映画の宣伝業務をおこなう会社の求人募集で、応募資格欄に「水商売経験者優先」などと記載されていた——。そんな内容が11月22日ツイッターで投稿され、話題となっている。

投稿によれば、その会社は自社のホームページで映画宣伝の広報担当を求人募集しており、応募資格の欄に「水商売経験者の方(女性の方)、優先」「好きな業界での仕事に、“働き方改革は不要”と思う方、優先」などと記載されていたという。

投稿者は募集企業の社名を明らかにしたうえで、「こんな求人出す会社が映画界の宣伝業務していることについて、皆さんどう思いますか??」と疑問を投げかけている。ホームページでの求人募集の記載は11月22日17時30分時点で見られなくなっており、代わりに「現在、採用は行っておりません」とだけ書かれていた。

ネットでは、「察知力のある人は絶対に応募しませんよね」「(削除されたことについて)人目に付いたら良くないって自覚はあるんだな」など批判的な声があがっている。

この会社は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「そういった取材は受けておりません」と答えるのみで、事実関係については肯定も否定もしなかった。

今回の求人における応募資格にはどのような法的問題があったのだろうか。大木怜於奈弁護士に聞いた。

男女雇用機会均等法などに抵触するおそれ

——今回の求人には、どのような法的問題点がありますか。

映画の宣伝業務をおこなう会社が「水商売経験者の方(女性の方)、優先」「好きな業界での仕事に、“働き方改革は不要”と思う方、優先」として求人募集していることから、このような「優先」条件を満たす方を採用する意向が示されていると思われますので、このような「優先条件」をもって採否を決することが、企業の採用の自由として認められるかが問題となります。

——企業にはどの程度の採用の自由が認められているのでしょうか。

我が国では、労働者の採用に関して、採用の自由(契約締結の自由とも言われ、憲法上も保障された人権です。)が企業に認められています。

採用するかどうか、採用するとして、採用の方法・採用人数などについては、基本的に企業の自由です。判例においても、誰をどのような条件で雇うかについては、基本的に企業の自由であると判断されています(三菱樹脂事件・最高裁昭和48年12月12日判決)。

もっとも、採用の自由は、無制約に許容されるものではなく、採用差別は禁止されています。たとえば、男女雇用機会均等法5条は、性別による採用差別を禁止しています。

その他にも、労働者の能力等に無関係な家庭状況や生活環境といった事項、本来自由であるべき思想・信条に関する事項について資料を提出させたり、面接で質問したりすることは採用差別につながるおそれがあります。

——今回の求人はどうでしょうか。

上記の「水商売経験者の方(女性の方)、優先」とする内容のうち、「女性」を条件とすることは、性別による採用差別にあたる可能性があり、男女雇用機会均等法5条に違反する可能性があります。

法律によって具体的な制限が定められていない場合であっても、思想信条の自由(憲法19条)や人格権などの憲法上の自由・権利に抵触し、公序良俗(民法90条)違反や不法行為(民法709条)などに当たらないかが問題となります。

さらに、厚生労働省は、「公正な採用選考をめざして」というパンフレットで、採用選考の基本的な考え方として、「応募者の基本的人権の尊重」と「適正・能力による採用選考」を掲げ、公正な採用選考の基本として、「応募者に広く門戸を開くこと」と「本人の持つ適性・能力以外のことを採用基準にしないこと」を掲げています。

映画の宣伝業務をおこなう会社の求人募集で「水商売経験者の方」を「優先」募集・採用する合理的な理由は見出しがたいと思われますので、公正ではない採用選考基準として、公序良俗違反や不法行為などに当たる可能性があります。

また、働き方改革は、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)によって、労働基準法、労働安全衛生法、労働者派遣法など様々な法律が改正されたものであり、当然ながら、「好きな業界での仕事」であれば働き方改革に関する諸法令が適用されないというような内容にはなっておりません。

したがって、「好きな業界での仕事に、“働き方改革は不要”と思う方」を「優先」募集・採用することは、法令遵守をしない方を「優先」採用するという内容になりかねず、この点についても公序良俗違反や不法行為などに当たる可能性があります。

「悪い評判立ちかねない」

——求人募集で法的に不適切な記載があった場合、募集企業に何かペナルティはあるのでしょうか。

採用差別をおこなった場合には、企業が損害賠償責任を負う可能性もありますし、採用差別をおこなった企業として悪い評判が立ちかねません(企業のレピュテーションリスク)。

したがって、求人を出す際や、採用活動にあたっては、採用差別にあたらないように社内で吟味を重ねたうえ、弁護士チェックしてもらうことをお勧めいたします。適法・適切な採用を行うためには、採用段階でも相談をすることが、本件のようなトラブルを回避することにつながります。

【取材協力弁護士
大木 怜於奈(おおき・れおな)弁護士
弁護士登録前の会社員としての勤務経験も活かし、ビジネス実態に即したリーガルサポートの提供を心掛け、企業法務においては、「管理法務」を取扱業務の柱として、多様な経営者のパートナーとして、人事労務、営業秘密管理、風評管理など、様々なサービスの拡充に努めております。 また、労働問題にも重点的に取り組み、「企業の人事労務クオリティ向上による従業員に対する真の福利厚生の実現」を目指しています。
事務所名:レオユナイテッド銀座法律事務所
事務所URLhttps://leona-ohki-law.jp/

「水商売経験者」「働き方改革不要な人」優先の求人が話題…法的に大丈夫なの?