10月の終わりに急ぎの用事があり急遽モスクワに赴いたのだが、タイミング悪くモスクワ市のコロナ対策ロックダウンにぶつかってしまった。

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 ロックダウンといっても、元々の連休と重なっていることもあって、市内はマスクなしで歩く人々で結構な人出である。

 生活に必要とされる薬局や食料品店(スーパーマーケット含め)はほぼ正常営業だった。

 一般店舗は原則休業であり、ワインショップも閉まっているのに、大手のリカーショップチェーンは営業しているのは不可解である。

 一方、レストランカフェテイクアウトとデリバリーのみの営業。店内には立ち入りできないよう入り口は机や椅子でブロックされている。

 しかし、人気店舗にはマスクなしの長蛇の列ができており、感染対策としていかほどの効果があるのかは疑問なしとしない。

 案の定と言うべきか、ロシアでは11月初のロックダウン期間を契機にコロナ感染者数はピークに達し、11月6日には4万人を超えた。

 その後、緩やかに減少に転じているものの、11月27日現在の感染者数は3万3119人と依然高水準にある。

 さらに深刻なのは、ロシアではここにきてコロナ感染による死亡率が上昇傾向にあることである。

 ワクチン接種が進んだ欧米先進諸国では、感染者数が高止まりしていても重篤化する患者が少ないことから死亡率は概ね低下傾向にある。

 しかし、ロシアでは世界のトップを切ってワクチン開発に成功したにもかかわらず、国内の接種率が低水準にとどまっている(2回接種 38%、11月28日)ことから、死亡率はむしろ上昇傾向にある。

 このようにロシアコロナ再感染拡大の背景には感染拡大措置の不徹底、とりわけワクチン接種率の低さが指摘されている。

 そして、国産ワクチン接種率の低さは政府への信頼感が低いためと日本では論評されるのだが・・・。

 毎月発表されるウラジーミル・プーチン大統領および政府への信頼感の独立系世論調査機関(レバダセンター)の数字を見ても特に大きな変化は見られない。

 プーチン大統領の支持率は60%代後半を安定的に推移している。

プーチン大統領の支持率

ロシア政府(首相)の支持率

 同じ世論調査では回答者の身の周りでのコロナ感染の状況を聞いている。

 39%の回答者は身の周りで重篤化した人を知っている、28%は自身が感染し軽い症状を経験した、27%が身の周りでコロナで亡くなった人を知っていると答えている。

 人口1億4000万人のロシアでの累計感染者数は960万人、死亡者は27.4万人であり、コロナ感染は日本とはけた違いの身近な出来事である。

 とすると、ロシア人は日本以上にコロナを恐れ、感染予防に注力して良さそうなものであるが、現実はそうなっていない。

「あなたはコロナ感染を恐れますか?」との問いに「はい(怖い)」と答えた人が48%、「いいえ(怖くない)」と答えた人がこれを上回る50%である。

 そして「無料の(ロシア製)ワクチン接種を受けますか?」との問いには徐々に低下傾向にあるとはいえ、依然45%の人が「受けない」と答えている。

「受ける」と答えた人は19%、既に接種済みの33%と合わせても52%と過半数を何とか超える程度である。

 そして極めつけの質問がこれである。

コロナウイルスは自然の病原ではなく、新型の生物兵器であるという説を信じますか?」

 この質問に対して、35%の回答者が「そう思う」、26%が「ややそう思う」と答えている。

 年齢別にみると、55歳以上の高齢者の43%が「そう思う」、25%が「ややそう思う」と回答している。

 55歳以上というのは、今年がソ連崩壊30周年なので、当時25歳以上であった世代である。

 一方、18~24歳の若い世代、ソ連崩壊後に生まれ1990年代の混乱期も経験していない、かつ情報はインターネットで入手する世代は「そう思う」が19%、逆に「全くそう思わない」が27%と答えている。

 どうやらロシア人はコロナウイルスに対する科学的なアプローチを拒んでいるように感じられる。

 ロシアは教育水準も高く、多くのノーベル賞受賞者を輩出した科学国であるのにコロナウイルスに関してはそれが当てはまらないようである。

 ロシア人のコロナウイルスに対するこうした態度は何に起因しているのだろうか?

 筆者は一つの大胆な仮説を思いついた。

 すなわち、ワクチン接種率は所得に相関しているのではないかということだ。

 つまり、モスクワのように所得水準の高い地域ではワクチン接種率も高く、逆に低い地域では接種率が低いのではないか。

 ワクチン接種は全国どこでも無料なので、ワクチン接種にかかる費用ではなく、むしろ人々のコロナ感染に伴う逸失利益に対する考え方の差ではないか――。

 ということで、ロシアの州別の平均所得とワクチン接種率をプロットしたのが下記グラフである。

 筆者の予想に反して平均所得とワクチン接種率の間に有意な相関関係は見い出せなかった。

 ロシア国内で所得水準が高いのは、モスクワを除くとほとんどがモスクワから遠く離れた地域である。

 これらの地域はエネルギー・地下資源に恵まれる一方、人口は少ないので労働力を確保するためには高い給与を提示する必要があるためである。

 これらの地域のワクチン接種率は全国平均よりは高いものの、人口や地理といった個々の特殊事情の方が説明要因として説得力がある。

 他方、所得も低くワクチン接種率も低いのはダゲスタン、北オセチア、カバルディノ=バルカルといった北コーカサスの地域である。

 例外はチェチェンであるが、これは政治的な要因が大きい(いずれもイスラム教徒の多い地域である)。

 改めてこのグラフを見て感じるのは、多くの州が全国平均の周囲に集まっていることである。

 平均から乖離している州というのは、ある意味ロシアの中では特殊な地域である一方、この平均点に集まる州・共和国は、まさに「ザ・ロシア」と言える。

 つまりプーチン大統領の支持基盤となっている、決して豊かではない地方の典型的なロシア人だ。

 これらの人々がこぞってワクチン接種を拒んでいるのである。

 彼らがワクチン接種を拒む理由は科学や理屈で説明できそうにない。筆者にはロシア人の人生観によるものとしか考えられない。

 新型変異株のリスクが高まる中、ロシア政府が有効な感染対策を打ち出せるのか注目したい。

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