世論調査では日本国民の8割が死刑制度に「賛成」という結果が出ている。一方で、死刑の詳細は法務省によって徹底的に伏せられ、国民は実態を知らずに是非を判断させられていると指摘する有識者も少なくない。

 その一人が共同通信社で編集委員兼論説委員を務める佐藤大介氏だ。ここでは、同氏の著書『ルポ死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル』(幻冬舎新書)の一部を抜粋。確定死刑囚は一日をどのように過ごしているのか。生活の実態について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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空がわずかにのぞけるだけの独居房

 2021年10月16日現在、日本には112名の確定死刑囚がいる(釈放中の袴田巌さんを含む)。裁判で死刑が確定すると、被告人から死刑囚となり、絞首による死刑執行施設のある拘置所に収容される。死刑執行施設は、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡の7拘置所に置かれている。刑務所ではなく拘置所に収容されるのは、確定死刑囚は執行によって死ぬこと自体が刑であり、服役囚のように刑務所で労務作業に従事する必要がないからだ。

 このうち半数に近い53人と、最も多くの確定死刑囚を収容しているのが東京拘置所だ。東京の下町を流れる荒川近くの住宅街にあり、約3千人が収容可能な国内最大の刑事施設で、確定死刑囚のほか、東京23区内での被疑者や被告人、関東地方の控訴・上告中の被告人、受刑者を収容している。

 1971年に東京・巣鴨から現在の葛飾区小菅(こすげ)に移転し、2012年3月には地下2階、地上12階、延べ床面積が約9万平方メートルに及ぶ新施設が完成した。巨大なオフィスビルのような灰色の建物で、中央に管理棟がそびえ、扇形の枠のように収容棟が配置されている。以前は高さ5メートル前後の外壁が周囲を取り囲んでいたが、圧迫感をなくすために撤去され、代わりにフェンスが設置された。

 だが、その内部に一歩足を踏み入れると、外部の世界とは一変し、重苦しく張り詰めた空気が漂う。

 死刑囚は「単独室」と呼ばれる独居房に収容され、その広さは約7.5平方メートル。特殊強化ガラスが入れられた窓に格子はないが、そこから見えるのは通路の先にある曇りガラスとよろい戸(ルーバー)のみ。空がわずかにのぞけるだけで、外の景色はほとんど見ることはできない。電車や車の音などもまったく聞こえず、外部から完全に遮断された空間となっている。

東京拘置所の一日

 ここに収容されている確定死刑囚の一日は、裁判で判決の確定していない「未決拘禁者」の生活と基本的に同じだ。

 午前7時に起床し、7時25分に朝食。11時50分の昼食と、午後4時20分の夕食をはさみ、5時の仮就寝(照明を暗くはしないが寝ることは可能)、9時の就寝と決められている。この間、運動や入浴なども行われるが、それ以外は基本的に余暇時間だ。民間業者と契約して、袋張りなどの簡単な作業に従事して報酬を得る「自己契約作業」をする場合もある。

 拘置所内には確定死刑囚を専門に収容する「死刑囚棟」「死刑囚ブロック」といったようなエリアが存在すると思われがちだが、実際には一般の収容者と交ざるかたちで、分散して独居房に収容されている。

 扇形の枠のようになっている4つの収容棟(A~D棟)すべてに確定死刑囚が収容されているが、数の多いのがC棟とD棟の11階だ。それぞれのフロアには66の房(部屋)があるが、確定死刑囚が収容されるのはそのうちの30房ほど。確定死刑囚は一房ずつ間を空けて収容される。

 確定死刑囚の入る房はいずれも奇数番号で、そこには監視カメラが取りつけられている。間の房には東京地検特捜部が扱った事件の被告人といった、社会的に著名な人物を入れることが多いが、周りの房に死刑囚がいると伝えられることはない。

 確定死刑囚が一日の大部分を過ごす房は、建物の外壁から約1・5メートル内側に設置されており、通路を挟んだ「部屋の中の部屋」といった構造になっている。「内部を見たり、見られたりされたくないという近隣住民への配慮」(東京拘置所幹部)というが、被収容者にとってはかなりの心理的圧迫となることは間違いない。そのため、被収容者に過剰なストレスを強いているとして、改善を求める専門家の意見も根強い。

 室内の壁は明るい白で、薄緑色の畳が3枚敷かれ、奥には洋式トイレと洗面所がある。洗面台の蛇口がボタン式なのは、突起物をなくして自殺を防止するためだ。洗面所の鏡は割れないフィルム式で、壁のフックも一定の重さがかかれば外れる仕組みになっている。

私物持ち込みは120リットルまで

 確定死刑囚が室内に持ち込める私物は、許可されたものを約120リットル分までと定められている。このほか、1個当たり55リットルのコンテナ(プラスチックケース)を3個まで「領置品倉庫」に預けられる。東京拘置所の領置品倉庫は完全にオートメーション化され、被収容者のデータコンピューターに入力すると自動的にコンテナが抽出されてベルトコンベアに載せられ、係員の手元に運ばれてくるシステムになっている。その光景は、さながら宅配便などの物流倉庫にそっくりだ。

 金銭は拘置所側が管理し、一定の範囲内で指定業者から食品や日用品を購入できる。食事は室内に置かれた小型テーブルでとる。自殺の可能性がある死刑囚には、木製の箸ではなく紙製のスプーンを与えることもあるという。

 食事は主食のご飯が1日1200キロカロリー、副食のおかずは1日1020キロカロリーが基準。新施設が完成してから間もない2012年10月に取材に訪れた際、昼食メニューは〈鶏のごま焼き、ナスのみそ炒め、タラのすまし汁、麦入りのご飯〉。担当の刑務官は「食事内容の評判はいい」と胸を張っていた。

 室内では、ラジオの聴取は可能で、聞きたい場合はスイッチを入れると室内に音声が流れる。ニュースは録音したものが半日遅れで放送される。テレビの視聴はできないが、拘置所側が作成したリストから選んで、定期的にビデオを見ることができる。書籍の自費購入は1週間に3冊までが可能だ。

運動も入浴もひとり

 余暇時間内に運動を行う際は、屋上に設置された運動場が使われる。時間は1日30分。10人ほどの被収容者を集めて運動できる場所もあるが、確定死刑囚の場合、左右が壁で奥にはよろい戸がある1人用の運動場で行う。

 頭上には金網が張り巡らされ、その上に空が見えるものの、独居房と同じく外の景色を目にすることはできない。外の空気に直接触れられる貴重な機会ではあるが、車や電車の音がわずかに聞こえるだけの視界を制限された空間では、ストレスを発散するのは難しいだろう。

 上からのぞき込むように刑務官が監視するための通路があり、確定死刑囚縄跳びをしたり、体操をしたりしながら時間を過ごす。爪切りを行えるのもこの時間だ。

 浴室も1人用を使用し、小さな浴槽とシャワーがついたユニットバスのような形になっている。外部から監視する際に一部が死角となるため、入り口外側の壁に半球形の鏡が取りつけられている。同拘置所での入浴は夏ならば週3回、冬は2回。入浴時間は原則1回につき男性が15分間、女性が20分間となっている。

心を支える「祈りの場所」

 確定死刑囚たちは孤独と監視の中で時間を過ごすが、そうした「日常」から少しでも離れ、自己の内面を静かに見つめることのできる場所が「教誨室」だ。希望者は、月に1回程度、宗教者である教誨師から教誨(教えや諭し)を直接受けられる。

 教誨室は仏教とキリスト教の2つの部屋が用意されており、室内には祭壇や宗教関係の本などが置かれ、どこか落ち着いた雰囲気が漂っている。仏教の部屋では、畳の部屋に仏壇が設けられ、ろうそくが立てられている。キリスト教の方には、教誨師とともに賛美歌を合唱するためのCDプレーヤーもあった。さらに、教誨室の窓からは、普段は目にすることのない外の景色をわずかながらも見ることができる。

 教誨には刑務官も立ち会うが、手錠や腰縄がされることもなく、穏やかな雰囲気の中で確定死刑囚と教誨師が向き合う。宗教の教えについて熱心に尋ねてくる者、自分の犯した罪の重さに対する苦悶をぶつけてくる者……姿はさまざまだが、家族や友人など社会から隔絶された環境に置かれた被収容者たちにとって、すこしでも心を潤すことのできる貴重な場所となっているようだった。

 拘置所側にとっても、被収容者の「心情の安定」を図るという重要な目的を果たす役割を担っている。被収容者の誰もが使える施設だが、東京拘置所によると、訪れるのは確定死刑囚が多いという。

 このほか、拘置所内の医療施設には約10人の医師と、約20人の看護師が所属している。医療機関として病院指定も受けており、CTスキャンレントゲンなどの本格的設備や、歯科治療のための機材も整っている。

 だが、確定死刑囚たちがどのように一日を過ごすかという流れはわかっても、実際の様子を知ることは困難だ。東京拘置所の取材に訪れた際も、確定死刑囚の収容されているフロアを訪れることは認められず、別のフロアで同タイプながら未使用の「単独室」を見ることができただけだった。

 死刑判決が確定すると、死刑囚は外部との接触が厳しく制限され、許可された親族、友人以外とは面会や手紙のやりとりはできない状況に置かれる。法務省は、死刑執行を待つ身である確定死刑囚の「心情の安定」を理由に挙げるが、確定死刑囚の姿が厚い秘密のベールで覆われている事実に変わりはない。

「塀の中のエリート」が見た死刑囚

 収容中の確定死刑囚について、その具体的な状況を知る数少ない関係者の一人が、被収容者の身の回りの世話や食事の準備、配膳、清掃などの雑務をこなす「衛生夫」だ。

 衛生夫は、判決で懲役刑が確定した受刑者のなかから選ばれるが、初犯で犯罪傾向が進んでおらず、一定程度の学力を有している人物が対象とされる。刑務官の右腕として働く、いわば「塀の中のエリート」だ。東京拘置所にも、全体の被収容者のうち200人ほどが衛生夫として労務に服している。

 このうち、ごく一部の衛生夫が、死刑囚が多く収容されているフロアの担当として配置される。東京拘置所で約2年にわたり、衛生夫として服役した江本俊之さん(仮名)もその一人だ。

 江本さんは実刑判決が確定後、未決囚として収容されていた東京拘置所から移動せず、そのまま衛生夫として仕事に従事することとなった。衛生夫としての配属先が言い渡される際、担当の刑務官から「そこはブルーゾーンだから、とくに気をつけてほしい」と注意されたという。

 説明を受けた後、別の刑務官から、ブルーゾーンとは長期にわたって収容されている人のいる場所のことを意味すると教えられた。

「長いからいろんな人がいるので気をつけろよ。『長い』っていう意味は、わかるよな」

 刑務官はそうつけ加えたが、最後までそのフロアに確定死刑囚が収容されているとは口にしなかった。

 江本さんが担当したのはC棟の11階。66の独居房があり、30名ほどの確定死刑囚が収容されていた。配属されたその日から、各房へ食事を配ったり、掃除をしたり、頼み事を聞いたりと、確定死刑囚たちと身近に接することになった。そのなかには、オウム真理教の元幹部たちのほか、袴田さんも含まれていた。

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《異例インタビュー》「担当職員は、一定の感情がわきます」現役拘置所幹部が明かした“死刑囚”への正直な思い へ続く

(佐藤 大介)

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