(北村 淳:軍事社会学者)

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 かつて、中国国民党が国共内戦で敗北したことによって中国を支配下に治めることには失敗したものの、欧米中心の国際秩序に“楯突いた”日本を打ち破り、念願であった太平洋全域の覇権を手にしたアメリカは、その覇権と“国際秩序”を今度は中国によって脅かされつつある。

 トランプ大統領は、アメリカアジア太平洋地域での覇権を維持しようと露骨に中国を仮想敵筆頭に指定し、アメリカが中国と通常兵器で対決する際の主戦力となる海洋戦力、とりわけその根幹となる海軍の戦力増強を強力に推進しようとした。しかしながらトランプ大統領が「中国ウイルス」と呼んだ新型コロナウイルスによって政権は足元をすくわれてしまい、バイデン政権の誕生となった。

ぶれまくっているバイデン政権

 バイデン大統領は、かつて中国に対して融和政策をとったオバマ政権下で副大統領を8年にわたり務めた。そのうえ、中国とのつながりが強い側近が少なくないため、対中政策がオバマ政権時代に揺り戻されるのではないかと危惧されていた。

 しかしバイデン政権は、新型コロナウイルスで米国内世論が反中的(一般の人々にとっては人種差別的心情に基づくものなのであるが)になっていた状況を鑑みて、いきなり対中融和姿勢を取ることを避けた。そのため今のところは、トランプ大統領が打ち出した「台湾を軍事的にも支援する姿勢」を維持するポーズをとっている。

 とはいうものの、バイデン大統領自身の台湾支援に関する言動は、「台湾防衛のために中国と軍事的に対決することを厭わない」とするトランプ大統領よりも強硬な姿勢を見せたかと思えば、歴代の米政権と同じく「一つの中国」原則は踏み外さないことを確認してみたり、はたまた「台湾が独立国ならば自国を自らの手で防衛するのは当然」と表明してみたり、大いにぶれまくっている。

 そのため、東アジア戦略専門家などの間では「そもそもバイデン大統領は台湾問題を理解しているのか?」といった危惧が生じている。ひどい場合には「支離滅裂な言動は、やはり巷で言われているようにアルツハイマー型認知症の典型的症状ではないのか」といった声まで上がっているくらいだ。

イギリスとオーストラリアを誘い込んだアメリカ

 そのようにとらえどころのないバイデン政権の対中軍事政策ではあるが、唯一ぶれていない方針がある。それは、できるだけ多くの同盟国や友好国を引き入れて中国の覇権獲得政策を牽制する勢力を形成して、アメリカが手にしてきた太平洋インド太平洋)地域での覇権と、その覇権に大義名分を与えている国際秩序(アメリカが言うところの「法の支配に基づく国際秩序」)を中国によって切り崩されないようにする、という方針である。

 とりわけアメリカが執心するのが台湾だ。直接米軍を駐留させているわけではないが、アメリカにとっては中国の喉元に突きつけた匕首(あいくち)のような存在になっている台湾を、少なくとも現状のように実質的に中国から独立した状態を維持させておかなければ、西太平洋方面でのアメリカの覇権が大幅に打撃を受けることになるのは必至だ。

 しかしながらNATO諸国の大半は、台湾を巡る米中対立に関与することをためらっている。中国共産党政府にしてみると、台湾は自国の一つの省にすぎず、反乱分子によって支配されている島である。NATO諸国が、そうした島が引き起こす対立・紛争と距離を置きたいのは当然であろう。

 そのためアメリカオーストラリアイギリスを誘い込んで米英豪の三国軍事同盟「AUKUS」を結成し、中国に対峙する姿勢を示そうとしている。オーストラリアは、第2次世界大戦中に日本海軍によって海上補給路を寸断され孤立してしまう恐怖を味わい、その経験を現在日の出の勢いの中国海軍にオーバーラップさせている。またイギリスは、香港返還の際の香港での民主主義の維持という約束を中国によって踏みにじられ、面目を失った。

「台湾の次は尖閣だ」という警告の背景

 ただし、中国による台湾攻撃に際して、アメリカにとり軍事的に最も使い勝手が良いのはAUKUSよりも日本である。万が一にも米中両軍が直接衝突した場合、日本領内の軍事拠点(航空基地、海軍基地、民間飛行場、民間港湾、医療機関、補給関連施設)を自由自在に用いることができるのとできないのでは雲泥の差が生ずる。

 また米中海洋戦力の現状を科学的に比較した場合、アメリカは少なくとも2030年頃までは絶対に中国との直接軍事衝突だけは避けなければならない。そこで米政府としては、対中最前線に自衛隊を引きずり出しておくのが最善策である。

 幸い、対中戦における地理的最前線は、九州から与那国島にかけての第1列島線北部である。そのため、日本が自らの領域を防衛するために戦力を強化しても何の不思議もないことになる。

 そうした背景から、アメリカオーストラリアからは盛んに中国による台湾侵攻の危機に加えて、「台湾の次は尖閣だ」といった警告が発せられるようになってきた。

 もちろん、オーストラリアの国防相などに言われるまでもなく、尖閣諸島の防衛は日本自身が自ら実施するべきである。しかし残念なことに、これまでアメリカ政府高官に「尖閣は日米安保条約の適用範囲内にある」と言わせることだけが唯一の防衛戦略であった日本政府は、具体的な尖閣防衛策を打ち出そうとしていない。

 本コラムで数年前より(そして米海軍などでは20年も前から)提示してきたように、尖閣諸島魚釣島に海洋気象測候所を設置することこそ最善策である。だが、対中強硬姿勢をとっていた安倍政権時代にもこの策は実現しなかった。そうなると、もはや日本にはこの策を実施することは不可能と考えられる。そこで次善の策(大型観測基地船常駐策)を実施する必要に迫られている。

 アメリカの覇権維持のために駆り出されるのは愚の骨頂である。日本は自らの意志として尖閣防衛の手を打たなければならない。詳しくは稿を改めて記したい。

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オーストラリア・キャンベラの国会議事堂で行われたAUKUS協定の調印に臨む英国のビクトリア・トリーデル豪総督(左)、ピーター・ダットン豪国防相(中央)、米国のマイケル・ゴールドマン米特命全権大使(2021年11月22日、写真:AAP/アフロ)