食べ終わったあとに初めてお金が足りないことに気づいたのか、それとも最初から無銭飲食するつもりだったのか——。北海道小樽市の飲食店を利用した男性(47)が、料金を支払えないことを知りながら飲食したとして、北海道警に詐欺の疑いで逮捕された。

北海道放送11月22日)によると、この男性は11月21日小樽市内のジンギスカン店に1人で入店し、2時間ほど飲食。料金は3200円だったにもかかわらず、所持金が1100円しかなかったため、店員が警察に通報し、駆けつけた警察官にその場で逮捕されたという。

男性は、警察の取り調べに対し、「支払うときにお金はなかったけど、払う気はあった」などと話し、容疑を否認しているようだ。

今回のケースに限らず、所持金が足りないことを知っていたのであれば、どれだけ「払う気があった」と主張しても通用しないだろう。しかし、食べた後に財布がないことに気づいて、支払いたくても支払えないというケースもないとは言えない。そのような場合でも詐欺になってしまうのだろうか。 清水俊弁護士に聞いた。

●詐欺にならない場合もある

——結果として無銭飲食になると、どのような場合でも詐欺になってしまうのでしょうか。

詐欺罪とは、欺罔(ぎもう)行為によって、相手方を錯誤に陥らせて財物を交付させることをいいます(刑法246条1項)。財物以外の財産上の利益(債権など)を得た場合は、いわゆる「2項詐欺」が成立します(同条2項)。主観的には欺罔行為の時点で故意が必要となります。

無銭飲食を例に取ると、会計の段階で初めて財布がないことに気づいた場合、それだけでは詐欺罪にはなりません。

なぜなら、注文した時点で詐欺の故意、つまり支払いを不法に免れる意思がなければならないところ、注文した時点では財布があると真に思っていたのであればその故意に欠けるからです。

——会計の段階で初めて財布がないことに気づき、「家にお金を取りに行ってくる」などと嘘をついて支払いを免れ、そのまま逃走した場合はどうでしょうか。

そのような場合は2項詐欺が成立します。「家にお金を取りに行ってくる」という嘘で相手を錯誤に陥らせて、飲食代金(債権)という財産上の利益を得ているからです。

なお、嘘をついた時点で詐欺罪の実行の着手があったといえるので、たとえ相手が嘘だと見抜いて錯誤に陥らなかったとしても、詐欺未遂罪が成立します。

詐欺罪の立件が難しいと言われる所以は、当初から詐欺の故意があることを立証するのが難しいからです。

お金の貸し借りなど、何度か返済した後返済が滞った場合、当初からそのつもりで借りていた場合には詐欺罪が成立しますが、借りた後に支払い不能の状態(意思も含めて)になった場合には、詐欺罪は成立せず、債務不履行という民事上の責任しか発生しないのです。

——無銭飲食のケースで詐欺罪が成立しない場合も、民事上の責任は発生するということでしょうか。

はい、食べた物に対する民事上の代金支払義務を免れるわけではありません。

ただ、今回のケースの飲食代は3200円のようです。一般的に1万円もすれば飲食代としては高い方だと思いますが、そのくらいの金額の代金を請求するために、飲食店側が弁護士に依頼し、民事裁判をすることが実際にできるでしょうか。仮に自力でやるとしても、労力やコストを考えると割に合うとは言えません。

刑事事件化すれば示談の可能性も少なからず出てきますが、刑事事件化できなければ事実上泣き寝入りせざるを得ないのが現実のように思います。そういう意味では、店側としても、注文時に決済するシステムの導入など無銭飲食を未然に防ぐ仕組み作りが必要なのかもしれません。

【取材協力弁護士】
清水 俊(しみず・しゅん)弁護士
2010年12月に弁護士登録、以来、民事・家事・刑事・行政など幅広い分野で多くの事件を扱ってきました。「衣食住その基盤の労働を守る弁護士」を目指し、市民にとって身近な法曹であることを心がけています。個人の刑事専門ウェブサイトでも活動しています(https://www.shimizulaw-keijibengo.com/)。
事務所名:横浜合同法律事務所
事務所URL:http://www.yokogo.com/

所持金1100円の男性、ジンギスカン店で3200円分飲食して逮捕…「支払う気はあった」でもダメ?