―[貧困東大生・布施川天馬]―


 現役東大生の布施川天馬と申します。学生生活の傍ら、ライターとして受験に関する情報発信などをしています。

◆大人になっても記憶に強く残っている小説

 皆さんは、子どもの頃に読んでから印象に残っている本はありますか? 僕はミヒャエル・エンデの『はてしない物語』という本が大変印象深く、今でも初めて読んだときの衝撃を昨日のことのように思い出すことができます。

「物語に引き込まれる」とはこのことなのだな、と子どもながら思った記憶があります。

 つい先日も本屋に立ち寄ったところ、児童文学のフェアをやっていました。その中に『はてしない物語』を見かけて懐かしくなり、サッと見て回るだけのつもりが、気づいたときにはレジに並んでいました。

◆物語が知的好奇心をたき立てる

 本に限らず、思い入れがあるものを街中で見かけ、ついつい手に取ってしまったという経験はきっと誰しもが一度はあるでしょう。それほどまでに子どもの頃の印象深い記憶は消えにくく、強烈な存在感を放ち続けます。

 東大生の友人に話を聞いても、やはり勉強が好きな子たちは子どもの頃に知的好奇心を刺激されるような原体験を持っている人が多いようです。

 彼らの話を聞いていると、周りの大人から見ればどうということはなくても、子どもから見ると不思議でいっぱいなのだなと考えさせられます。

 今回は頑張れば小学生でも読めるほど読みやすいのに、知的好奇心が大きくくすぐられる小説を3冊ご紹介したいと思います!

◆○『モモ』

ミヒャエル・エンデ著(岩波書店)

 まずご紹介するのは、児童文学の傑作である『モモ』。

 作者は、先ほどご紹介した僕の大好きな本である『はてしない物語』と同じミヒャエル・エンデ。わりと分厚い本ではありますが、エンデ氏の優しい語り口のおかげでそこまで読みにくくもないはずです。

 この物語で一番注目したいポイントは、物語のメインテーマになっている「時間」。「時間」とは誰しもが知っているものではありますが、「時間ってどんなもの?」と聞かれると説明は難しい、抽象的極まりない存在でもあります。

◆「君たちはどう生きるか」が問われる

 エンデ氏はこの物語の中で「時間」を盗み出す泥棒たちと、彼らの策略に引っかかってどんどん幸せを失っていく町の住民たちを通して、「時間ってなんだろう?」「幸せってなんだろう?」ということを我々に問いかけています。

 生き方を問う名著としては『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)が有名ですが、僕は、この『モモ』こそが現代の子どもたちに向けられた「君たちはどう生きるか」というメッセージなのではないかと考えています。

 大人になるまでに一度は触れておくべき、文学の傑作です。

◆○『桃山ビート・トライブ』

天野純希著(集英社)

 三味線の名手である藤次郎、笛役者の小平太、元奴隷で黒人の太鼓叩きの弥助、そして踊りの天才である舞姫ちほの4人が織りなす、音楽をテーマにしたストーリーが魅力の作品です。

 タイトルの「桃山」とは「安土桃山時代」の桃山のこと。この「安土桃山」は織田信長安土城豊臣秀吉の伏見城があった桃山丘陵からとられているといいます。

 作中の取り扱う時代は、ちょうど戦国時代のすぐあと、豊臣秀吉が太閤として君臨していた瞬間です。戦国時代江戸時代を取り扱った作品は数多くありますが、その狭間の時代を取り扱った時代は比較的少ないのではないでしょうか。

◆軽快で爽快感のあるストーリー

 戦国時代の直後というと、まだまだ自由な気風が想像されるかもしれませんが、実はこの時代、かなりの管理社会だったんです。有名な「刀狩」が行われたのもこの時代。

 あまり取り締まりを緩くしていると、またどこかの大名が反乱を起こしてきそうですし、当たり前のことではあります。しかし、社会からはぐれてしまった主人公たちが生きるには少々つらい時代であったのも確かでしょう。

 僕がこの本に出合うまでの「歴史小説」の印象は、「なんだか小難しい本」でした。しかし、『桃山ビート・トライブ』は軽快な語り口に爽快感のあるストーリーのおかげで、まったく重苦しさを感じさせません。大変読みやすく仕上がっています。

 もちろんこの物語はフィクションですが、歴史の中にあったかもしれない一幕に思いをはせるには十分でしょう。想像力をかき立てる一冊です。

◆○『盗賊会社』

星新一著(新潮社)

ショートショート」という小説の形式をご存じでしょうか。1920年代にアメリカで生まれた手法で、「ショート(短い)」の名に違わず、長くても5ページ程度の大変短い小説であることが特徴です。

 星新一ショートショートの名手であり、その生涯で1001編もの作品を発表した、「ショートショートの神様」と呼ばれる稀代の天才作家です。

 彼のショートショートの特徴は、何と言っても「短いのに練りこまれた設定」と「意外性のある結末」でしょう。1001編もある作品の、どれをとってもまったく異なるオチがついており、どれもこれも予想を裏切るような展開が待っています。

 特にSFを書かせたら彼の右に出るものはいないでしょう。「何を食べたら、こんな設定を思いつくんだろう」と不思議に思えるような世界が次から次へと湧いてきます。

◆皮肉もワクワクも混在した独特の読後感

「こんな未来が、いつかやってくるのかもしれない」というワクワクや、「こうなってしまうのか」という皮肉にも似た驚きは、きっと彼の作品特有の読後感でしょう。

 本当は「星新一の作品群すべてがオススメ!」としたかったのですが、ほかの作品は1冊に絞った紹介をしていますし、ここはあえてベストを選ぼうと思ったのです。そこで、僕が初めて星新一に触れた本である新潮社版の『盗賊会社』をセレクトしました。これ以外の作品だと、『おーいでてこーい』などもオススメです。

 現在では新潮社以外にも、理論社などさまざまな会社から文庫化されています。不朽の名作の名に恥じず、いまなお老若男女問わずさまざまな世代から愛される「間違いない1冊」です。

 タイトルを見て「ん?」となった作品があったら、ぜひ一度読んでみてください!

知的好奇心を育む作品とは…

 小学生のころから気負いせずに読めて、知的好奇心がかき立てられるような内容の小説は、子どもにとって大変貴重です。

 本を読む習慣とともに、「これってなんだろう?」「これって本当なのかな?」と考えるクセをつけるには、ほどほどの難易度でありつつ、引き込まれるような世界観を有した作品でなくてはならないためです。

 本日紹介した3冊は、どれもページをめくる手が止まらなくなってしまうようなものばかり! 大人も子どもも楽しめるような作品ですから、ぜひ一度手に取ってみてください。

【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある(Twitterアカウント:@Temma_Fusegawa

―[貧困東大生・布施川天馬]―