DV防止法改正案の素案で、接近禁止などを命じる「保護命令」の対象に、精神的暴力(モラルハラスメント)や性的暴力が加えられると報じられた。

読売新聞11月29日)によると、精神的暴力などで被害が深刻化するケースが増えているDVの実態に対応する狙いがあるという。現在、裁判所がDV加害者に対し、被害者に近寄らないよう命じる「保護命令」の対象は、「身体に対する暴力」と「生命等に対する脅迫」とされている。

今回の改正がおこなわれた場合、現場ではどのような変化が考えられるのだろうか。女性の権利擁護に関する事件にくわしい岡村晴美弁護士に聞いた。

●今回の素案は当然の改正

——DV防止法改正案の素案で、「保護命令」の対象に、精神的暴力や性的暴力に対象が拡大されることが報じられました。

現行法が、DV被害者のうち「過去に身体に対する暴力又は生命や身体に対する脅迫を受けた者」に申立権者を限定し、「身体に対する暴力」により「その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きい」ことを要件としているため、対象が狭すぎて使いづらく、利用が減少傾向にあり、他国と比較しても著しく低い件数にとどまっているという問題がありました。

2020年10月20日には、日本弁護士連合会が、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の改正を求める意見書」を発表し、2021年3月17日には、内閣府の男女共同参画会議の女子に対する暴力に関する専門調査会が、「DV対策の今後の在り方」を発表し、非身体的暴力も保護命令の対象とするよう見直すべきと指摘していました。

今回の素案は、こうした流れからみて、当然の改正だと思います。

●精神的暴力は決して軽い暴力ではない

——精神的暴力にも対象が広がることの意義を教えて下さい

DVについては、言葉の認知度はあがってきたものの、その本質が、個人の尊厳を害する「支配」であるということについての理解はすすんでいません。

たとえば、パワハラ防止法には、「優越的な関係を背景として言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害される」ものがパワハラであると記載され、その定義は、身体的暴力を中心にしたものになっていません。

ところが、DV防止法には、「配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ)又はこれに準ずる身体に有害な影響を及ぼす言動」と記載され、身体的暴力がDVの中核であるように捉えられています。

司法判断も、この定義に引っ張られ、精神的暴力(モラルハラスメント)が身体的暴力に準ずるものでなければならないという枠組みで判断してきました。そのため、「DV=身体的暴力」であるかのような誤解が生じてきました。

しかし、2020年度に政府のDV相談窓口に寄せられた内容のうち、精神的暴力は6割近くを占めており、DVを考える上で中心的な課題となっています。

「バカなの?」「家事なんて誰でもできるよね?」「俺と同じだけ稼いでから物を言えよ」などのパートナーを貶める暴言や、意見の否定、人格の否定、監視や束縛などが日常的に繰り返されると、その一つ一つは小さな事にみえても、心身に不調を来します。

自分に自信がもてなくなり、何をするにも正解を探し、常にパートナーの機嫌を伺い、自分をなくしてゆきます。精神的暴力は決して軽い暴力ではありません。

●避妊に応じないなども性的暴力

——さらに性的暴力も対象となりました。夫婦間の場合、どういったケースで性的暴力となるのでしょうか。

性的暴力については、夫婦間レイプという言葉が、少しずつ世間に知られるようになってきたものの、婚姻届に判を押したら、いつでもセックスを受け入れる同意書みたいに捉えているようなところがありますし、別居する直前の性行為を夫婦仲が良かったという主張に使う弁護士もおり、まだまだ意識が遅れていると思います。

性行為に応じないと不機嫌な態度を取る、避妊に応じないなども性的暴力となります。意に沿わない性行為が日常的に強要されることで、複雑性PTSDを発症することもあり、その被害は深刻です。また、望まない妊娠から中絶や出産後の虐待を招くこともあります。

——今後の課題は

非身体的暴力が招く被害の深刻さを考えるとき、DV保護法制の在り方として、「生命・身体の安全を守る」というだけの捉え方では不十分であり、「何人も婚姻生活において、暴力の恐怖にさらされることなく安全で平穏に生きる権利を守る」という考えを進めていくことが重要なのだろうと思います。

改正により、保護命令の対象が拡大するとしても、どの程度まで対象となるのかに注目していきたいと思います。また、そこからこぼれ落ちてしまうものはDVではないというような捉え方をしていたのでは、DVを無くしていくことはできないという点にも留意が必要です。

【取材協力弁護士
岡村 晴美(おかむら・はるみ)弁護士
2007年1月に弁護士登録。DV、ストーカー、性被害事件など、女性の権利擁護に関する事件を中心に取り組む。小学校時代にいじめられた経験から、差別が起こる仕組みや被害者の心理状態について関心をもち、弁護士を志した。いじめハラスメントの事件では、残された証拠からどういう事実があったのかを 導き出す作業を中心に担当している。
事務所名:弁護士法人名古屋南部法律事務所
事務所URLhttp://www.nagoyananbu.jp/

精神的、性的な暴力も保護命令対象に? DV防止法改正案の素案をどう見るか