるようになるんじゃないかと思ってます。

――村木さんは常にポジティブ思考で、しかも頭の中じゃなく考えたことを現実化するために、止まらず前に進む人という印象ですが、何がそれを可能にしているのでしょう?

村木 それは楽しくて仕方がないからだと思います。僕は「二酸化炭素のことを愛してる」っていうぐらい好きすぎて、11年間、二酸化炭素のことだけを考えているような研究者なので、ほとんど趣味なんですよね。 

僕にとってはその趣味がたまたま人類の未来を守ることにもつながっているということなので、自分の研究が理解されないとか、仕事への批判も含めて今までにつらいこともたくさんありましたけど「自分の趣味には誰も口出しする権利がない」と思っているんです。

もちろん、温暖化を防いで地球と人類の未来を守りたいという大きな使命感もあるんですけど、それだけだと人間ってつらいことや困難に直面したり、誰かの批判にさらされたときに心が折れちゃうと思うんです。

僕が折れずにやってこられたのは、そういうときに「僕は趣味で地球を救ってます」みたいな、そういうスタンスでやってきたからだと思っています。だからうまくいかなくて落ち込むこともないし、むしろ、うまくいかないほうが面白い。誰かに何かを言われたときには、やはり落ち込むには落ち込むんですけど、心は折れずに済んだという感じです。

――本書は挿絵が豊富で、子供向けの絵本みたいな作りですし、村木さんの発明も「ひやっしー」とか「そらりん」とか、「ゆるふわ系」のネーミングセンスが徹底していますね。

村木 僕の研究の一貫したポリシーが「中身は最先端、見た目はゆるふわ」なんです。

地球温暖化が止まらない理由は、やっぱりひとりひとりの意識の問題だと思っていて、世の中の割合でいったら、科学をやってる人よりも文系の人のほうが圧倒的に多い。

そのなかで、より多くの人たちに科学や温暖化への興味を持ってもらうには、中身は最先端だけど、それをあえて専門用語を使わないスタイルで、ゆるっと、ふわっと脱力した雰囲気で伝えることがすごく大事だと思っています。

装置やプロジェクトの名前をオール平仮名のゆるい名前にするというのはこだわっています。

ちなみに年内に気球を使った成層圏探査機「もくもく4」で、宇宙の入り口に当たる高度30~35㎞の有人成層圏飛行(日本だけでなく東洋初)に臨む予定で、宇宙から見る青い地球を今から楽しみにしています。

●村木風海(むらき・かずみ
2000年生まれ、山梨県出身。化学者、発明家、冒険家、社会起業家。一般社団法人炭素回収技術研究機構(CRRA)代表理事・機構長。東京大学工学部化学生命工学科3年生。専門はCO2直接空気回収(DAC)、CO2からの燃料・化成品合成。2017年、総務省異能vation「破壊的な挑戦部門」本採択。夢は、「地球温暖化を止めて地球上の77億人全員を救い、火星移住も実現して人類で初の火星人になる」こと。国や大学に依存しない独立系研究機関として、CRRAの仲間と共に全力で研究を楽しんでいる。
CRRA公式サイト【https://www.crra.jp/】村木風海公式Twitter【@Kazumi_muraki】

■『火星に住むつもりです~二酸化炭素が地球を救う~』
光文社 1650円(税込)
小学4年の頃から地球温暖化を止めるための発明と人類の火星移住を実現させる研究を行なっている著者の村木風海さん。自身の研究が総務省異能vation「破壊的な挑戦部門」に本採択され、現在は東京大学工学部で学びつつ、一般社団法人炭素回収技術研究機構(CRRA)代表理事・機構長として、専門であるCO2空気回収、CO2からの燃料・化成品合成に取り組む。自身のこれまでの歩みと研究内容を、挿絵を多用した一冊の本にまとめた

インタビュー・文/川喜田 研 撮影/村上宗一郎

「僕が折れずにやってこられたのは、『僕は趣味で地球を救ってます』みたいな、そういうスタンスでやってきたからだと思っています」と語る村木風海氏