SDGsやサステナビリティという言葉が徐々に普及し、実際に取り組む企業も増えてきています。しかし、まだまだ取り組めていない企業が多いのではないでしょうか。そこで、SDGsおよびサステナビリティに関するコンサルティングを中心に広く活動されている夫馬賢治さんに、SDGsの日本の状況や取り組む際のポイント、そしてJBpress World内で開催した「SDGs前夜祭」で夫馬さんが出演する番組の見どころについてお聞きしました。
今から取り組まないと仕事がなくなる?
株式会社ニューラルの代表をお務めの夫馬賢治さんは、2010年から2012年までMBA取得のためにアメリカへビジネス留学されており、その際にSDGsとサステナビリティの大きな潮流を知ったといいます。ところが、日本に帰国した途端、そうした言葉を全く耳にしない状況にがくぜんとし、2013年にニューラルを立ち上げられました。
「SDGsは2015年に国連サミットにより採択され、日本でも認知が広がってきましたが、サステナビリティはさらに以前から世界的に定着していました。そのため、海外ではわざわざSDGsに呼び方を変えずに、サステナビリティという言葉を使い続ける国が多くあります」と夫馬さん。実際、アメリカの企業は気候変動に大きな危機感を持ち、さまざまな取り組みをしていました。
その一方で、日本の企業は何もしないまま時を過ごしていくのか、いつ気付くのかと、夫馬さんはずっと心配していたと話します。それが、2018年からようやく動き始めたのですが、「本気で取り組んでいる企業は100社もないでしょう。企業に与える影響の大きさをほとんどの方が理解していない状況です。興味もないし関心もないという企業がほとんどですから、まだまだ心配しています」(夫馬さん)
日本でサステナビリティの取り組みが進まなかった理由として、夫馬さんは長らく情報分断が発生していたことを挙げます。「そもそも日本語の情報が少なく、調べようとすると英語の情報しかありませんでした。香港やシンガポールでは非常に多くの情報が出ていたにもかかわらず、日本には全く情報が入ってきませんでした。情報に接する機会が少なければ、“自分ごと”として捉えることは難しく、取り組みも進みにくいわけです」
夫馬さんは、2030年には、SDGsに取り組んだ企業とそうでない企業の差が明確になってくると話します。「今から取り組んでおかないと、2030年には世界でビジネスができなくなる可能性があります。既に世界中の競合企業がサステナビリティに取り組んでいますので、取り組んでいない企業はビジネスを切られてしまうと思います」(夫馬さん)
その影響がより早く出始めるのは、製造業、物流業、農業であると夫馬さんは話します。影響を受けるのは、世界で活躍するグローバル企業だけではなく、原料などを輸出入する中小企業も例外ではないようです。「例えば、農業は温室効果ガスが多く排出されますし、化学肥料や化学農薬の大幅削減を決めた国もあります。今後は海外はもちろん、国内のスーパーマーケットでも取り扱ってもらえなくなることになるおそれがあります」と夫馬さん。
では、いかにSDGsに取り組むか?
現状、日本企業でSDGsの取り組みがなかなか進まない理由について、夫馬さんは自社への影響が見えづらいことを挙げます。SDGsの17ゴールだけを見ても、それを理解して“自分ごと”と受け止めるのは難しいことです。「テーマを知っていただくことは非常にいいのですが、その背景にある大きな変化や危機感を理解することが必要です。今は日本語の情報も増えましたので、ネットで調べるだけでもさまざまな課題が分かると思います」(夫馬さん)
とはいえ、忙しい経営陣にはSDGsについて調べる時間的な余裕はないかもしれません。そこで、夫馬さんは若手の社員などに調べてもらって発表してもらう方法をお勧めしています。若い人の方が学生時代からSDGsについて勉強をしており、理解が進んでいるからであり、その内容を発表してもらうことで社内全体へのインプットにするというのです。
SDGsについては経営陣がその真の目的を正しく理解し、プロジェクトのリーダーとして推進していくことがベストではありますが、多くの経営陣は変わることへの恐怖を感じています。「これまでうまくやってこれた、わざわざ変える必要はない」というように。
実際、夫馬さんがコンサルティングをする中でも、こうした状況に数多く遭遇したそうですが、そうした場合、夫馬さんは「これしかもう企業は生き残れません。SDGsに取り組んでいないと、近い将来に市場から撤退せざるを得なくなる」と断言しているといいます。
これまでの30年が、比較的変化なく事業を続けてこられたのは奇跡だと話す夫馬さん。「これからの30年は今まで通りにはいかないことを経営陣は正しく認識して、自社はもちろん、サプライチェーンに対しても取り組みを広げていかなければなりません。近い将来の大きな変化に対応するため、ものすごく柔軟になってほしい」と夫馬さん。
日本の先行事例も多くなってきています。それは大企業でのものが多いですが、それは中小企業でも参考にできます。「例えば、労働力が足りない問題。最近はコンビニなどを中心にセルフレジが増えていますが、これは単なる人件費削減ではなく、本当に人材が少ないのです。これからどんどん人が減っていく状況は、大企業も中小も変わらないですよね。危機感を持って対策を考えていただくことが必要です」(夫馬さん)
また、夫馬さんはたとえ大企業でも、1社だけで取り組むのは不可能である点を指摘します。「仲間作りも必要です。1社だけで取り組んでも『うちだけではできない』と、必ず壁にぶち当たりますから。まずは経営者団体や地元の集まり、業界団体などから声を掛けてみるといいと思います。大手の取引先や、銀行に間を取り持っていただくことも一つの方法です」
SDGsにおける日本の強みはどこにある?
現在はSDGsに取り組む企業も増えつつあり、表彰制度も始まっています。表彰の審査員も務める夫馬さんは、受賞することの多い企業として、花王と丸井グループを挙げます。いずれも社長がSDGsやサステナビリティに興味を持ち続け、早期から危機感を持って取り組んでいるのです。
夫馬さんは、そうした企業にはサプライチェーンを完全に把握してきているという特徴があると話します。「取引の原材料や部品の出所を把握していないと、何が自分たちを取り巻く課題なのかをつかむことすら難しいですが、サプライチェーンを把握することで、自社に今、どのようなリスクがあるのか、逆に何をすれば他社に先んじることができるかが見えてきます」
特に、日本企業はいったん本気でスイッチが入った時の「やり切る力」が高いという強みがあります。全社一体の結束力で、覚悟を持ってやり切るところは日本の企業、日本の文化の強みなのです。
日本人は真面目なので、社会通例になると全員のベクトルがそろって進んでいくという特性もあると夫馬さんは話します。確かに、コロナ禍における行動自粛やマスクの着用の実施率の高さは、世界に類を見ません。「SDGsが社会通例になれば、むしろ、それをやってないのは恥ずかしいと考える企業が増えていきます。そして正しい方向にベクトルがそろえば非常に速い速度で進展していくと思います」(夫馬さん)
さらに夫馬さんは、「先んじて動いてる中小企業も増えていますが、そうした企業の方々は今、非常に生き生きとしていますし、業績も良いのです。SDGsに取り組むことで取引先からの支持が得られ、他社に依頼していた分もお願いしたいと言われたという話をよく聞きます。取り組みを見ている人は多いので、より早く取り組んで未来も存続している企業になってほしいと思います」とまとめられました。
「SDGs前夜祭」の見どころはここ!
最後に、JBpressが12月7日に配信した動画番組「SDGs前夜祭」についてお聞きしました。この番組は「今、ビジネスパーソンが知っておきたいSDGs」をテーマに、SDGsを知ってもらうための入門編とも言うべき内容であり、夫馬さんが専門家として登場します。さらに、スペシャルゲストとしてミルクボーイさんが出演します。
「SDGsをまず知っていただくことを意識したコンテンツになっていますので、誰でも『へえ、そうなんだ』と思っていただけると思います。先ほど自分で調べることが大事と言いましたが、きっかけがないと何を調べればいいのか分からないと思いますので、そのきっかけになるような番組です。身近な話題を取り上げていますので、SDGsの知識が全くなくても楽しめると思います」(夫馬さん)
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