北京冬季五輪まで2か月を切った。

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 これまではウイグル人の強制収用問題や香港に対する強権政治による自由剥奪といった主として人権問題で「外交的ボイコット」などを米英豪などの自由諸国が検討していると報道されてきた。

 そうした中で、中国人テニス選手・彭帥さんの「行方不明」事件が起きた。

 大坂なおみ選手ら超一流アスリートたちの懸念表明などで解決したかにみえるが、真実は藪の中で分からない。

 しかし、共産党指導部にとって都合悪いことが起きると、渦中の「人」を行方不明にして事態を人民や国際社会から隠蔽し糊塗する強権国家であることを暴露した。

 こうした、強権国家で開かれる五輪に参加することは、いうなればその体制を容認したことにもなる。

 近年のウイグル人の強制収容がジェノサイドとして強く批判されているが、中国は建国以来、チベットの宗教施設破壊や、最近ではモンゴルの文化抹殺などもやっている。

 元々、「平和の祭典」を開くには程遠い国のようだ。

 2008年には北京夏季五輪を開催したが、国歌斉唱が実は口パクだったり、50余の少数民族を代表する子どもたちがすべて漢民族だったというインチキなどが発覚している。

中国の巧みな国家戦略

 毛沢東鄧小平に次いで権力者の証とされる「歴史決議」を行って、その存在感を世界に示す絶好の機会と見られた北京冬季五輪であるが、習近平の余りの権力主義が祟って試練に直面している。

 大変な困りごとが起きたときは、日本を利用すればいいというのが中国の定石である。

 習近平主席の国賓訪日は一里塚であったが、中国発のコロナ禍ブーメラン返り討ちとなり、実現しなかった。

 中国はソ連と対立するようになると、帝国主義と批判していた日米に接近する。日中国交正常化に当たってはソ連の覇権に反対する「反覇権」の文面化を執拗に求めた。

 日本を反ソの一翼に巻き込んだわけである。

 鄧小平が権力者になると、「韜光養晦」(とうこうようかい) 戦略をとり、力がつくまでは低姿勢で事に処し、尖閣諸島の問題解決は「後世の知恵」に任せようと言葉巧みに下手に出てきた。

 日本が鄧の言葉に陶酔しているうちに、尖閣は今日の惨状となった。

 韜光養晦戦略の真意が見えたのが、民主化を要求する若者の運動が高まると武力で弾圧した天安門事件であった。

 日本をはじめとする自由主義諸国が一斉に非難し、制裁を科した。

 そうした中で、連帯の鎖が最も弱いと見た日本にいち早く接近し、肇国以来かつてなかった天皇の中国訪問まで実現させる。

 日本の大いなる反省点であろうが、中国の巧みな国家戦略、外交戦術に絡め取られたとみるのが至当であろう。

 日本は知らず知らずのうちに、共産党による一党独裁堅持の最大の協力者として利用されてきたわけである。

またもや日本を「利用」し始めた中国

 外相就任まで林芳正氏は日中友好議員連盟の会長であった。

 親中派の有力議員と見られてきたわけで、米国をはじめとした西側諸国で中国の人権弾圧を理由に北京五輪への「外交的ボイコット」を行おうとしている中で、王毅中国外相が林外相との電話会談(11月18日)で訪中を打診してきた。

 目的は明々白々である。中国は日本を政治利用する決心をしたのである。

 対中経済関係は言うまでもなく重要であるが、日本は基本的に人権を重視する国である。中国は日本が外交的ボイコットに与しないように動き始めたわけである。

五輪の政治利用を暴露した中国

 また、中国外務省の趙立堅報道官は11月25日記者会見で、「中国は既に、日本の東京五輪開催を全力で支持した。日本は基本的な信義を持つべきだ」と述べた(「産経新聞11月27日付)。

 中国における人権問題を理由に、日本で「外交的ボイコット」を求める声が高まっていることを牽制する発言であることは言うまでもない。

 東京五輪を中国が「全力で支持する」と表明したか否かは知らないが、参加した国が日本の五輪開催にクレームをつけたという話は聞いていない。

 中国は「全力で支持した」というが、開催前は言うまでもなく、開催中も尖閣諸島周辺への侵入を繰り返していた。

 コロナ禍でただでさえ神経が張り詰めていたところに、尖閣侵入は日本が五輪に集中するのを妨害したわけで、今に至って中国が「全力で支持した」と敢えて言うのは牽強付会もいいところである。

 しかも、「基本的な信義」とは妙な言い方であるが、これまでの日中間の取り決めで、信義を守らなかったのは中国の方ではないだろうか。

 そうした被害の最大が、中国が告白している「天皇訪中」の政治利用であった。

 趙氏は「日中双方には五輪開催を相互に支持することに関して重要な共通認識がある」と主張し、東京五輪を支持したから北京五輪を支持するのが「両国指導者の達した重要な共通認識」だと強調した。

 中国を除く国々は、自国が東京五輪に参加するのは、爾後の自国での行事を積極的に支持してもらうためなどとは考えもしていなかっただろう。

 しかし、中国はそうではなく、ギブアンドテイクで東京五輪に参加していたというのだ。ここにも中国らしい、いや中国にしかない深謀遠慮があったわけである。

 日本を北京五輪に参加させるための、中国の東京五輪参加であったというわけで、政治的思惑以外の何物でもない。

 しかし、これはあえて言えば、後付けの理由であろう。

 外交的ボイコットを行う国が少しずつ増えて雲行きがおかしくなってきたために、なりふり構わず日本を引き留めようとする、いつもの困ったときの「日本利用」という政治工作でしかない。

オミクロン変異株の脅威

 当初は武漢ウイルスと呼ばれた新型コロナウイルスであったが、国名地名は差別につながるということでCOVID-19とされた。

 変異する株も英国型、インド型などからアルファ、べーター、ガンマデルタ・・・と、ギリシャ名称で変異株が呼ばれてきた。

 本来であれば今回出現のコロナ株はシー(Xi)らしいが、シーが習近平の習と重なるため、WHOが忖度してオミクロンと名付けられたともいわれる。

 呼称の由来はともかくとして、オミクロンは従来にも増して強力な感染力を持っているとされる。

 五輪では選手同士の頻繁な接触が避けられない。また、終わった後は選手たちが世界に散らばっていく。検査ではコロナの容疑者と確定されなくても、後日感染者と判明するかもしれない。

 筆者は過日路上をジョギングして転倒し、救急車で運ばれた。搬入先の当初の検温や2回のPCR検査では陰性であったために一般病棟に入院となった。

 少々の移動でナースステーションに着いた10分後に再度検温すると、なんと37度を超えており、コロナ嫌疑で隔離された病棟に入院する羽目になった。

 翌日もその翌日もPCR検査を受けるが陰性、しかし検温では37度台で嫌疑は晴れない。数日後、強度の打撲での高熱と判明し一般病棟に転室するが、ともかくコロナ感染は見つけにくい。

 オリンピックに参加した選手のコロナ感染の有無を同様に論じることは粗雑すぎるが、どこでどういうふうにコロナが広がらないとも限らない。

 ましてや変異するたびに強力となるオミクロンについては、ワクチン効果も低減すると見られている。

 オミクロン株の出現で、多くの国が出入国を一時的にせよ制限・禁止する措置に出ている。

 オリンピックコロナウイルスが蔓延しやすい冬季であり、しかも、ゼロコロナ政策をとっている中国では都市のロックダウンなどが何の予告もなく強権的に行われ、場合によっては参加選手がなかなか帰国できないかもしれない。

 帰国した選手が国民に感染させるかもしれない。五輪終了までは何かが起きていても中国は公表しないだろう。

 帰国後に公表すればどんな目に合うかもしれないと脅迫される危険性もある。

 そして「成功裏に終了」と中国が宣伝した後で、潜伏していたコロナが広まれば、持ち帰った国の管理不行き届きとしてしまうに違いない。

ボイコットの新たな理由

 しかし、ここにきてさらに大きな危惧がもたらされている。それは、政治的に対立する国の選手の「拘束」である。

 危険性が論じられているのは台湾の参加選手である。

 参加はわずか8人と予測されるが、たとえ一人でも拘束されるとなれば、「平和の五輪」とは言い難い。

 こうした危惧を抱いているのは、ほかにカナダや豪州である。日本も外交的ボイコットなどに参加した場合、選手たちが拘束されないという保証はない。

 オリンピックとは関係ないが、今でも何人もの日本人が拘束され、裁判にかけられ、一部では判決も出ているが、さっぱり透明性がない。

 それは政治的取引などにするための拘束などが背景にあるからとみられる。

 拘束された人にとっては冤罪以外の何物でもないが、政治的取引のためにこうしたことを平然とやるのが中国である。

 競技に参加する選手が戦々恐々としていなければならないとなると、選手の精神状態は尋常ではなく、競技に打ち込めないのは言うまでもない。

 どこから見ても、「平和の祭典」でもなければ、フェアプレーに徹したパフォーマンスを披露する環境にもない。平常心で競技に臨めない選手が出る可能性を否定できなくなりつつある。

おわりに: 五輪精神を蔑ろにする雰囲気が「失格」

 純粋にオリンピックという視点からは、中国への同情も忖度も禁物である。

 ボイコットには全世界が選手を送り込まない全面ボイコットから、政府首脳や外交関係者が開会式などに参列しない外交的ボイコットなどがある。

 よしんば競技が開催されたとしても、選手の気持ちにわだかまりがあっては競技に集中できないであろう。

 東京大会では人為的なものではなかったコロナ禍で、入国時の検査や入国後の移動制限、肝心の競技では観客無し、学童たちが見学できても声を出す応援はダメなど、選手たちが普段に行い、競技中に感じてきた雰囲気とは似ても似つかない態様となった。

 この結果、世界のトップアスリートさえ、精神的な異変を訴えるなどして、プレーに専念できなかったり、登録を抹消することさえあった。

 ましてや、人為的に普段の発言などに対して、あるいは対立国家の一員というだけで「拘束」などを受けるかもしれないという危惧が心中に生ずれば、プレーに専念できないことは言うまでもない。

 こうした危険性は台湾選手ばかりではなく、何らかの形で中国と対立している国々、英国、オーストラリアカナダ、台湾に接近するリトアニアチェコ、一帯一路に少しずつ距離を置きつつある国々、そして何よりも政治的に最も利用されやすい日本など、多くの国の選手が該当する。

 これでは、とても落ちついた精神状態でのプレーなど期待できない。

 総じて、五輪精神が蔑ろにされており、国家の参加意欲、選手のパフォーマンスを削ぐ雰囲気が、既に開催国「失格」である。

 開催国家・都市とIOCは「平和の祭典」の環境を作為し、選手たちが最高のプレーをできる状態に持って行くのが大切であるが、既にその状況が壊れているのではないだろうか。

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