人間界には様々な愛のカタチがあるが、カエル界にもいろいろあるようだ。中米に生息する「スパイクサムフロッグ(Plectrohyla dasypus)」のオスは、メスの背中に抱きつくと、皮膚に噛みつき傷つける。
はっきりと歯形がつくほど強く噛むのだが、そのときにできた傷から「性フェロモン」を注入するのだ。
ちょっとしたSM的展開にハラハラするわけだが、なぜ性フェロモンを注入するのか、はっきりしたことはわからない。
メスの産卵時期を早める可能性も示唆されているが、このカエル的にはメスを傷ものにすることがロマンチックな愛の営みなのだ。
ドイツ・ゲーテ大学の生物学者リサ・M・シュリテ氏の説明によると、体に傷をつけて行う交尾、「外傷性受精(traumatic mating)」は、両生類ではそれほど珍しいことではないのだという。
カエルの仲間には、親指のトゲでメスを突き刺して、フェロモンを注入する種がたくさんいるのだ。
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スパイクサムフロッグは噛んで愛を伝える
だが中央アメリカに生息する「スパイクサムフロッグ(Plectrohyla dasypus)」のオスには、それとは別の、ロマンチックで、サディズムの極みのような愛の伝え方があった。
メスを背中から抱きしめると、細長い歯が並んだ口で噛みつくのだ。しかも歯形がつき、傷跡が付くほどに強く噛む。
このオスのふっくらとした口の中には、両生類がフェロモンを分泌する粘液腺らしきものがある。
シュリテ氏らがトランスクリプトーム解析でそれを調べたところ、「ソデフリン」というタンパク質が検出された。
これは両生類の「フェロモン」として知られているもの。どうやらスパイクサムフロッグのオスは噛みついて、メスにフェロモンを注入しているようだ。
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なぜ傷口からフェロモンを注入するのか?
一口にフェロモンと言っても、その働きはさまざまだ。たとえば、時折農作物に甚大な被害をもたらすイナゴの大群は、フェロモンが引き金になっていると考えられている。
そのため、スパイクサムフロッグがどのような理由でメスにフェロモンを注入するのか、はっきりしたことはわからない。
あくまで推測だが、シュリテ氏らは、それによってメスの産卵がうながされる可能性があるという。
カエル界の愛のカタチ
なおカエルの中に、今回のようなフェロモンのものらしき分泌腺を持つ仲間がいることは、以前から知られていたという。
しかしそうした仲間は、いずれもメスの鼻からフェロモンを伝えていた。
だが鼻ではなく、皮膚という新たなフェロモン伝達経路の発見に、シュリテ氏は大いに興味をそそられると語っている。人間の愛もカエルの愛も、その形はさまざまだ。
この研究は『Frontiers in Zoology』(21年11月25日付)に掲載された。
References:Juicy-Lipped Male Frogs Give Females Pheromone-Laced "Love Bites" | IFLScience / written by hiroching / edited by parumo
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