「世界のどこかにあると言われる魔境」「未開の地群馬」…ネットで「秘境」だの「グンマー」だのとネタにされている、群馬県。しかし、実際のグンマはそんなものじゃなかった!? ──いま、グンマ在住の作者が描く『お前はまだグンマを知らない』(井田 ヒロト/新潮社)が3月8日に発売され、大きな話題に。ネットでの反応は「だいたいあってる」とのことなので、本当の“グンマ”がどんなものか紹介してみよう。

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 これは、主人公の男子高校生・神月がチバ県からグンマ県に引っ越すところから始まる。グンマについて何も知らなかった彼は、さまざまなグンマの真実に翻弄されていくのだ。まず、グンマに向かうJR高崎線では、籠原駅以降ドアが開かなくなる。降りたい場合は横のボタンを押せばいいのだが、知らない人はパニックになるのも仕方がない。グンマに行った友達から「……来るな」「グンマに来て……生きて帰った者はいない」と言われたことや、ネットで「グンマに行った友達とその後連絡が取れません」という書き込みを思い出してしまっても仕方ない…かもしれない。こんなところが、グンマが「秘境」「魔窟」と言われてしまう所以なのだろうか。

 また、「グンマの名物からっ風とかかあ天下」と言われているが、それを実感できるのが自転車に乗っているとき。行きは「秒速5cmくらいしか進んでねえぞ!?」というくらい強烈な向かい風が吹くので、子どもなら一歩も動けなくなってしまうこともあるよう。逆に、帰りは楽かと思いきや、ペダルの速さに足がついていかなくなるくらいの追い風で、下手すると車に匹敵する速度になることも。一瞬風になった感覚を味わえるが、油断すると畑に落ちることもあるようなので、どちらにせよ命がけと言ってもいいくらいの苦労がつきまとう。しかし、そんな強風にも関わらず、なぜか「女が男を後ろに乗せてる」光景をここそこで見るというのだ。グンマの女性の強さは、こんなところにも表れているよう。

 そして、グンマで花見といえば、陸上自衛隊の駐屯地で開かれる祭。新町駐屯地の創立祭は新町さくらまつりを兼ねており、毎年桜の下で訓練展示を見ることができるという。相馬原駐屯地でも祭があるらしく、屋台も充実しているとか。災害が起こったりすると、その都度祭の規模が縮小されるので、グンマ県民は祭の成功と平和を同時に祝い、喜ぶようだ。グンマにおける花見とは「兵器・兵器・兵器ちょっと桜・兵器」。グンマに行く際に言われる「とりあえず一番いい装備で行け」には、もしかするとこういったことも関係しているのかもしれない。

 さらに、グンマの運動会では赤白といった組分けではなく、「赤城(赤)」「妙義(緑・黄など)」「榛名(黄・青・緑など)」といったグンマを取り囲む山々の名前がついた団に分かれる。ほかにも、「浅間(黄・白など)」「白根(白)」などがあるようだが、グンマ県民に「赤組? 白組?」と聞くと、大変なことになる…かも?

 上毛かるたやこれらのことを見てもわかるとおり、とにかく地元愛も強いグンマ。作中で、神月が「このよそ者がァア!!」と言われてしまうこともあるのだが、同じようにグンマを知って、愛していけば、打ち解けてくれる。みなさんも、グンマに行く際は本当の“グンマ”を知ってから向かうのが賢明かもしれない。

文=小里樹

『お前はまだグンマを知らない』(井田 ヒロト/新潮社)