(羽田 真代:在韓ビジネスライター)

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 11月26日、韓国・京畿道(キョンギド)教育庁が北朝鮮の子供たちの学校生活を紹介する漫画を公式インスタグラムに投稿したところ、「北朝鮮を称賛している」という批判が国民から相次ぎ、投稿わずか20時間で削除するといったトラブルが起きた。

 京畿道教育庁はこれまでにも、学校で起きた出来事を漫画にしてSNSに投稿してきた。

 今回、批判を受けた漫画は「北朝鮮の友達がうらやましい!」と題したもので、全10カットで構成されていた。SNSには合わせて「#教育青春」「#北朝鮮の友達がうらやましい」というハッシュタグもつけられており、わざわざハッシュタグをつけた点にも、批判の声が集まっている。

 この漫画は、京畿道のある小学校2年生の担任教師が、京畿道教育庁に送ったエピソードを基に作られている。

 この教師は、授業の中で韓国の学校と北朝鮮の学校の違いを紹介した上で、「北朝鮮では給食がなく、代わりに持参した弁当を食べるか、昼食時間に家に帰って食事をする」と説明した。また、北朝鮮の学校行事を紹介するため、教師は子供たちが遠足や運動会に興じている写真を子供たちに見せたという。

 韓国では、新型コロナウイルスの影響でこの2年間、登校することすらままならなかったことから、子供たちは北朝鮮をうらやましく感じただろう。

 この教師はさらに、北朝鮮では「先生が一度担任を受け持てば、生徒らが卒業するまで変わらない」と説明。それを聞いた子供たちは「うわぁ~。僕は本当に北朝鮮に行きたい」「行きたい人、手を上げて〜」と反応した。漫画には、子供たちの反応を見た教師が感動して目を潤ませる場面まで描かれている。

 冒頭でも述べた通り、この漫画はSNSに投稿されてから、わずか20時間で削除された。

 中央日報系のJTBCニュースによると、京畿道教育庁関係者は、「誤解を招く文句が含まれていたために削除した」と説明した上で、「今後は慎重に判断し、誤解を与えないようにしたい」と言及した。

 ただ、投稿された漫画を見ると、誤解などどこにもないことが確認できる。

北朝鮮国旗を模した広場を作った安城市の真意

 問題となった漫画は削除されたが、既にキャプチャーされているため、インターネット上で拡散されている。これを見た韓国人は、「強制労働を住民に強いる北朝鮮を美化し、純粋な子供たちを洗脳している」と、漫画を作成した京畿道教育庁の異常さを指摘している。

 11月29日には、「敵国を称賛する京畿道教育庁、正しい教育ですか?」というタイトルで、大統領府の国民請願も作成された。国民請願とは、30日間に20万人以上が推薦した請願について、政府と青瓦台の関係者が回答するという制度だ。

 この国民請願には、「京畿道教育庁が掲載した漫画は反国家団体を称賛する内容で、国家保安法違反にあたる」「子供たちに北朝鮮を称揚、鼓舞する宣伝物を見せ、教育することは国が滅びることにつながる」と書かれており、30日16時時点で1000人を超える賛同者を得ている。

 京畿道は、与党「共に民主党」の次期大統領候補である李在明氏が10月25日まで知事を務めていた地域だ。知事時代には、旧友の文在寅大統領を後押しするため、「日本戦犯企業ステッカー条例」を提案し、京畿道下の各学校が保有する特定の日本企業製品にステッカーを貼り付けることを立案した。

 京義道と言えば、以前にも北朝鮮関係で国民から批判を浴びたことがあった。

 京義道・安城市にあるネヘホール広場を上空写真で確認すると、広場自体が北朝鮮の国旗「人共旗」の形になっていることが分かる。ネヘホール広場は2004年に安城市が7784平方メートルの敷地を造成したもので、造成当時には人共旗はなかったが、広場内のブロックが毀損されたことなどを理由に、2015年にブロック全体を交換する補修工事が行われた際に、人共旗を模したとされる現在の姿へと変わった。

 韓国内で、この人共旗騒動が勃発したのは補修工事が完了してから3年後の2018年だった。この時、安城市は「広場が広いため、ポイントを加えるために星模様を入れただけで、北朝鮮を意識したわけではない」と人共旗との関連性を否定した。

 参考までに、補修工事が行われた時の安城市長は保守の「セヌリ党」所属の黃銀性市長だった(市長在任期間は2014年7月~2018年6月、現在は「国民の力」に所属)。彼は在任中に、北朝鮮脱北者を集めた懇談会を開くなど、積極的に北朝鮮と関わっている。

「脱日本」には賛成も「親北」には慎重な韓国人

 また、安城市には「ハンギョレ中・高等学校」といって、脱北青少年が脱北過程で受けた心理的トラウマを治療し、長期間にわたる未学習のフォローと韓国生活に適応できるよう援助するために設立された学校も存在する。「ハン=ひとつ」「キョレ=民族、同胞」で「ひとつの民族、同胞」という意味だ。

 保守派の黃銀性市長が北朝鮮に積極的に関わろうとしたのは、恐らく支持者確保のためだろう。京義道はもちろん、安城市も左派色が濃い地域で、保守の黄銀性市長が市長を務めるには、北朝鮮にまつわる支援が必須であった。

 また、文在寅大統領が掲げた公約の中に、「生活密着型脱北者定着支援」がある。黃銀性氏が市長に就任した直後の2017年7月には、趙明均・統一部長官が安城市にあるハナ院(北朝鮮脱北者住民定着支援事務所)の大講堂で、「新しい公約をもとに政府が脱北者を支援する」と訴えている。

 このように、北朝鮮との関わりが深い安城市に、北朝鮮国旗を模した広場が誕生したのは偶然ではないと考えるのは、うがった見方だろうか。

 なお、2019年には第21代総選挙に出馬した「共に民主党」議員のヤン・スンファン氏がこの場所で出馬を宣言した。安城市を地盤に置く左派議員にとって、この広場は聖地なのだろう。

 折角なのでもう一つお伝えしておくと、このネヘホール広場には2018年に慰安婦像も設置された。日本統治時代の朝鮮の独立運動「3・1運動」の99周年を記念して設置された像で、合わせて参加市民の名を刻んだ記念碑や安城市慰安婦像を設置するに至った経緯を綴った案内板も設置されている。

 政権を握っている「共に民主党」は左派政権のため、文在寅大統領誕生後は、北朝鮮を称賛し、日本を排除しようとする動きが活発だった。

 ただ、「ボイコットジャパン」に参加していた韓国民の中には、「脱日本」には積極的に参加するが、“親北”には慎重な考えを示す国民も少なくなかった。北朝鮮を称賛する漫画やネヘホール広場に描かれた人共旗を批判する国民は、親北政策を繰り広げる文政権を批判的に見る国民たちだ。

北朝鮮に似ている文在寅政権の洗脳手法

 韓国の教師には親北派の人間が多いとされている。全国教職員労働組合(全教組)が統一教育と銘打って、洗脳教育に積極的に取り組んでいるからだ。今回、漫画のモデルになった教師も、日頃から北朝鮮を美化した洗脳教育を子供たちに行っているのだろう。

 しかし、純粋な子供たちを相手に、北朝鮮を美化するような教育を京義道教育庁が手引きしていたとは驚きである。文政権による左派化は想像以上に深刻だ。

 北朝鮮が「金正恩首領は最高の指導者だ」「北朝鮮は素晴らしい国だ」と自国民を洗脳教育するのと変わらない。親北政権だけあって、文政権の取る洗脳手法は北朝鮮そっくりだ。

 日本の朝鮮学校出身者で、今は韓国に住む友人にこの内容を伝えたところ、「教室に金日成金正日の肖像画が掲げられていれば完璧だ」と話した。友人はさらに、「赤いネクタイ(スカーフ)の少年団も隠れキリシタンのように存在するのでは?」と冗談交じりに述べた。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  おいしいけれど重労働、韓国の「キムジャン」を知っていますか?

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