(藤原 修平:在韓ジャーナリスト

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ウィズコロナ」に突入して1カ月あまり経った韓国では、街中が多くの人で賑わい、満席の飲食店も珍しくない。第5波が落ち着いても客足がなかなか戻らない日本とは、実に対照的である。

 だがその一方で、あの「K防疫」(韓国の感染予防対策)に異変が起きている。

衝撃的な感染者の増加

 韓国では新型コロナの新規感染者数が1日当たり5000人を超える日が続いている。12月4日の発表によると、前日の3日だけで過去最多の5352人が検査で陽性とされ、70人が亡くなる事態となった。

 日本の人口(韓国のおよそ2.4倍)に換算すると、1日に1万3000人ほどが感染し、170人近くが命を落としたことになる。もしも日本でこれだけの死亡者が1日に発生すれば、今年5月18日に記録された218人に次ぐ2番目の多さという衝撃的な数値である。

 コロナ病床の不足も「非常事態」で、首都圏での危篤・重症患者の病床稼働率は90%に逼迫している。しかもこれに加え、オミクロン株の市中感染が現実となりつつある。

 この状況に全国各都市の自治体では、コロナ病床の拡充が模索されている。また、ソウル市の呉世勲(オ・セフン)市長は12月3日、同市病院会の代表団との会議において、市内各所の町医者でコロナ患者を診察できるかを議論した。

 韓国の文在寅ムン・ジェイン)政権は、先月から「ウィズコロナ」を標榜し、以前まで続けてきた厳格な防疫措置を大幅に緩和した。

 しかしウィズコロナが始まる前の週でも、1日の新規感染者2000人近くに及ぶ日が続いていたほか、末期医療を担うホスピスを中心にブレイクスルー感染が確認されていた。コロナ対策の本丸は「国民の健康、とりわけ生命を守ること」である。だが残念ながら、今の韓国政府はそれができていない。結局、ウィズコロナ政策は12月6日に中断され規制が再び強化されることになった。

 ワクチン接種完了率が80%を超えていた韓国で、なぜそのような事態が起きたのだろうか。

韓国政府が犯した2つの誤り

 2つの根本的原因が考えられる。

 1つ目は、ワクチンの有効性が失われる時期を韓国政府が見誤ったという点だ。

 韓国ではファイザーモデルナのワクチンの確保が大幅に遅れた。それにもかかわらず、日本よりもわずか10日遅れで医療従事者や入院患者の接種を開始した。その時使われたのが英アストラゼネカ社製である。

 このワクチンファイザーモデルナのものに比べてどれだけの有効性があるのかは、様々な議論がある。だが、はっきり言えるのは、今年(2021年)8月、「アストラゼネカの有効性は2回目の接種から5カ月」という英保険当局の発表をBBCが報じたにもかかわらず、韓国国内でその議論が巻き起こらなかったという点だ。

 韓国の医療従事者や入院患者がこのワクチンで2回目の接種を受けたのは、だいたい4月末以降である。前出のホスピスでの相次ぐ感染も、それから5カ月が過ぎた10月上旬から頻発していた。ちょうどその頃に話をした医療従事者は「このままウィズコロナを進めて本当に大丈夫なのか」と不安を漏らしていた。にもかかわらず、ウィズコロナの方針を見直すような動きを韓国政府は一切見せなかった。

 そうした意味で、韓国のウィズコロナへの突入は強行突破であった。

 しかも文在寅政権は、そうした強行突破を正当化するために、韓国をコロナ禍から解放するストーリーを社会に定着させていた。これが2つ目の原因だ。

日本の災難は対岸の火事?

 11月22日に韓国紙「中央日報」が興味深い記事を掲載した。国際リサーチ機関が「新型コロナの大流行が遠からず終息すると思うか?」を問うアンケート調査を行ったところ、肯定的な回答をした人の割合は、韓国が52%で、日本の28%の2倍近くにのぼった。調査期間が9月24日から10月8日までであり、日本は第5波の流行からほぼ抜け出た頃だったことを踏まえると、韓国では、それまでの隣国の災難は対岸の火事としてしか捉えられていなかったのだ。

 それに先立つ5月には、国内でワクチンを2回接種した場合、海外から入国後に義務付けられていた14日間の隔離が免除された。さらに7月になると、その対象が海外の接種者にも広げられた。

 また、それとほぼ同じ時期に、サイパンとトラベルバブル(接種完了者につき双方で隔離免除)協定を結ぶなど、限定的ではあるが海外との往来の活発化に韓国政府は積極的であった。

 春から夏にかけて、こうしたことは現地メディアにより大々的に報じられた。その末にコロナ終息を楽観視する前出のアンケートの報道がある。政府にも国民の間にも「自国のコロナ対策は大丈夫だ」という意識が根付いてしまったのだ。

K防疫バブルは崩壊した

 このことでもう1つ忘れてはいけないのが、6月に英コーンウォールで行われたG7サミットである。保健セッションの席で、米バイデン大統領と英ジョンソン首相が「防疫ナンバーワンはこの人の国」と文大統領を指した。文大統領が昨年から宣伝してきたK防疫が国際社会から評価された瞬間であり、韓国メディアは誇らしげに報じていた。K防疫への称賛はバブルの絶頂だった。

 韓国にとって現在の新型コロナ感染再拡大は、まさに青天の霹靂である。これに対応すべく、韓国政府はブースター接種(3回目の接種)の時期を早めるなどの対策を発表。すると11月29日には、耳を疑うような発言が文大統領の口から飛び出した。ワクチンは「3回打てば接種完了」と言うのだ。

 3回目のワクチンを打ったとしても、いったい何カ月間、効果を持続できるのだろうか。それに、たとえ経口薬が流通しても、4回目の接種が必要ないなどとは、現状ではとてもではないが考えられない。もしかすると別の新たな変異種が発生するかもしれない。

 K防疫バブルは崩壊したのだ。それを軌道に乗せる余力と時間は、来年5月に退任する文大統領にはもはやない。

 大流行を予感させるオミクロン株が、重症化リスクの少ないウイルスであるのを祈るばかりだ。「防疫ナンバーワン」と言われて浮かべていたあの満面の笑みが、今となっては懐かしくもある。

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韓国で新型コロナウイルスの感染が再拡大している。2021年12月4日、高陽市の公園で撮影(写真:AP/アフロ)