美容室では、美容師が髪をカットしているときなどに話し掛けてきて、「雑談」がよく交わされます。話が上手な美容師の場合は「ヘアセットだけでなく、雑談の技術も見事だな」と思いますが、中には「雑談に夢中で、手が止まってしまう美容師」や「客との距離感を間違えた、妙になれなれしい美容師」がいると耳にすることもあります。客も十人十色で、雑談を楽しみにする人がいる一方、雑談を煩わしく思う人もいるようです。

 美容室での雑談について、客はどう思っているのか、話し掛ける美容師は雑談をどのように捉えているのか、聞きました。

「会話盛り上げないと」と焦る

 まず、美容師との雑談を楽しみにする客はどう思っているのでしょうか。

美容師さんとの会話は基本的に楽しいです。私にとって、美容師さんは普段、あまり接することがないタイプの人たちなので、雑談で趣味の話を聞くとき、よくそれを感じます。個人的に、特に興味深く思えたのは『船に乗っての釣り』や『グランピングテント設営などの準備なしで気軽にキャンピングを楽しめる体験)に行く』といったアウトドアな休日のエピソードと、アロマにはまっている美容師さんの話です」(34歳男性)

「もともと社交的な性格なので、美容師さんとの雑談は大体盛り上がります。施術中に黙ってスマホをいじっているくらいなら、話をしていた方が断然楽しいと思うので、私から話題を振ることも多いです。でも、人には相性というものがありますから、『この人とは話が合わないな』と感じる美容師さんもいます。そう感じたときは切りがいいところで会話を終え、おとなしく、黙ってスマホをいじっています。

美容室で知り合い、プライベートでもSNSで連絡を取っている美容師さんも何人かいます。学生のときに担当してくれた美容師さんとは今でも仲が良くて、たまに一緒にご飯を食べに行きます」(28歳女性)

 雑談で美容師のライフスタイルを聞いて刺激を受けたり、会話をきっかけに仲良くなり、プライベートでも交流したりする人がいる一方で、美容師との雑談をおっくうに感じる人もいます。

美容師さんが話し掛けてくるとき、一生懸命気を使ってくれていることがとても伝わります。だからこそ、『会話を盛り上げないといけない』と焦り、逆に緊張して、会話が続かなくなってしまうのです。会話が止まって、こちらの席がシーンとしているのに、他の席で美容師さんとお客さんが雑談で盛り上がっているときは、申し訳ない気持ちがピークになります。気に病む要素が多いので、雑談はない方がありがたいです」(34歳女性)

「座って、ゆっくり過ごす時間というのは実はなかなか、生活の中にないと思っていて、座って、ゆっくり過ごせる美容室での施術中の時間が僕は好きです。だから、美容師さんとの雑談は神経を使って疲れるので、極力回避したいと考えています。スマホをいじっていると、『暇つぶしをしている』と思われ、話し掛けられるかもしれないので、持参した本を読むようにしています。

ほとんどの美容師さんは察してくれますが、中には、念のため、話し掛けてくる人もいるので、その場合は雰囲気が悪くならないように気を付け、短めに会話を終わらせると、その後は話し掛けられません。それでも、話し掛けてこようとする美容師さんがたまにいますが、その場合は髪の仕上がり具合にどんなに満足しても、その美容室にはもう行かないですね」(35歳男性)

 また、お気に入りの美容師が見つかると、しばらく通う人が多いと思いますが、長年通うようになると、会話がなくても気まずさはないそうです。

「今の美容室には10年以上通っていますが、担当の美容師さんも私の性格をよく理解していて、話し掛けられることはほとんどありません。予約が取れなくて、たまに別の美容室にも行きますが、そのとき、初めて施術してもらう美容師さんとの間に感じる『お互い、何か話さなきゃ』と内心考えているような気まずさは、まったくないですね」(41歳男性)

 雑談を楽しみにする人に比べ、おっくうに感じる人は「話さなきゃ」「会話を弾ませなきゃ」といったプレッシャーを感じていることが多いようです。

美容師に雑談の研修も

 では、話し掛ける側である美容師は施術中の雑談をどのように捉えているのでしょうか。美容師勤務歴15年のAさん(35歳女性)は「人と話すのが好きなので、お客さんとの雑談も大好き」と話します。

「髪のセットに満足してもらえるのもうれしいですが、雑談を終えて、笑顔で帰っていくお客さんを見るのも本当にうれしくなります。仲良くなったお客さんから、恋愛相談を受けることもあり、私も結婚する前は、仲良くなったお客さんにこちらから、恋愛相談をすることもありました。恋愛相談は特に楽しいです。美容師とお客さんという近すぎず遠すぎない関係が恋愛相談をするのに適していると思います」(Aさん

 都内で美容室を経営するオーナー兼スタイリストのBさん(40歳男性)はAさんと同じく、客との雑談が好きとのことですが、働いている美容師が自分本位で雑談をして、客の気分を損ねていないか、よく見ているそうです。

「スタッフを見ていて、『あのお客さまに対しては話し掛けすぎかな』『もっと言葉を選んで話した方がよいのでは』と思った際は後で注意します。実際、雑談に関するクレームをお客さまから頂くこともあるので、私たち美容師は雑談内容のクオリティーや雑談時のお客さまの様子について、気を付けなければいけません。

私は、お店をオープンさせる前、美容師専門の接客マナー講習に行って勉強しましたが、その講習の中には、雑談に関するものも含まれていました。その中で『相手の反応を見ながら、会話の量や内容を調整する』『無理に話そうとし過ぎない(相手に自分が無理している気配が伝わってしまうため)』など雑談のイロハを学び、そのときに学んだことがスタッフの指導に今でも役立っています」(Bさん)

 お客さんの中に雑談を楽しみにして来る人がいる以上、雑談も美容師の仕事のうちといえるでしょう。求められるのがスタイリング技術だけでないところに、美容師という仕事の大変さを思わされますが、“雑談”がうまくはまったときの喜びもまた、ひとしおのようです。

フリーライター 武藤弘樹

美容師との雑談、どう思う?