人が生きていく上で必要不可欠なのが、家やマンションなどの住居です。「若い頃は賃貸、定職に就いて生活が安定してから持ち家を買う」といったプランを考えている人も多いでしょう。

かつては人生の成功者の象徴とも見られた持ち家ですが、近年では社会情勢の変化などを受け、必ずしも持ち家を手に入れるのが正解とは言われなくなっています。中には「持ち家は絶対に買うな」という意見を発信する著名人もいるほど。こうした意見により、家の購入に踏み切れない人もいるかもしれません。

果たして本当に持ち家を手に入れるのは間違いなのでしょうか。今回は持ち家と賃貸物件を費用・柔軟性・老後の面から比較。持ち家を手に入れた方がいいのか、賃貸住まいを続けた方がいいのか、自分のライフプランと照らし合せながら考えてみましょう。

【ROUND1】住居にかかる費用

持ち家、賃貸のどちらに住むにせよ、考えなければならないのが住居にかかる費用です。まずはそれぞれどの程度の費用がかかるか見てみましょう。

住む期間が長いほど持ち家が有利

持ち家と賃貸を比較する際に、真っ先に気になるのが費用面です。仮に分譲マンションを住宅ローンで購入した場合、住宅ローンの返済とマンションの管理費、修繕積立金といった支出が発生します。

一方で賃貸に必要な費用は、入居時の敷金・礼金、毎月の家賃、2年ごとの更新料です。修繕積立金や固定資産税は家主負担のため、借主は支払う必要がありません。

家賃=住宅ローン返済額とした場合、35年間同じ住宅に住み続けた場合の出費比較は以下の通りとなります。

持ち家<35年ローン返済まで>

住宅ローン返済額

(総借入額5000万、固定金利1.5%)

6429万8640円

諸経費

(物件価格×6%)

300万円

固定資産税

(年15万円)

525万円

管理費

(月1万5000円)

630万円

合計

7884万8640円

賃貸<入居から35年まで>

家賃

(月15万円)

6300万円

敷金・礼金(入居時に各2か月)

60万円

契約更新料(2年ごとに1か月)

255万円

合計

6615万円

35年ローンの完済までの期間を比較した場合、固定資産税や管理費が不要な点から、賃貸の方が住居費を安く済ませられます。

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入居50年の場合はどうなる?

では、入居もしくは物件購入から50年で比較するとどうなるでしょうか。

持ち家<35年ローン返済+15年>

住宅ローン返済額

(総借入額5000万、固定金利1.5%)

6429万8640円

諸経費

(物件価格×6%)

300万円

固定資産税

(年15万円)

750万円

管理費

(月1万5000円)

900万円

合計

8379万8640円

賃貸<入居から50年まで>

家賃

(月15万円)

9000万円

敷金・礼金(入居時に各2か月)

60万円

契約更新料(2年ごとに1か月)

375万円

合計

9435万円

住宅ローン完済後の持ち家は最も重い負担である住宅ローンが無くなるため、ランニングコストが大幅に減少。賃貸は家賃と2年ごとの契約更新料は継続して必要なため、総コストが逆転する結果となりました。

持ち家は長年住む間にリフォームを行うなら、その分は自己負担する必要があるため、費用が大きく変わる場合があります。

同条件の家なら賃貸家賃が高い

一方で持ち家と賃貸で物件の条件が同じ場合、住宅ローンの返済額よりも賃貸の家賃のほうが高くなる傾向があります。これはオーナーの意向にも左右されますが、固定資産税や管理費、修繕積立金を反映させた家賃の設定が考えられるためです。

コスト面と物件のグレード面でみれば、持ち家と賃貸は一長一短の性格を持つといえるでしょう。

【ROUND 2】柔軟性

持ち家と賃貸が比較される点のひとつに、転居のしやすさがあります。この動きやすさを含む柔軟性について比較してみましょう。

動きやすさは賃貸がリード

長い人生において、転勤や結婚、子供の独立や親との同居など、さまざまなライフイベントが発生します。そうしたイベントに応じて比較的対応しやすいのは、圧倒的に賃貸といえるでしょう。

賃貸は契約期間は2年とされていますが、あくまで契約更新のタイミングが2年ごとに訪れるだけで、ほとんどの場合いつでも退去が可能な物件ばかりです。そのため夫の急な転勤で違う地域に引っ越す必要が生まれたとしても、夫一人を単身赴任させずに家族で引っ越す選択肢がとれるでしょう。

また、ライフステージの変化に応じて変化する家族の規模に応じて、気軽に家の大きさを変えられるのも賃貸の強みです。子供がいるときは4LDKの大きな家に住み、夫婦だけになったら2LDKに引っ越し家賃を節約するといった選択も可能です。

そういった住居を選ぶ柔軟性という観点では、持ち家は賃貸に一歩譲ります。持ち家を理由に夫だけ単身赴任し、家族が離ればなれになるという家庭も少なくありません。

また子供の独立後、大きな家を持て余す夫婦の話を聞く機会もあるかもしれません。持ち家を賃貸に出し、夫婦で小さなマンションに引っ越すという選択肢もありますが、オーナーとしての管理や固定資産税の支払いといった手間は必要です。

DINKs(共働き・子なし)のように、家族の規模が変化しにくいライフスタイルを選択しているなら心配はいらないかもしれません。しかしそうでない場合には、変化に応じた家の扱いを考えておく必要はあるでしょう。

【ROUND 3】老後

持ち家vs賃貸の話において、忘れてはいけないのが老後の生活です。若い頃とは違う環境になると、住宅から受ける負担も変わるもの。体力も収入もなくなる老後では、体力がある若年時代や収入が多い壮年時代とは異なる視点で、住処の確保方法を考える必要があります。

費用負担、住みやすさの面で持ち家が安心

老後に安心できるのは、なんといっても持ち家です。仮に25歳で35年ローンを組んでいたなら、60歳で完済。固定資産税や修繕積立金、管理費といった出費は必要ですが、住宅ローン返済中よりは経済的な負担が大きく低減します。

一方の賃貸は、何歳になっても何年住んでいても、一般的には家賃が大幅に安くなることはありません。もし居住者の収入が年金頼りになっているようなら、家賃の支払いに苦労するような状況になることも考えられます。

さらには、家賃負担を理由に低家賃の物件への引っ越しをしようとしても、現実問題として、高齢者は賃貸物件が借りにくくなる傾向があります。

全国宅地建物取引業協会連合会が2018年8月に行った調査によると、高齢者の民間賃貸住宅への斡旋状況について「行っていない」が24.8%、「消極的である」が11.5%。「積極的に行っている」がわずか7.6%であり、その他は「諸状況により判断している」に留まっています。高齢者への物件斡旋に後ろ向きな業者が実に3分の1以上となりました。このデータを見る限りは、高齢者が選べる物件の選択肢は大きく狭まりそうです。

また無事に斡旋を受けられたとしても、保証会社の審査に通らず賃貸できない場合もあります。国土交通省住宅局が平成28年10月に公表した「家賃債務保証の現状」によれば、家賃債務保証会社の審査状況において50代は審査に「通りやすい」とされたのが67.9%ですが、60代では49.1%、70代は22.6%と激減。この結果からも、高齢者の賃貸契約の困難さがわかります。

十分な準備があれば快適な賃貸生活の継続も可能

老後の住処の選択肢としては、シニア向け賃貸住宅をうたう介護施設や、年齢不問・保証人不要のUR賃貸が挙げられます。どちらも高齢者の入居を前提とした施設や住居であるため、無事入居できれば快適な生活を送れることでしょう。しかし現状では入居可能な物件の数はそれほど多くなく、競争率が非常に高いのが難点です。

老後に持ち家がない人の選択肢には、前述の物件や施設の他、老人ホームへの入居も考えられるでしょう。また前述の通り選べる物件は減るとはいえ、一般の賃貸住宅への入居がまったく不可能であるわけではありません。

どの選択肢を選ぶにせよ、老後の住宅確保に向けた準備は若いうちから進めておく必要があるといえるでしょう。逆の見方をすれば、十分な備えさえしていれば、老後も賃貸の身軽さを維持できるともいえます。

持ち家vs賃貸はライフスタイルの変化次第

持ち家vs賃貸は、終わりなき論争としてこれからも話し続けられる問題です。多様性のあるライフスタイルが重視される現代において、賃貸の身軽さは高く評価。その一方で、長い人生を通じた安定感という面では、持ち家の安心感は捨てきれません。

今回は持ち家と賃貸の比較を重視しましたが、老後を考えれば子供との同居や老人ホームへの入居など、住まいを得る選択肢は多く存在します。大切なのはライフステージにあった住居の形です。持ち家と賃貸、どちらか一方だけを正解とはせずに、ライフステージの変化に応じた選択を取れるような準備を進めていきましょう。

参考資料