自衛隊が相手国のミサイル発射基地などをミサイルロケットで攻撃する「敵基地攻撃能力」の保有をめぐり、政府内で議論が高まっている。背景には、北朝鮮や中国、ロシアなどの日本を狙うミサイルの技術が大幅に向上し、従来のミサイル防衛システムでは対処できないようになってきた状況がある。元陸上自衛隊幕僚長の岩田清文氏に、自衛隊が敵基地攻撃能力を保有する必要性の有無と課題について語っていただいた。(前編/全2回)

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(吉田 典史:ジャーナリスト

防御できない極超音速滑空ミサイル

──この二十数年、日本は偵察衛星海上自衛隊イージス艦航空自衛隊PAC3を配備し、ミサイル防衛システムを整備してきましたが、これらでは北朝鮮や中国、ロシアミサイルに十分には対処できないのでしょうか?

岩田清文氏(以降、敬称略) ええ、不十分なのです。ミサイルには様々な種類があるのですが、1つの兵器ですべてに対処できる時代ではありません。

 例えば弾道ミサイルの場合は、発射後、射程にもよりますが、高度数1001000キロの宇宙空間に出て頂点に達したあたりでロケット噴射を止めます。その後は、放物線を描くように速いスピードで自然落下してきます。従って何分何秒後にこの付近に位置する、と予測することができます。それをまず、イージスシステム搭載艦で撃破し、できなかった場合はPAC3で迎撃するという2段階で対処します。

 例えば射程約1800キロの弾道ミサイルであれば、秒速4km程度(マッハ約11.8)で飛翔します。これに対しては日米共同で開発したSM-3ブロック2Aミサイルが、弾道計算された迎撃点に向け、高速でほぼ直進して撃破するのです。

 ちなみにこの2段階のミサイル防衛システムで、弾道ミサイルの飛来から国内の重要な地域や場所を守ることはできるのですが、日本本土隅々までを確実にカバーするのは難しい。さらには数の問題もあります。有事の際には大量に撃ち込まれる可能性が高い。すべて撃墜することができない場合があるかもしれません。大量のミサイルにどう対処するか、といった問題は依然として残っています。

 もう1つ対応を考えるべきミサイルは、近年、中国やロシアが急速に開発を進める極超音速滑空兵器です。大気圏内においてもマッハ5以上の極超音速で飛行し、高度数十キロの低空でジグザグに進路を変えるため、弾道ミサイル防衛用に配備した地上レーダーで捉えたり、追跡したりすることが難しいと言われています。弾道ミサイルのように何分何秒後にどこに位置する、と予測することができない。おそらく、世界の国々でこのサイルを撃墜する対空ミサイルは存在しないと思います。自衛隊の2段階のミサイル防衛システムでも極めて難しいと言わざるを得ません。

──英紙フィナンシャルタイムズが、中国が核弾頭を搭載可能な極超音速兵器の発射実験を今年(2021年)8月に行っていたと報じました。また米CNNは、この実験で発射したミサイルは地球を1周した後、極超音速滑空体を中国国内の目標物に投下したと報じています。

岩田 中国の極超音速兵器開発について、米軍トップマーク・ミリー統合参謀本部議長が、1957年旧ソ連人工衛星を人類史上初めて打ち上げた「スプートニクショック」の衝撃を例に出して「極めてそれに近いと思う」と語ったとアメリカや日本のメディアが報じています。

 米軍のミサイル防空システムは米ソ冷戦の頃から、北極圏方向からロシア(ソ連)のミサイルが飛来することを想定し、ノ―ラッド(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)などでミサイルの発射警戒や動向監視を行ってきました。今回の実験で地球1周をしたと報じられた中国のミサイルは、仮にアメリカ本土を狙う場合、南極を回り、メキシコ方向から向かうはずです。私の推測ですが、米軍のミサイル防空システムの多くは北極圏に重点指向されている可能性が高い。南を向いているのは少ないのではないかと思います。つまり、撃墜するのが難しい兵器である極超音速兵器が、防衛体制が手薄なところから飛来する。これが、米軍からすると大きな衝撃だったのでしょう。アメリカですら対処できないミサイルが開発されたのです。

 これは、日本がアメリカに頼るだけでは国家や国民を守り抜くことが難しい状況になったことも意味します。

 日本の2段階のミサイル防衛システムは、拒否的抑止と言えます。飛来したミサイルを受動的に撃墜する抑止なのです。一方で、相手の基地への攻撃など懲罰的抑止は米軍にすべてを依存してきました。しかし、極超音速兵器を象徴とする最近の情勢を見ると、米軍に頼るだけでは日本防衛はできなくなりつつあります。自衛隊も懲罰的抑止の力を持たないと、1億2000万の国民を守り抜くことはできない時代になったと考えるべきでしょう。

──北朝鮮ロシアミサイルの発射実験を繰り返しています。

岩田 北朝鮮は、射程600キロの弾道ミサイルKN23を持っています。北朝鮮の南部から発射した場合、山陰や北九州に着弾する可能性があるのですが、低い高度を飛び、軌道が変化するために捕捉が難しい。現在のミサイル防衛システムで確実に撃墜するのは難しいでしょう。あるいは、今年10月の発射実験は、潜水艦発射弾道ミサイルSLBM)の可能性があるとNHKなどで報じられました。これが事実ならば、日本海からミサイルを撃てば東京を狙えるのです。

 ロシアミサイルの性能や技術のレベルは、さらに高い。ロシア軍2019年12月に、核弾頭搭載可能な極超音速兵器アヴァンガルドを配備した、と発表しました。射程は約6000キロで、予測不可能な経路で極超音速で飛来します。

 このように防御できない極超音速核ミサイルが飛び交う下に我々日本人はいるのです。国民を真に守り抜くための方策を真剣に考えなくてはなりません。

9条のもとでも敵地攻撃は可能

──日本には「自衛のための反撃であろうとも、攻撃をすると報復を受ける。ついには戦争になる」と唱える人たちが少なからずいます。

岩田 そのように思う国は、相手からすると攻めやすいはずです。無抵抗の国、国民ですから、相手からすれば攻撃しても反撃を受けないと思うでしょう。まさに侵略の口実を与えていることにもなりかねません。

「無抵抗の民」と言えば、古代、軍事大国ローマから攻められ滅びた国家・カルタゴを思い起こします。カルタゴローマは3度にわたり戦いました。第2次戦争でローマは勝利したのですが、カルタゴは多額の賠償金を払ったにもかかわらず、驚異的な復興を成し遂げます。ローマは、こんな国を残しておくと脅威になると考え、第3次戦争を引き起こしました。カルタゴローマに騙され、人質を差し出したうえに武器も放棄してしまいました。相手国を信じ切って、国民を守る術まで捨てた国の末路は、国家の消滅です。

──「憲法9条がある以上、敵基地攻撃はできない」と主張する人たちもいます。

岩田 現在の9条のもとでも敵地攻撃は可能です。1956年、当時の鳩山一郎首相が「(我が国に)攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とはどうしても考えられない」と答弁しています。「他に手段が見つからない場合は敵基地攻撃も自衛権と認められる」が政府見解となり、歴代内閣が引き継いでいるのです。

 この場合の「敵基地」とは、例えば北朝鮮弾道ミサイルで言えば日本に飛来するミサイル本体やその発射台、運搬する列車や車、通信施設や司令部などを意味します。攻撃の意思がある、あるいは準備をしている、もしくは攻撃してくる敵基地への攻撃は自衛のための反撃であり、国際法にも抵触しません。

──敵基地攻撃は「専守防衛」の理念に反する、として反対する人もいます。

岩田 専守防衛は、第2次世界大戦時のように我が国が外国を攻撃することなく専ら国土の防衛に徹することを意味するものと考えています。一方で、国家固有の権利である自衛権があります。日本の場合は、相手国から武力攻撃を受けた時には必要最小限度の武力で対抗します。敵基地攻撃もこの必要最小限度の武力の範疇です。ミサイルもしくはロケットなどでピンポイント攻撃をして基地等を破壊するのです。都市への攻撃をするものではありません。

 平時には隙を与えず、仮に攻め込まれた時には、自分たちの力で国家を守り抜く。そのために軍事力を保有する。これは国際常識であり、国連憲章第51条では侵略に対する反撃が認められています。これらを無視して、「侵略をされたときに戦争につながるから武器を持たない」とする国家や国民は一体何なのでしょう。それで国家・国民と言えるのでしょうか。侵略された後にどうなるのか? もはや完全に思考停止した国家や国民と言わざるを得ません。

 相手国からミサイルで攻撃されるのが現実のものになろうとしている。あるいは、1発目の弾道ミサイルが着弾し、甚大な被害や多数の犠牲者が出ている。その時に1億2000万人は座して死を待つのですか? 国家・国民として自分の国を自分で守るという自尊心はないのですか? 私はそう言いたい。侵略を受けているにもかかわらず無抵抗のままでいる1億2000万人の国家はありえない。自衛のための反撃をしないと攻撃を受けて多くの国民が犠牲となるのです。無抵抗でいるということは専守防衛や国際法以前の話であり、国際常識としてもありえない。ごく当たり前のこととして、敵基地攻撃能力を保有するべきなのです。

(後編に続く)

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