職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知って欲しい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。

連載の第6回は「退職勧奨の対処法」です。笠置弁護士は「退職に安易に応じ、退職合意書や退職届を出してしまうことは絶対に止めましょう」と呼びかけます。では、会社からの提案に対して、どう対応すれば良いのでしょうか。

●会社側は用意周到に退職勧奨マニュアルを準備している

コロナショックの中で、全国でのコロナ関連の解雇・雇止めが2021年11月時点で12万人にも及んでいるという報道がありました。ここには会社から退職を勧められたり強要されたりして、自分から辞めるように仕向けられた方たちは含まれていません。

各企業では、昨年以降リストラの嵐が吹き荒れています。実際、私のもとには「会社からリストラされそうだ」、「突然肩たたきにあったがどうすればよいのか」、「明日退職勧奨の面談が設定されているがどう対応した方がよいか」といった相談が相次いでいます。

第1回目のコラムでもご説明したとおり、会社側は用意周到に退職勧奨マニュアルを準備し、会社側の面談担当者に退職の進め方を徹底的に教育しているケースは大変多いです。

他方で、従業員側からすれば、突然呼び出され、予想もしなかった話をされるため、混乱してしまうことになります。気持ちの整理がつかないまま、流されるままに会社の言いなりに対応してしまうと、取り返しのつかないことになりかねません。

●退職勧奨3つのパターン

それでは、退職勧奨にあった場合、どのような対応を心がけるべきなのでしょうか。

もちろん、ベストな対応策はケースに応じて異なってきますから、対応に困った場合には労働問題を扱う弁護士などの専門家にすぐに相談するべきですが、ここでは代表的なパターンを以下の3つに分けて、それぞれの場合における基本的な心構えを解説したいと思います。

(1)脅迫型:懲戒解雇や普通解雇をちらつかされながら退職を迫られている場合
(2)いじめ型:追い出し部屋に隔離されたり、仕事を取り上げられたり、毎日のように面談を強要されるなどして自主的に辞めるよう仕向けられている場合
(3)目標設定型:上司や社外の人材会社の担当者等から実現不可能な目標を設定され、実現できなかったことを理由に低評価に追い込まれ、自主的に辞める方向に誘導されていく場合

3つの類型はあくまで代表的なパターンであり、それぞれが複合するケース(3や2の後に1が行われるなど)もありますし、脅迫もいじめも目標設定もないまま、単に退職勧奨が行われる場合もあります。

●「脅迫型」退職勧奨

(1)の場合ですが、果たして会社は本当に有効な解雇をなしうるのかをよく疑ってみるべきです。

懲戒解雇は「労働者に対する死刑宣告」と言われることもあり、懲戒解雇を有効に行うためには極めて厳しい基準をクリアする必要があります。

能力不足を理由とした解雇を行うにも、何度も適切な指導を繰り返したり、配置転換をしたりして業績改善の機会を与えたにもかかわらず、重大なミスが続いたといったかなり厳しい基準をクリアしなければなりません。

むしろ、その時点で解雇をしてしまうと敗訴してしまうことを会社の方がよく知っているからこそ、自主的に辞めるように仕向けている可能性が高いとみるべきです。

会社が解雇をちらつかせてくるのであれば、解雇の根拠をよく聞きだし、なるべく書面で明らかにさせるべきです。面談の様子は、できれば録音をしておいた方がよいでしょう。

その状況を専門家に伝え、果たして会社がちらつかせている解雇が法律上有効なものなのかどうかをよく検証しましょう。仮に解雇された場合に、法律上、違法無効となる疑いが強いということなのであれば、会社の言いなりになる必要は全くありません。

堂々と自らが考える主張や条件(退職勧奨には応じない、退職には応じないがこのような条件であれば応じても良いなど)を述べればよいのです。

脅迫もいじめも目標設定もないまま、単に退職勧奨が行われる場合にも、会社側がターゲットとなる従業員に不満を述べてくることが良くあります。その場合にも、よく会社の主張を確認し、記録しておいた方がよいでしょう。

退職勧奨に応じず、万が一解雇された場合、会社が裁判などで主張してくる解雇理由が何なのかを先んじて知ることができますから、対策が取りやすくなります。

●「いじめ型」退職勧奨

(2)の場合ですが、暴行を加えられたり、「馬鹿野郎!」「給料泥棒!」などの人格攻撃を執拗に加えられるということであれば、即違法なパワハラ行為であるということになるわけですが、そのような荒っぽい手段であるとは限りません。

即違法にはならないような精神的な圧迫を加えてくるケースは、相当多いように思います。会社から受けた対応については、後から証明できるように必ず記録につけるようにし、必ず専門家の意見を求めましょう。これも面談については録音をとった方がよいでしょう。

いじめ型は、たった一人がターゲットになるケースは少なく、多くは大人数がターゲットになっていることが多いため、同じような被害に遭っている方たちが可能な限りまとまって社内外の労働組合に相談し、介入してもらうことは非常に有効な手段です。

●「目標設定型」退職勧奨

(3)の場合ですが、人事査定が低い事実が会社により作出されていくというものです。

例えば、これまで理系の技術を専ら担当していた腰痛持ちの管理職の方に、いきなり力仕事を任せてみたり、コーポレート部門の方に営業成績を求めてみたり、必ずしも語学が得意でなく技術にも詳しくない方に、大部の英文の技術仕様書をもとに社内マニュアルを日本語で作成させるといった事例を目にしたことがあります。

この場合、よく行われるのが、反省文や始末書を書かせるというものです。つまり、労働者としても自らの能力が不足していることを自認するような証拠を会社が作ろうとしてくるわけです。このような要求に安易に応じてはいけません。

これについても、サインをしてしまう前に、会社の対応を記録しておき、必ず専門家の意見を求めましょう。この場合にも、たった一人がターゲットになることは少ないため、大人数で社内外の組合にヘルプを求めるということは非常に有効です。

いずれの手段で行われるにせよ、退職に安易に応じ、退職合意書や退職届を出してしまうことは絶対に止めましょう。会社からの提案については、必ず持ち帰って冷静に検討するようにしてください。会社が持ち帰りを許さず、面談室に監禁されるような場合には、警察を呼ぶことも検討した方がいいかもしれません。とにかく会社の社屋内ですぐに大きな決断をしてしまうことは避けるということは肝に銘じておきましょう。

(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」では、笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)

【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「労働相談実践マニュアルVer.7」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/

「退職勧奨」よくある3つのパターン、労働弁護士が対処法を解説