(数多 久遠:小説家・軍事評論家、元幹部自衛官)

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 2021年11月16日、空自横田基地の公式ツイッターアカウントが1日の食事を紹介して話題となりました。

 下の画像をご覧ください。少々貧相に見えます。中には「刑務所か?」という反応もあったほどです。

 もちろん、メニューは栄養士が検討したものなので、必要な栄養はとれているでしょう。しかし、食事は必要な栄養がとれれば良いというだけではなく、ある意味エンターテイメントでもあり、心をリフレッシュさせるためにも重要なものです。横田基地が紹介したこの食事に「もう少し何とかできないの?」という感想が出るのも当然です。

「糧食」(自衛隊の食事)は万人にとって親しみを持ちやすい上、機密事項に触れる可能性がないため、自衛隊公式アカウントが積極的に取り上げ、その多くが好意的に話題にされています。それだけに上記の横田基地アカウントによるツイートは異色であり、窮状を訴えるためのものだったようにも見えます。

 ツイートの真意は分かりませんが、糧食の背景を知る元自衛官として、なぜ基地ごとに差があるのかを紹介したいと思います。

自衛隊の厳しい糧食費

 上記のツイートに反応したのか、3日ほど後になって前防衛大臣の河野太郎氏がブログで糧食費の見直しを行ったことを書いていました。このブログによると、1人1日あたり、874円だった陸上勤務員の糧食費は、2019年度から899円と25円増額されています。また、栄養に関する基準も見直され、その結果として来年(2022年)度から932円まで増額されることが決まっているそうです(艦艇、航空機搭乗員などはさらに高い額になっています)。もしかすると、ツイートに対する批判が、河野氏に飛び火することを警戒したのかもしれません。

 ただし増額されたとしても1日1000円以下です。この金額に驚く人もいるかもしれません。この糧食費には給養員の人件費などは含まれていないので異様な額とは言えませんが、相応の大量調達を行う、言わば卸値で買うことを前提とした糧食費であるため、肉体労働を強いられる隊員を満足させるための原材料費として厳しい額であることは否めません。

食事がおいしい基地、そうでない基地

 昔から「〇〇基地は飯がおいしい」「××基地はダメだ」という評判は、よく耳にしました。実際、複数の基地で食べてみると、その評判はうなずけるものでした。

 飯がマズイと言われる基地は、当然、改善のための努力をしています。最近では、自衛隊の給養がメディアに出ることも増え、メニューの考案などに積極的に取り組んでいるケースも増えています。

 それでもやはり、評判の悪い基地は相変わらず「おいしくない」ままです。その理由は、同じ基準で糧食費が支給されても、基地ごとに条件が異なるためです。条件の差異を改善努力では埋められないのです。

 たとえば埼玉県にある入間基地は、食事がおいしいとされる基地です。空自屈指の巨大基地であり、多くの隊員が隊員食堂で食事します。そこで使用される食材は膨大で、納入する契約業者は、メニューに応じて要求される材料を毎日大量に納品しています。一般のレストランでは比較にならないほどの量です。業者としては、大量の食材を毎日欠かさず納めることになるので、非常に“うまみ”のある契約となります。

 そのため契約業者の入札は激しいものとなります。もしも、納品した食材に不具合(傷んでいた、異物が混入していた、など)があれば、翌年の入札で除外される可能性も出てくるため、不具合の発生時には菓子折を持って駆けつけてくるという話も耳にしたことがあります。

 一方、僻地の分屯基地の多くでは、勤務する隊員数がそれほど多くなく、食材を納品できる業者が周辺地域に1社しかないという基地もあります。少し離れた市に複数の業者があったとしても、基地開設時の自治体との覚書があったり、地域振興などの見地から、他地域の業者への発注に制限がかけられることも珍しくありません。結果的に、そうした基地では、糧食費が他の基地と同じ金額であっても、納められる食材の量、品質で不利なのです。

 本記事執筆にあたり、この問題を防衛省に問い合わせたところ、糧食費は基地等の特性を考慮した上、年度ごとに定めているとのことでした。上記の調達条件だけでなく、出張による来訪者の人数や、基地外に居住し有料で喫食する隊員数なども考慮して、基地ごとに配分しているようです。

 しかしながら、実際に基地間の格差があり、それが埋まらないということは、それぞれの基地の特性の考慮が足りないのかもしれません。

 冒頭でツイートを紹介した横田基地にあるのは、司令部や情報関連部隊などです。基地業務を行っている作戦システム運用隊の他、航空総隊司令部などの所在部隊は、規模も大きくない上、部隊の特性上、年齢の若い隊員が少ないため、常に隊員食堂で喫食する営内者の数は少数でしょう。それゆえ必要とされる食材の量は多くなく、都内の基地とはいえ、食材調達の上で条件の良い基地ではないかもしれません。

格差是正の方法は?

 自衛隊では、適切な食事が提供されているか確認するため「喫食検査」というものが行われています。検査は基本的に毎日行われ、給養業務を行っている部隊の上級部隊の長である基地業務群司令などが喫食検査官として確認しています。

 しかしながらこれは各基地で行っているものであり、また上記の食材調達の問題点を知っている者が検査を行っているため、それぞれの基地で提供される食事の平均化を図る機能はまったく果たしていません。

 現在は各基地の情報発信が活発になり、ツイッターで食事を紹介しているほどです。実際に食べることは不可能でも、画像を送信して全国共通の基準で評価することは容易なはずです。こうした共通の検査を行い、食材調達の上で不利な条件にある基地に対しては、それを考慮した糧食費の支給を行う配慮も必要でしょう。

 異動の命令を受けた隊員が「あそこは飯がマズイから嫌だ!」などという言葉を口にすることがないようにするべきです。

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