(沖 有人:スタイルアクト代表取締役)

JBpressですべての写真や図表を見る

 新型コロナ感染者数は誰もが驚くほど減った。そして、行動規制が解かれ、人流が急増しているにもかかわらず、感染者数は増えていない。この謎を解かなければ、モヤモヤが晴れない上に、今後どう行動したらいいのかという指針を導き出すこともできない。

 本来、これを説明する責任は、経済活動や行動の厳しい規制を主張した専門家にある。だが、一向に出てこないため、統計を使った将来予測を仕事にしている身として、明確な答えを出そうと思う。

 実は、この分析は2時間で終えられるほど簡単である。

 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料はネット上で公開されている。ほぼ毎週行われている会議の資料を見れば、時系列で状況の変化を把握することが可能だ。

 毎週、同じ表とグラフを作っているだけだが、一次情報が整理されているため、このデータを使って統計的に分析すれば、ほとんどの答えは出る。ただ、そうした分析をした形跡が見られないのは寂しい限りだ。

【参考資料】
新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00294.html)

 この資料の中に、「ワクチン接種歴別の新規陽性者」という表がある。ワクチンの接種歴を3区分(未接種、1回目のみ、2回目済み)し、その感染しやすさを明らかにしたものだ。

 感染しやすさを表しているのは、10万人あたりの新規陽性者数という数字だ。この数字は時系列に並べると、極端に数値が下がっていることが分かる。

 第5波が真っ盛りだった8月を100とすると、11月の未接種は3.4、1回目のみは8.3、2回目済みは9.4で、平均して8.0と10分の1以下。未接種の人でもピーク時の30分の1の確率でしか感染しないというのは、何を意味するのだろうか。これが、一つのポイントだ。

【関連記事】
専門家は語らない、コロナに関する不都合な統計データのすべて(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67511)
統計データが語る、次のコロナ第6波では死亡者はほとんど出ない(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67338

9月以降、新規感染者が急激に減った真の理由

 これは別のデータでも同じ様な結果になる。PCR検査の件数に対する新規感染者数の比率を1-9月と10-11月を比較すると、9割減の10.2%に減っている。極端に感染しにくくなっているのだ。

 感染しにくくなっている要因は「集団免疫」と考えられる。集団免疫とは、人口の一定割合以上の人が免疫を持つと、感染者が出ても他の人に感染しにくくなるという状況を表したもので、感染症が流行しなくなる状態を指す。

 集団免疫は感染症の種類によって、免疫獲得につながる一定割合は変わる。その免疫とはワクチンの効果そのものである。その結果が上記の数字なのだ。

 では、ワクチンの2回目接種率を集団免疫と見立てると、7月末で28%、8月末で43%、9月末で56%、10月末で67%だ。50%付近から感染者数の激減は始まり、集団免疫効果が本格化したと考えられる。

 この効果の数値化は、実効再生産数で説明すると分かりやすい。

 実効再生産数とは、「1人の感染者が次に平均で何人にうつすか」を示す指標だ。最も感染拡大していた時期は数週間平均で1.5を超えていた。コロナの発症までの期間が平均5日なので、5日おきに累乗することになる。今100人の感染者がいるなら、5日後に150人、10日後に225人(=150人×1.5)、15日後に338人、30日後に11倍の1139人になる。実際、第5波もほぼこのペースだった。

 一方、実効再生産数は1を割ると感染者数は減り始める。そして、1.5人にしか感染させられないウイルスは、半分の人が免疫を保持しているとその半分の0.75人にしか広がらない。

 すなわち、今100人の感染者がいるのであれば、5日後に75人、10日後に56人(=75人×0.75)、15日後に42人、30日後に18人になる。第5波以降の減少ペースはこのペースに近い。こうした実効再生産数を半減させたのはワクチンの接種率で説明することができる。

メディアに悲観的な情報しか流れないのはなぜか

 先ほどの「ワクチン接種歴別の新規陽性者」を見ると、ワクチンの接種歴(未接種、1回目のみ、2回目済み)で感染率はかなり違う。未接種を100とすると、1回目のみは34.9、2回目済みは7.6まで下がる。ワクチン接種を済ませば、感染率は10分の1以下にまで下がるということだ。

 日本の場合、ワクチンは4人中3人までが打ち終わっており、感染率が高いのは残りの4分の1だ。これを全国民でならすと、ワクチン接種を始める前と比較して、現状の感染率は7割減の30%まで下がっている。

 また、ワクチンには重症化率を下げる効果もある。10月の死亡率ワクチン接種開始前の5月以前と比較すると、これも10分の1に相当する9.7%まで下がっている。これを、未接種もいる全国民でならすと、重症化率は6割減の38%になる。

 ちなみに、重症者の死亡率は直近の数字では89%に上る。重症化したら、この病気は専用の薬がないので生還することはほぼ難しいため、重症化しないことが大事である。

 もちろん、ワクチンには賞味期限があり、接種後、いつまでも効くわけではない。この点についても、数字を算出することができる。

 未接種の人に対する2回目接種済みの感染率は最近悪化しており、8月6.0%、9月8.1%、10月12.3%、11月16.4%と月を追うごとに悪くなっている。ただ、これはあまり気にする必要はなく、「ワクチン接種歴別の新規陽性者」にある7.6%という数字を信じた方がいい。

 なぜなら、この間、集団免疫が機能し始め、感染率が以前の8%まで急減しているからだ。集団免疫の効果は、未接種ほど大きかったと捉えた方が的確な現状把握になる。

 メディアから流れるニュースはあくまでも二次情報で、一次情報に当たるのはアドバイザリーボードなどの資料だ。二次情報は必ずバイアスがかかる。自粛要請している国民の気が緩むと考えているのか、メディアには原則、楽観的な情報は流されない。

 これは、随分と国民をバカにした話だと思う。国民は現状を正確に把握し、どの施策が効果を出していて、どう行動したら安全な社会生活を取り戻せるかを真剣に考え、取り組んでいる。そのために、事実を正確に伝えてほしいだけだ。その内容は、私が専門家ならこう伝えると思う。

再評価すべき菅政権の功績

ワクチン接種にご協力いただいたお陰で、日本国民は集団免疫を獲得し、感染率は以前10分の1になりました。ワクチンを未接種の方の感染率もこれによって大きく下がっています。これに加えて、ワクチンを接種いただいた方は新規感染率が未接種の方と比較して7.6%まで下がっており、これはダブルの効果があります。重症化率もワクチン接種で10分の1になっており、死亡者数も減っています。

 これら3つの相乗効果で、死亡者数は直近1週間(11/19~25)で日に1.6人まで下がりました。今後も、当面は下がることが予想されます。

 インフルエンザが年間3000人以上亡くなっている中、新型コロナははるかにそれ以下の水準に抑えられています。この状態を継続するためにも、これまで同様の感染防止対策は続けていただきたく存じますが、生活やお仕事はコロナ前の状態に戻していただいて構いません。

 現状では、ワクチン接種済みの方の感染率が上がってはいませんが、3回目のブースター接種の準備は進めています。集団免疫やワクチンの効果が薄れてきたことは数値で把握できていますので、ブースター接種が必要になった際には速やかにご対応願いたいと考えています」

 現在のコロナの感染状況はワクチン接種が最も効果的だったことは明らかだ。それを強力に推進したのは菅政権だった。

 マスクや手洗いなどの受け身の感染予防対策に終始していた私たちの状況を打開すべく、ファイザーの最高経営責任者(CEO)に直談判し、ワクチン担当大臣を任命し、毎日100万人という数値目標を達成し、結果を出したのである。

 ワクチンの効果は未知数だったかもしれないが、大事なのは自分たちができることの中で最良の選択をすることにある。それは、現時点でもワクチンしかない。これによって、最悪の5月には2819人の死者を出していた状況が、日に1.6人まで激減しているのだ。

 このワクチンの施策の速やかな実施が少なくとも数千人の命を救ったことは間違いない。その尽力には一国民としてお礼を言いたい。確かに、菅首相への不満を持つ方もいるかと思うが、公約の「国民のために働く内閣」の爪痕の一つとして、コロナ対策の的確な対応は記憶されてもいいと考える。

 現在、世界を揺るがしているオミクロン株の感染の強さは明らかになっていない。ワクチンの効果を減じるほどの感染力を有している場合、再び感染者が増大する可能性はもちろんある。だが、日本における新規感染者の急減がワクチン接種に伴う集団免疫の獲得と分かった以上、打つべき対策も明らかだろう。これ以上、いたずらに危機をあおるのはやめていただきたい。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  天皇になろうとした男・道鏡が、女帝を虜にした手練

[関連記事]

戦後の韓国はなぜ貧しかったのか? 活用されなかった日本の資産

「中華」に対する屈従と日本に対する病的な「反日」の共通点

南アフリカでは、新変異株「オミクロン株」が確認された(写真:ロイター/アフロ)