ボーイングで開発が進められる超大型旅客機777X」。この機体の特徴といえば「折りたたみ式の主翼」です。なぜこのような機構が採用されているのでしょうか。実はこの機構、昔から温められていたアイデアともいえるのです。

そもそも主翼を大きくするメリットとは?

2023年に就航が予定されているボーイング社の大型旅客機777X」。2021年現在、国内航空会社でも主力機のひとつとなっている「777」の派生型にあたりますが、従来タイプと比べると抜本的な設計変更が施されています。

777Xの胴体のサイズは従来型の777よりも一回り大型化。全長については、ジェット旅客機としての最長記録を塗り替え、77mとなります(777-9の場合)。横幅についても、従来型の777(64.8m。777-300ERの場合)より大型化し、約72mに。そして、この大型化にともなって、主翼の翼端が上方向に「折り畳める」ようになっているのです。なぜこのような機構が採用されているのでしょうか。

そもそも、なぜそこまで翼の幅を大きくしなければならないのか、というところから見ていきます。

長距離国際線を飛ぶような大型のジェット旅客機の場合、航空会社などからシビアな飛行性能が要求されます。とくに“燃費”は、航空会社のコストと直結するので、なおさらです。そのため航空機メーカーでは、新機種を出すとなると、燃費効率に優れた最新エンジンを搭載する、機体の空気抵抗をより小さくするといった対応に追われます。そのほか、長距離タイプでは、燃料を多く積めるようにする設計変更なども実施されることがあります。

実は機体の空気抵抗をより小さくする工夫には、これまでの研究により、ある程度“法則”ができています。

旅客機が受ける空気抵抗は、仮に同一速度帯の場合、空気が触れる面積と、空気の流れの滑らかさ、主翼の形状などで変化します。ごくシンプルに言ってしまうと、「翼を大きくすると空気抵抗が減る」ということがこれまでの研究でわかっているのです。なので、777Xも翼を大きくすることで、空気抵抗を減らし、燃費効率の良いフライトを達成しようという狙いでしょう。

「折りたたみ式主翼」はなぜ生まれたのか

ジェット旅客機の場合、空に飛び上がってしまえばどんなサイズでも大きな支障は発生しないでしょう。ただ、機体を受け入れる空港側はそうはいきません。

駐機場をはじめとする空港施設は、横幅がある一定の大きさを超えてしまうと、その機体のためだけに施設を拡大せざるを得なくなってしまうのです。このボーダーラインとされるのが「翼幅65m」。翼幅は全幅とほぼ同意義です。ICAO(国際民間航空機関)では、機体の大きさを「コードA(もっとも小さい)」から「コードF(もっとも大きい)」に分け、そのコードごとに空港設備の要件を定めています。

超大型を意味する「コードF」は、翼幅65m以上と定められています。ちなみに2021年現在、「コードF」の旅客機は、エアバスの総2階建て旅客機A380」のみです。

一方777Xの折りたたみ主翼は、畳んだ状態だと従来型の777とほぼ同じ65m弱まで全幅を抑えることができます。つまりギリギリ「コードF」の旅客機になることを避けられるのです。地上にいるときは既存の空港設備をそのまま使うことができ、飛ぶときには大きな翼で効率的な飛行をする――といういいトコ取りの旅客機といえるでしょう。

ちなみに、この「折りたたみ式主翼を旅客機に実装する」という発想自体は、実は過去にも例があります。この機構を備える予定だったのが、何を隠そう従来型の「ボーイング777」でした。

初代「折りたたみ式主翼」はなぜ頓挫?

従来型777の「折りたたみ式主翼」は、777Xのように標準装備ではなく、航空会社がオプションで設定できました。ただ、結果的には航空会社からのオーダーが獲得できずに頓挫しています。

航空会社から見るとこのオプションは、折りたたみ部分の機構と強度、重量などが未知の領域であったことや、「ジャンボ・ジェット」が大ヒットしたため、多くの空港で、大きな改修をせずに777を受け入れられる体制がすでに構築されていたことなどが、オーダーがなかった一因としてあげられるでしょうか。

なお一方で、軍用、とくに航空母艦搭載機の世界においては、「折りたたみ式主翼」は、収容スペースを少しでも有効に使用できる一般的な仕様といえるでしょう。

たとえばF-4「ファントムII」、F/A-18ホーネット」などは主翼をたためますし、F-14「トムキャット」などの可変後退角翼なども、純粋な折りたたみ式主翼ではないものの、同じ意味があるといえるでしょう。ちなみに、「折りたたみ式主翼」を持つF-8クルセイダー」は、なんと、翼を折りたたんだまま発艦してしまったこともありました。

777Xにハナシを戻すと、同機は折りたたみ式主翼を搭載したまま、就航する可能性が濃厚です。また、国内でもANA(全日空)が発注していますので、将来的には、日本でもそう珍しくはない旅客機になるのかもしれません。

ただ、実用化に向けては、さすがに構造的な点はクリアしているとは思いますが、実際の空港でどう主翼をオペレーションするか、ということもポイントになりそうです。おそらくコクピットから主翼を肉眼で見ることは困難でしょう。ちなみに、翼をたたむスイッチはレバータイプで、結構シンプルなもののようです。

そうなると、どのタイミングで翼端を地上で変形させるのか、それを誰がどのような方法で確認するか……など、どうコントロールしていくのかが注目されます。

翼を畳んだ状態のボーイング777X(画像:ボーイング)。