約半年間の漫画連載で頂点を決める、漫画賞としては異色のグランプリがある。昨年からスタートした「クニエ漫画グランプリ」は、2回目となる今年から、ノミネートされた6作品に連載権を提供し、グランプリを決定するというユニークな試みを取り入れた。また、主催の株式会社クニエも、出版社やIP(知的財産権)を取り扱う企業ではなく、企業向けのコンサルティングサービスが本業だ。WEB発の漫画が年々勢いを増す中で、コンサルティングファームが漫画賞を立ち上げた狙いはどこにあるのか。

【漫画】クニエ漫画グランプリ2021ノミネート作品を読む

■全6話連載、受賞を逃しても「60万円」の漫画賞

クニエ漫画グランプリは、コンサルティングファームの株式会社クニエが、オンラインで運営する漫画賞。今年5月から開催している「クニエ漫画グランプリ2021」では、「貢献」「熱意」「誠意」「志」「共感」「仲間」の6つのテーマでそれぞれ短編作品を募集。一次審査を突破した各テーマ1作品、計6作品を9月からグランプリ特設サイト上で毎月連載し、全6話の内容で審査するというこれまでにない方式で選考を行っている。

さらに異例なのは、グランプリの賞金30万円とは別に、連載に原稿料を支給している点だ。連載1話につき10万円、連載期間中に各作家にそれぞれ計60万円を支給するという。惜しくも受賞を逃した作家にも一定の報酬が確約されているという、コンテストとしては破格の待遇だ。

日本の漫画を世界中に発信し新人漫画家の育成を支援することを目的に運営しているという同グランプリ。その誕生のきっかけや、ユニークなシステムについて、株式会社クニエを取材した。

■コンサル企業の漫画賞、マネタイズではなく「日本文化の醸成」への想い

――コンサルティングが本業の御社が「クニエ漫画グランプリ」を立ち上げた経緯を教えてください。

「クニエは総合ビジネスコンサルティングファームで、主に経営戦略・企業変革を実現するためのコンサルティングサービスを国内外で提供しています。

海外でコンサルティングビジネスを展開する中で、漫画をきっかけに日本を知り、日本に興味を持ったというお客様に数多くお会いし、漫画が日本文化の浸透に果たした役割の大きさを強く感じました。

また、日本の漫画の現状として、才能があるにもかかわらず埋もれてしまっている作品や漫画家も多いということを知り、世界各国にファンを生みだしてきた日本の漫画を応援することができないか、そう考えました。そして2020年、『才能ある漫画家が世に出るチャンスを増やし、漫画を描くことで独立できる社会に向けた一助になれば』との想いから、クニエ漫画グランプリを立ち上げました」

――一次審査では6つのテーマが設定されていました。これらがテーマとなった理由は?

「今回のグランプリで応募いただく漫画のテーマは、当社の企業理念を象徴する6つのキーワード『貢献』・『熱意』 ・『誠意』・『志』 ・『共感』 ・『仲間』に設定しました。クニエの企業イメージにも通じるコンテンツになることを期待しています」

―― 「才能のある漫画家の発掘と育成」を掲げている本賞ですが、性格としては営利事業ではなく文化事業という側面が強いのでしょうか?

「私たちは事業としてこの漫画グランプリを開催しているわけではなく、日本の漫画文化への貢献の取り組みと考えています。クニエはビジネスコンサルティングの会社ですが、“日本発”のグローバルコンサルティングファームであること、それがクニエのオリジナリティの一つだと考えています。そして日本企業として、日本文化の醸成にも広く貢献したいという強い使命感を持っています。こうしたクニエの貢献の想いを具体化した施策の一つとして、漫画グランプリに取り組んでいます」

■「プロフェッショナルに敬意を」ノミネート作品に原稿料支給の意味

――「応募作」でノミネート作品を選び、それらを「連載」して審査する形式の狙いを教えてください。

「才能があるにもかかわらず埋もれてしまっている作家も多い現状がある中で、公募、ノミネートを経たのちに6カ月の連載を公開すれば、よりたくさんの作品が人の目に触れる機会を作り、また長期にわたって読者を集めることもできると考えました。6名の作家とその作品が成長していく過程を読者参加型で応援することで、皆で楽しく盛り上げていける、そういったユニークなグランプリづくりを目指しました」

――グランプリでありながら、賞金とは別に連載原稿料を支給するのも異色だと感じました。

プロフェッショナルに対して敬意を払うという意味で、連載原稿料をお支払いすることにしました。グランプリを目指す作家の皆さんのモチベーションのためにも、賞金や報酬は必要だと考えています」

――現在はノミネート作品の連載がスタートしています。反響はどうなっていますか?

「現在、第3話まで公開しており、当初の想定よりも多くの方に連載作品を読んでいただいています。今回連載している6名の作家には、元々多くのファンがいらしたこともあり、第1話公開のタイミングからたくさんの方が漫画グランプリ公式サイトを訪問くださいました。また、連載開始時に行った、Twitter上でのさまざまなプロモーションも読者数の増加につながったと思われます」

――昨年と比較して、応募する作家の方々からの反応の変化はありましたか?

「今回は100名弱の応募がありましたが、第2回から始めた6か月の連載形式という点に魅力を感じられた方が多かった印象です。

また新しい試みとして、公募を開始したタイミングから、参加してくださった作家のコメントや作品制作の過程なども公開していました。ファンからの応援コメントも多数投稿されていて、それが励みにもなっているようです」

■アジア諸国での展開も視野に、グランプリの理想の形を模索

――今後は、グランプリをどのようなものにしたいと考えていますか?

「今後もこの活動を続けていければと考えております。将来的には漫画グランプリをクニエの拠点のあるタイ、インドネシアマレーシアベトナム、中国などでも展開したいという構想も持っています。ご存知のように中国や東南アジア諸国において日本の漫画は大変人気があり、多くの方々に愛読されていますので、日本の作家の皆さんにとって新たな読者の獲得に繋がるかもしれません。そして、それらのエリアでクニエ漫画グランプリを実施することで、現地の方々がクニエに親しみを抱いてくれるのではないかとも期待しています」

――御社自体の事業として、出版社と連携やグランプリ作品の商業化といった展開はありうるのでしょうか?

「グランプリ自体を商業コンテンツとしていくような考えは持っておりません。ですが、クニエ漫画グランプリが目指すところは、『才能ある漫画家が世に出るチャンスを増やし、漫画を描くことで独立できる社会に向けた一助になる』ことですので、出版社とのタイアップなど受賞作家の活動支援といった展開はあり得るのかもしれません。このグランプリの理想の形をこれからも模索していきたいと思います」

連載はクニエ漫画グランプリ2021公式サイトにて2022年2月まで行われ、同月にグランプリも発表予定。漫画発表の新たなスタイルに注目だ。

ノミネート作品を6カ月の連載の上選考する「クニエ漫画グランプリ」