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和田彩花が昨日11月23日に東京・新代田FEVERにてライブイベント「実もの切り花 その1 -東京と宮古-」を開催した。本稿では昼夜2公演行われたうちの夜公演の模様をお届けする。

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「実もの切り花」は、東日本大震災から10年の間に失われたものを見つめ直すべく、和田が自ら立ち上げたプロジェクト。今後継続的に行い、ライブやイベントの実施はもとより、ゲストを招いた対談やZINEの制作など、さまざまなスタイルで自らの思いを形にしていく予定だという。記念すべき第1回は「東京と宮古」というサブタイトルのもと、バンドスタイルでのライブパフォーマンスが行われた。この日のライブで和田は一切MCを行わず、また過剰な照明演出を排するなど、ストイックかつ独創的なステージを作り上げ、唯一無比のアーティスティックな世界観に観客をいざなった。

開演時刻になり場内が暗転するとステージ後方の壁に、カフェの店内を映した映像が投影される。カメラがゆっくり移動すると、そこには本を手に椅子に座る和田の姿が。すると彼女はおもむろに朗読を始める。和田が朗読するのは明治時代の作家、徳富蘆花の「寄生木」。ライブのサブタイトルにある岩手県宮古市を舞台にした小説だ。27歳で自ら命を絶った青年将校の日記をもとに執筆された本作に感銘を受けた和田は、今回のライブで令和の東京に生きる自分が、同世代である主人公の苛烈な人生をいかにして捉え、自らの表現として昇華できるかにトライしたのだという。

観客が朗読映像に見入る中、真っ赤なワンピースを身にまとった和田がバンドメンバーとともにステージに登場。バックを固めるのは劔樹人(B / あらかじめ決められた恋人たちへ)、U(Dr)、オータケコーハン(G / あらかじめ決められた恋人たちへ)、楢原英介(Violin, Key / VOLA & THE ORIENTAL MACHINE)といったおなじみの面々だ。朗読映像が続く中、Uの軽快なカウントからライブは「ホットラテ」で幕開け。バンドはオータケのディストーショナルなギターを前面に押し出しエッジの効いたサウンドで会場のテンションを引き上げていく。なお、この日のライブではパフォーマンス中にも朗読映像が継続して流されており、音数の少ない場面や曲間で、和田の朗読が場内に響き、バンドのエネルギッシュな演奏とクールな朗読とのコントラストが一種独特な雰囲気を生み出していた。

中盤では、オータケの鉄琴と楢原のバイオリンがセンチメンタルなムードを盛り上げた「マリッジブルー」、シャープなギターカッティングとタイトリズムアンサンブルが拮抗するグルーヴィな「みやしたぱーく」、母と子の関係性をテーマにした四つ打ちナンバー「mama」といった多彩な楽曲が届けられる。バンドが繰り出すサウンドに身を委ねるようにして、和田は時に繊細に、時に力強く、表情豊かな歌声で観客を魅了した。

「#15」「For me and you」「あなたが選んだもの、あなたが選ぶもの」といったメッセージ性の強い楽曲を続けて披露したのち、和田は自ら朗読映像を止めると、最後に穏やかなバラード「パターン」を歌唱。1つひとつの言葉を噛みしめるようにして、この楽曲を丁寧に歌い上げると、「ありがとうございました」と笑顔で客席に一礼してステージをあとにした。バンドメンバーがステージからはけると、和田の朗読映像が再びスタート。彼女が朗読を終えると、場内から拍手が沸き起こり、静かな余韻を残したままライブはフィナーレを迎えた。

なお本公演は有料配信も行われており、11月30日(火) 23:59 までアーカイブ映像を視聴することができる。配信視聴チケットはツイキャスにて販売中。

和田彩花「実もの切り花 その1 -東京と宮古-」2021年11月23日 新代田FEVER セットリスト

01. ホットラテ
02. 空を遮る首都高速
03. スターチス
04. ゆりかご
05. マリッジブルー
06. 私的礼讃
07. みやしたぱーく
08. mama
09. Une idole
10. #15
11. For me and you
12. あなたが選んだもの、あなたが選ぶもの
13. パターン

和田彩花「実もの切り花 その1 -東京と宮古-」の様子。