(石井 友加里:韓日・日韓翻訳家)

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 2021年11月から「段階的日常回復(ウィズコロナ)」を実施中の韓国が危機に瀕している。1日に約5000人の新規感染者数を記録し、重篤者や死亡者、病床数のひっ迫などさまざまな問題が起きている状態だ。12月8日には7000人を突破した。

 さらに、危機感を抱かずにいられないのは、ワクチン未接種の子供たちの安全だ。

 小・中学生の感染者が1日平均500人を超える中、韓国教育部は11月29日から12月5日までの1週間で、合計3948人が新型コロナウイルスに感染したことを明らかにした。内訳としては、小学生が1957人、中学生が1262人と、小中学生が大部分を占めている。

 小学生の子供を持つ筆者の実感として、コロナはこれまでになく子供の日常生活を脅かしている。ソウル市および首都圏では、11月22日より小中学校の全面登校を実施しているが、ソウル市教育庁によると、11月29日から12月5日の間に新たに1450人の感染者数を記録。その半数以上を占めるのが小学生である。

 感染者とその接触者を漏れなく探し出して検査と隔離を実施し、ウイルスの拡散防止に尽力してきた「K防疫」は、流行の初期段階では効果を得て評価されてきた。その「K防疫」が非常事態である。今回は韓国の子供たちが直面している問題について考察したい。

登校制限が相次いだ韓国で何が起きたか?

 ワクチン未接種者が多い小中学校でコロナ感染者が増えている。筆者の子供が通う学校でも陽性反応者が発生した。一人でも感染者が出ると、学年全体で即時下校処置がとられ、その日の授業は中止か非対面のオンライン授業に転換される。教育庁のガイドラインに従ってのことである。

 感染者が発生した学年は全員のPCR検査が必要になる。保健所への訪問か学校での集団検査が義務づけられており、結果が出るまで自宅で待機しなければならない。同じ学級で陽性者が出た場合、検査で陰性判定が出ても生徒に10日間の自宅隔離期間が設けられることになっている。

「規則だから仕方がない」と誰もが思っているが、登校後、1時間ほどで我が子が家に帰され、外出自粛になることに翻弄される親は多い。

「親がすぐに帰宅できない家庭はどうすればいいのか・・・」と途方に暮れるが、自宅隔離対象者が学校の学童保育を利用することはできない。

 企業勤務のテレワークは韓国でも一般的だが、在宅勤務ではない親の場合、仕事をしながら子供のケアをすることは難しい。最初は、家族の面倒を見るために特別休暇や有給休暇で対応することも可能だが、休暇を全て使い果たした後は無給で休んだり、休職したり、ついには退職となる。このパターンは特に働く女性に多い。

 コロナが世界的に流行し始めた2020年春から、韓国では強力な段階別防疫が取り入れられてきた。義務教育の現場でも、動画やビデオ会議ツールを駆使したオンライン授業と登校を使い分け、学校行事は中止か縮小開催された。

 子供が学校で体験するはずの四季折々の行事は、記憶に残らないほど簡易に済まされている。保護者無招待の入学式や卒業式、日帰り遠足で終わる修学旅行など、あってないようなものだった。

 2020年の小学1年生は、学校での生活習慣をつけるどころかあまり学校に行けずに終わっている。小学1年生の子を持つ友人の話では、子供が「友達がいない」「学校がつまらない」と嘆いていたそうだ。

 登校後の学校生活も制限された。休み時間に同級生と接触や会話も最低限にすることが求められ、放課後に子供同士が遊ぶことも自粛を促された。つまり、コロナ対策で友達作りもできないまま、時間だけが過ぎたのである。

親の所得で決まる子供の学力格差とゲーム中毒

 新型コロナウイルス感染症は、子供から当たり前の日常を奪っただけでなく学力の低下も招いた。特に、大人が子供の学習をサポートできる家庭とその余裕がない家の間で学力格差が問題視されている。

 韓国教育開発院によると、休校やオンライン授業の長期化で学校教育が機能せず、低所得層の子供が十分に勉強できていないという。多忙な保護者は子供にデジタル機器を渡して、出勤しなければならないことが多い。

 特に集中力の短い低学年の児童の場合、大人がそばで管理することなくオンライン授業だけで学習することは困難だ。画面の向こうで教師が一人ひとりをケアすることもほぼ無理だ。オンライン授業中は、生徒が質問しにくく、教師と生徒間の会話も円滑にできないことも多い。

 勉強に集中せず大人に監視されることもないこともあり、タブレットPCやスマートフォンでゲームや動画視聴にハマりやすくなる。緑の傘子供財団の調査によると、タブレットPCなどのデジタル機器で毎日3時間以上遊ぶと回答した率は、コロナ前の16%から46%に増加した。しかも、「勉強以外の目的で機器を4時間以上使う」と回答した学生のうち、4割以上が低所得層の家庭の子供という結果が出ている。

 また、オンライン授業は毎朝登校準備をする必要がないため、生活習慣も崩れやすい。1時間目が始まる直前に起床し、パジャマを着たまま授業に臨む学生もいる。授業中に隠れてゲームをしたり、カメラを切って遊んでいたりする生徒もいる。

 このような現状から、韓国ではオンライン授業による子供の学力格差が問題化している。オンライン授業は防疫面で有効だったが、学習環境面での副作用が顕著になってきているのだ。ハングル文字も九九も分からないまま高学年に進級した子供もいる。この事態に不安を感じ、子供を学習塾に通わせる家庭が増加しているのだ。

非対面化がもたらす子供の心身への影響

 コロナが原因で子供の心と体にも影響を与えている。韓国では一時期、「サルチョンジ」という造語が流行った。コロナ太りの意味である。コロナ流行初期に集団感染が問題となった新興宗教団体「新天地(シンチョンジ)」になぞったもので、「サル」とは体の肉のことである。

 しかし、肥満よりも深刻と言えるのは、子供の精神面ではないだろうか。米ブラウン大学の研究によると、コロナ禍で生まれた子供は、言語や運動、認知能力の発達が遅い傾向があることが分かっている。

 また、大人だけでなく青少年層にも「コロナ鬱」が増えている。韓国青少年相談福祉開発院が9〜24歳の約800人にアンケート調査を行った結果、現状に「不安と心配を感じる」と答えた割合は5割以上だった。続いて「苛立ちを感じる」は39%、「憂鬱だ」は30%程度となっている。

 筆者の子供もオンライン授業が行われていた時期、「早く学校に行きたい」「コロナが不安だ」と嘆いていた。長引くコロナ禍は子供たちの精神衛生にも深い影を落としているようだ。

 K防疫で国民の心身は疲弊し、子供たちの幸福度も著しく落ち込んでいる。それまで「自由」を抑圧されてきた人々がウィズコロナ政策で街に駆り出し、発散しているように見受けられたのは、その反動ではないだろうか。結果として感染者が増加し、「ワクチン接種の義務化」が叫ばれる事態になっている。

 オミクロン株の発見により、世界中のコロナ対策が非常事態に陥っている。韓国政府は早速、飲食店や学院、図書館などの施設での来場制限とワクチン接種を証明する「防疫パス」の提示を決めた。

 ここで論議が起きているのは、この防疫パスが、2022年2月からは18歳以下の青少年にも適用される見込みだという点だ。学歴社会の韓国で子供の学力低下は深刻な社会問題である。学力向上のために塾通いは必須なのに、「ワクチンを受けなければ塾にも行けないのか」との批判の声が上がっている。一方で、学校での集団接種が検討されている状況だ。

 終わりが見えないコロナ時代。強力な防疫策で我慢してきた韓国で、感染者が減るどころか増えているのは皮肉としか言いようがない。

 韓国の子供たちは大事な幼少期に社会性を育む場が縮小され、基礎的な学力もつかず、心身にストレスを抱えて過ごしている。2020年の韓国の自殺率は、OECD(経済協力開発機構)加盟国でワースト1位。大人も子供も生きづらさを感じる時代がしばらく続きそうだ。

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