新型コロナウイルスの感染拡大に伴うリモートワークの推奨から、私たちの働き方は大きな変革を迫られた。社内、社外にかかわらず、対面から画面越しの会話に切り替わり、意思疎通がしづらい、周りの情報が収集しにくいなど、思うように仕事ができないという話も聞く。

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 こういった労働環境の変化をいかに自身のチャンスとして捉えるのか。自分のやりたいことを貫く人生を送るためにはどうしたらいいのか。『ゼロ秒思考』の著者としても知られ、『最強の「独学」仕事術』(宝島社)を上梓した赤羽雄二氏(ブレークスルーパートナーズ株式会社マネージングディレクター)に話を聞いた。(聞き手:加藤 葵、シード・プランニング研究員)

※記事の最後に赤羽雄二氏の動画インタビューが掲載されていますので、是非ご覧下さい。

──本書に、(教える側は)「『教えると本人が学ばない』とよく言いますが、そんなことはありません。きちんと教えてもらったほうがはるかに早く学べますし、仕事の質が上がります」と書かれていました。やはり最初にきちんと教えることが重要なのでしょうか。

赤羽雄二氏(以下、赤羽):仕事は、上司が内容や目的、期限、役割分担を明確にして部下に指示を出し、部下がそれに基づいて行うことが大事です。

 初めての仕事の場合は、最初にどうやって仕事を進めるかしっかり説明します。部下がつまずいた時には、助言やコーチングもします。上司が最初から最後まで部下の面倒を見て、部下ができなかった仕事をできるようにすること、それが上司の本来の仕事です。しかし現状、上司がそのようなサポートをほとんどできていないことが多いですね。

──コロナの流行により、リモートワークが増え、仕事の教え方も大きく変わっていると思います。

赤羽:以前は同じ空間で仕事をしていたので、上司が助言や忠告、小言を言う環境がありましたが、リモートワークではそれがなくなってしまった。部下の方もzoomだと質問しづらく、お互いに働きかけが弱い。上司のサポートがなくなったことが問題です。

 新入社員はもとより、5年、7年、15年目の社員でも上司とのコミュニケーションが減ってしまい、仕事を手探りでやらなければならなくなってしまったんですね。今回、独りで仕事をする人たちのための羅針盤として、本書『最強の「独学」仕事術』を出版しました。

──本書の冒頭で、「独学で成長する際に、最も重要なことは、自分に自信を持つことである」と述べられていました。これはどういうことでしょうか。

ネガティブな人間に仕事で出くわした時の対応策

赤羽:「自信がないこと」、これが一番のボトルネックです。

 日本人は自分に自信を持っていない人がとても多い。日本の経済は1989年には世界でトップでしたが、そこから転げ落ちてしまった。そのため一流企業の部長、経営者、取締役でさえも自信がない。自信のなさが蔓延しています。

 自信がないと、新しいことにチャレンジする気力が湧かないし、新しい方法を生み出すことも、誰かに助けを求めることもできません。

──本書では、「できる限りネガティブな人を避ける」ことにも言及されています。ネガティブな人とはどのような人を表すのでしょうか。また、仕事をする中で、ネガティブな人間に遭遇した時はどうしたらいいでしょう?

赤羽:ネガティブな人とは、第三者や会社の悪口ばかり言う人、「どうせ無理だよ」と言ってこちらの努力に水を差す人です。

 もし、否定的な人を避けられない場合は、その人の立場で考えて、メモを書きます。その人にとってのプロジェクトの意義は何か、こちらをどう見ているのか、どういう親に育てられて、愛着障害発達障害を抱えている可能性があるのか、その人が突然、怒鳴り散らす理由は何か、怒鳴り散らさない時はどうなのか、周りの人たちにはどう見られているか、といったことです。

 そうすると、一方的に嫌悪感を抱いていた相手のつらい過去や、前に大きな失敗をしているからこそ注意してくれていることなどに気づくことができます。ネガティブだと評価していた人を、中立的、またはポジティブな視点で見られるようになります。

 また、ロールプレイをすることも相手の立場を理解する一つの方法です。

 まず、同僚2人と一緒に、ネガティブな人と、自分、オブザーバーの3役で3分間演じた後、2分間のフィードバックタイムで感想を伝え合います。その後、役を交代して順番に繰り返します。そうすることで、相手と自分、第三者の立場から改めて気づくことがあり、その人への見方も変わります。

──相手を変える努力は必要ないのでしょうか。

感情的な自分を制御するにはどうすればいい?

赤羽:相手を変えようとすることは、無駄で生産性がない努力です。自分の、相手への見方を変えることの方が建設的です。

 ただ、自分の、相手への見方を変えることで、結果的に相手を変えることがあります。相手の生育環境まで分析して、人間的な関心を持つ。相手の話をよく聞き、深く理解すると、相手がこちらに心を許し、悩みを打ち明けてくれる。そうすると、悩みの一部は解決できることもあります。

──本書の中で、「感情的になって良いことはない」と述べられていますが、それはどうしてでしょうか。つい感情的になってしまうことは直すことができるのでしょうか。

赤羽:感情的になると、後で後悔して反省することになります。感情的にならずにいられないこともありますが、感情的にならないようにすることはある程度可能です。

 例えば、ある人から怒鳴られて嫌な気持ちになった場合、次のようなことをメモ書きします。相手はどうして怒鳴るのか。誰に対して怒鳴り、誰に対して怒鳴らないのか。怒鳴った後にその人はどう考えているのか。どうして自分は心が締め付けられるのか・・・。

 言葉にして書いてみると、自分が過剰に感情的になっている事実が見えてきて、その後は感情的にならなくなります。

 またここでも、3人でロールプレイをすることも有効です。怒鳴る人と怒鳴られる人、オブザーバーの3役をやってみると、怒鳴る側の気持ちが分かり、自分が相手を苛立たせていることに気が付きます。

 いつも感情的になることは単なる我儘です。なぜ自分はそんなに感情的になるのか、いつも友人から我儘だと指摘されるのか。そうしたことをメモに書いてみると自分を客観視できます。すると、感情的になることは愚かなことだということに気が付き、自分だけが不遇で辛い思いをしているというわけではないと、新しい見方が得られます。

頭の中を最速でイメージ化する「ゼロ秒思考」

──ストレスを減らす方法として、発達障害愛着障害、パーソナリティー障害を理解する必要があると本書で書かれています。

赤羽:親との関係に問題がある愛着障害や、共感性が低く衝動性が高い特性の発達障害があると、他者と関わることが難しく、生きづらさを感じます。しかし、自分にそういう傾向があると理解することができれば、ある程度改善されます。

 何度もミスをする部下や、突然怒り出す上司のことはなかなか理解できません。しかし、相手にこのような障害があると知ると、その人の不可解な行動を一定程度理解し、対処することができます。自身のストレス・マネジメントをするには、これらの障害への理解を深める必要があります。

──ご自身も愛着障害について勉強され、「パワハラ・モラハラ・毒親などへの対処法」というFacebookのグループを作られたとのことです。具体的にどのような議論がなされているのでしょうか。

赤羽:このグループは“駆け込み寺”になっています。ここでは、自分の体験談を書き込んでいくのが主です。自分の体験や悩みを聞いてもらい、同様の経験をしている他者の存在を知って、自助努力をする動機づけの場になっています。

──『ゼロ秒思考』でも紹介されていた「A4メモ」ですが、これを行うことによって本来の思考力を取り戻せると書かれています。「A4メモ」とは何でしょうか。

赤羽:私の提唱している「A4メモ」は、次のように書きます。

・A4の紙を横向きに置きます。
・左側にタイトルとして、思いついたことや、嫌なこと、してみたいことを、右側に日付を書きます。
・本文を4~6行、80字ぐらいを目安に1分間で書きます。

 1分で書くことがポイントです。頭の中にあるイメージを最速のスピードで書き上げる。これを毎日10~20ページ書き続けると、頭の中のモヤモヤがなくなり、考えて判断すること、優先順位をつけること、行動や反省をするのが速くなってきます。これが「ゼロ秒思考」です。

 この「ゼロ秒思考」を続けると、やるべきことが分かって、他人に適切に説明することができます。説明も理解でき、話し手の矛盾や言い逃れにもリアルタイムで気づくようになります。感情的でなくなり、常に冷静に他者を思いやり、仕事ができるようになります。

文章の赤羽さん的アウトプット法とは

──本書では、単語登録やタスクシートなど業務を効率化する方法を紹介されています。

赤羽:単語登録は、とても簡単な生産性向上ツールです。しかし、ほとんどの方がこれを利用していないか、利用しているとしてもわずかです。

 単語は200~300語登録することをお勧めします。四文字熟語や珍しい人名漢字、メールアドレス、URL、少し長い文章を登録しておくと、ぐんと生産性が上がります。登録表を見なくても使えるように、キーボードで1ストロークや、ワンタッチで入力できるもの、あ・い・う・え・お、アルファベットの子音k・p・tなど、また2ストロークのもの、最初の2文字を3ストロークで登録します。

 登録する方法をルール化することで、記憶することなく簡単に利用でき、文章を打つスピードが2、3倍上がります。言葉がサッと出てくると考えも加速します。

──日頃からの読書や気になる記事の収集はもちろんのこと、得た情報をアウトプットすることも重要だと本書で述べられています。アウトプットにはどのような効果があるのでしょうか。

赤羽:アウトプットしなければ、せっかく得た情報を使えません。一番手軽なアウトプットはブログです。自分が強く関心を抱いているテーマに関して、1件3000字ぐらいの記事を30件書きます。これだけの量を書くには、深く学び実体験をする必要があります。

 30件分の記事、すなわち合計9万字程度の文章は1冊分の本に匹敵します。内容によっては本を出版する機会に恵まれたり、専門家として認められて、取材や講演の依頼を受けたりすることもあります。人前でアウトプットするようになると情報収集が楽しくなり、覚えようとしなくても自然に覚えられるようになります。

──成長する鍵の中に、「励まし合える仲間を作ること」が挙げられていました。もともと、友人や知人が少ない人の場合、リモートワークをする環境ではそれが一層難しくなってしまうのではないでしょうか?

赤羽:それは心がけ次第です。

リモートワーク下でのリーダーシップの本質

赤羽:現在はClubhouse(クラブハウス=招待制の音声通信SNS)もよく利用されています。私も6月から140回以上(2021年11月24日現在)ほどルームを立ち上げて、お話ししました。参加者は合計で約3万4000人に上り、たくさんの人たちと知り合いました。リアルに会ったこともあります。

 また、私のオンラインサロンに登録している260人の中には、全国各地方の方や海外在住の方もいます。オンラインの中で世界中の人と知り合うことができます。コロナ禍で対面しにくい、という面はありますが、時空を超えて仲間を作ることはできます。

──リモートワークによって、周りのモチベーションや様子が全く分からない状態の中、リーダーシップの発揮や、やる気を引き出すことが以前よりも難しくなっているように感じます。こういった状況では、どのように周囲にアプローチすればいいのでしょうか。

赤羽:基本的には、仕事は対面でした方がベターだと思いますが、場合と状況によっては移動に時間を費やさないリモートの方が良いこともあります。対面とリモートを使い分けることによって、その分自由度が上がる、という利点もあります。

 リモートワークでは、タスクシートの重要性がより増します。部下を持つ上司の方であれば、毎朝zoomで10分間のミーティングをし、タスク毎にA4用紙に1枚ずつ、内容や使う資源、注意事項などを明確に書きます。それを部下に3枚ずつ渡し、全員に伝えて共有してもらう。書面での指示は、口頭よりも内容が明確になります。

──仕事上、複数人で連携を取る中での注意点はありますか。

赤羽:それぞれの担当者の責任が明確であれば、連携は最小限で済みます。

 例えば、2か月単位のプロジェクトで、連携を取りながらある大規模カンファレンスや商品開発をするという時には、製品開発やマーケティング、広報、材料調達など、それぞれの担当者が主となり責任を持ちます。また、関連部署に必要事項を最初に伝えておくといいでしょう。

 むしろ、連携ありきの場合に、ボールを誰が持っているか分からない状況になっていることの方が危険です。メインの担当者を決めた上で、最小限のコミュニケーションを取れば、連携業務は行えます。

──これまでの日本の年功序列や部下は必ず上司に従うという体制が、徐々に変化しているように思えます。

赤羽:日本でも明治期から高度成長期までは、年功序列というよりも仕事ができる人が昇進していました。大企業でも特別に仕事ができる人は抜擢されてきました。

 硬直化した社風の電力系や鉄鋼系、重工業系の企業では、年功序列を壊さないようにする傾向があります。しかし、それらの会社の時価総額は相対的に下がっているので、それも変わっていかざるを得ないでしょう。

 全体として実力主義になり、個人の意識も変化を求められています。部下は上司の指示に100%従うべきであるという価値観を変えられない人は、早期退職制度や子会社への集団出向、「追い出し部屋」行きの対象者となってしまうでしょう。自分の責任で意識を変えなければならない時代です。

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