[気になる映画人インタビュー]演じる役柄のポジションに関係なく、人目を引く役者のことを名優と呼ぶのかもしれない。映画『1/11 じゅういちぶんのいち』に出演している、女優の奥貫薫。優しげな雰囲気を身にまといながら、役柄の大小に関係なく深みのある芝居を披露する。その姿が画面に映った途端、こちらをほっとさせる安心感と安定感を持つ稀な人だ。

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 奥貫が現在への足掛かりを得たのは、1989年に放映されたKDDのCM。留学する恋人を空港で涙ながらに見送る女性という役どころで、奥貫は当時19歳。「私の中では、芝居をする面白さを知った一番のきっかけです。監督から厳しく指導をされながら、泣けるまで成田空港内をウロウロしていたのを覚えています。CM出演以降、お芝居をするチャンスに恵まれるようになった。この機会がなければ今の私はいなかったはず」と女優の魅力を知った。

 もちろん、すぐに女優1本とはいかなかった。「例えばレポーターを務めさせてもらったり、今のようにお芝居の仕事に集中できるようになったのは割と遅くて、20代後半くらいからでした」と遅咲きなのだ。女優としての憧れの一つに「学園ドラマに生徒役で出演すること」があっただけに、今回の『1/11 じゅういちぶんのいち』では「池岡亮介さんや竹富聖花さんたちがキラキラしていて、羨ましいなぁと思ったりしました。私は母親役なので母親目線でついつい見てしまって、皆の将来が楽しみになりました」と様々な感慨に包まれたよう。

 奥貫自身は2009年に結婚、2011年5月に第1子となる男児を出産。プライベートの充実は女優業にも大きなプラスとなり「実感を持って母親役を務められるようになったし、きちんとした仕事をして家に帰ろうと思う気持ちが強くなった。仕事と子育ての両立は確かに大変だけれど、むしろ集中して頑張れているところもある」と愛息子の存在が大きなモチベーションに繋がっている。ただこれまでの出演作品は、まだ観せないようにしているんだとか。「ほかの子供のお母さんを私がやっているのを見たら、息子がヤキモチをやくかなと思って。でもナレーションの仕事は一緒に観ることもあって『あ、お母さんの声だ』なんて言ってくれますよ」と相好を崩す。

 1989年の映画デビュー作『バトルヒーター』から数えて、今年で女優歴25年。それでも「気持ち的にはまだまだ新人。でもそれを許してくれる年齢ではないので、いただいた作品で自分がどのような責任をとれるかを考えています。気持ちとしては初心貫徹。慣れてしまったらダメですから」と改めて襟元をただす。デビュー当時から「息の長い活躍ができる女優」を目標に掲げてきた。そんな彼女が「自分が歩んできた道のりが間違いではなかったと思えた」瞬間があったという。

 それは同期・福山雅治と20数年ぶりに再会した2010年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」でのこと。「デビュー当時のオーディションの時に一緒で同期でしたから、再会した時は嬉しくて。しかも素晴らしい作品で再会できたのもよかった。その時は、ふと今までの道のりを振り返ってジーンとしてしまいました」と目を細める。『バトルヒーター』の飯田譲治監督とも2003年の映画『ドラゴンヘッド』で再会。「やはり再会することは、自分にとって励みになりますよね。新しい出会いももちろんそう。何よりも声をかけてもらえるのが、一番の評価ですから」と再会と出会いを繰り返しながらこれからも女優業に邁進していく構えだ。

 映画『1/11 じゅういちぶんのいち』は4月5日より全国公開。

奥貫薫、同期との20年ぶりの再会で自らの女優人生に「ジーン」 クランクイン! 衣装協力:Black Mouton