キナ臭いムードが高まってきた。開幕まで2カ月先に迫った2022北京冬季五輪に高官を含めた政府使節団を送らないとする「外交ボイコット」を米国、英国、オーストラリアニュージーランドの4カ国が表明。新疆ウイグル自治区チベット、香港での人権弾圧に加え、軍事的緊張が高まる台湾海峡の問題、さらには中国の女子プロテニス選手・彭帥さんが政府高官から性的暴行を受けていたと告発して以降、忽然と消息不明になった一件などへの強い抗議の意思を示す対抗措置だ。

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 人権重視路線を貫く他の欧州諸国も追随する可能性が高まっており、一部メディアによれば同盟国・日本も水面下で北京冬季五輪への閣僚の派遣を見送る方向で検討し始めていると報じられている。

外交ボイコットに選手が神経を尖らせる理由

 今月12日には日本の「外交ボイコット」を推進する市民団体が東京都内において大規模な集会デモを実施するとの情報もある。それどころか西側諸国の間からは北京五輪への選手団の派遣も辞するべきとの声も上がり始めており、その強硬論は日本にも飛び火しそうな雲行きだ。

 こうした状況に神経を尖らせているのが、北京五輪で「主役」となるはずのアスリートたちである。コロナ禍で開催の是非を問われ続けられながら強行開催された東京五輪とは大きく異なり、それから半年が経過して行われる北京五輪はおそらく無風のまま来年2月の開幕を迎えることができるに違いない――。早々に北京五輪代表の座をつかみ取った日本代表の面々たちはほぼ誰もが、そのように楽観視していたはずだ。

 ところが、ここ最近になって米バイデン政権が急激なシフトチェンジで対中政策を一層硬化させる「外交ボイコット」を打ち出したことで、北京五輪を巡る日本代表たちも一転して非常に難しい立場へと追いやられることになった。

 仮に一部報道の通り、日本も「外交ボイコット」を決定した場合は、北京五輪に政府閣僚ではないスポーツ庁の室伏広治長官やJOC(日本オリンピック委員会)の山下泰裕会長を派遣する代役案が浮上しているという。

 一方で中国政府は今年7月の東京五輪開会式に苟仲文国家体育総局長を出席させている。本来ならば外交上の「返礼」として北京五輪には政府内で同等の地位にある閣僚級を出席させることが筋だ。

 それでも日本政府が「外交ボイコット」に踏み切るならば、ただでさえ米英豪、NZの決定に怒りを爆発させている中国との間に強い確執が生じることはまず避けられそうもない。

 そうなれば関係悪化の一途を辿る中国の首都で行われる北京五輪に参加する日本代表のアスリートたちが不安に追い込まれ、ナーバスになってしまうのは当然の話であろう。国際大会の経験も非常に豊富な北京五輪・男子日本代表選手の1人は匿名を条件として「日本政府が今後正式に『外交ボイコット』を決めるとなれば北京五輪参加の際、私たちは非常に不利な立場へと追いやられてしまうのではないだろうか」と指摘し、懸念材料をほのめかした。

激高した開催地・中国で「公正なジャッジ」期待できるのか

 たとえば、その一例として北京五輪では「ホームタウン・ディシジョン」のような中国寄り判定のイカサマが横行する危険性が指摘されているのも、代表選手たちの不安を掻き立てる要因となっているという。当然ながら北京五輪の審判はニュートラルな立場として主に各国際競技連盟(IF)から選りすぐりで経験豊富な人物が派遣される。だが、次の北京五輪は一部の国の「外交ボイコット」という露骨な手段に激高したホスト国・中国によって形振り構わぬ“報復”が断行されることも考えられなくもない。

 IFから派遣されたくだんの審判たちも、開催地・中国の圧倒的な雰囲気に飲み込まれてしまうか、あるいは何らかの形で“忖度”するなどして「外交ボイコット」を強行した国々の代表たちにはあえて不利な結果へと導き、逆に地元・中国代表の面々には有利に運ばせる――。そのような無茶苦茶なジャッジを下されるのではないかと代表選手たちが警戒し、囁き合っている。

「絶対にあってはいけないことだが、残念ながら人権問題を含め“闇”が多過ぎる中国ならば起こり得ないとは言い切れない。不測の事態がぼっ発することも頭に入れ、特にIOC(国際オリンピック機構)は中国関係者による裏側での“審判買収工作”にも目を光らせておかなければいけないだろう」(元JOC関係者)。

もしも政治の影響で不公平なジャッジがなされれば五輪の大義は完全崩壊

 前出の代表選手をサポートするスタッフの口からも、こんな切実な訴えが漏れる。

「コロナ禍も収束へ向かっていると安どしていたら、今度は新型コロナウイルスの変異株『オミクロン株』が世界各地で蔓延し始めている。その流れの中において『人権問題』と『外交ボイコット』が複雑に絡み合ってもいる。まさかこんなタイミングで北京五輪参加を迎えることになるとは夢にも思わなかった。

 同じ開幕2カ月前の時点で比較してみると、東京五輪よりも北京五輪のほうが実は難題が山積していることは明白。これでは選手たちも『北京五輪に行きたい』と心の底からは言い切れない。

 万が一“フェイク・ジャッジ”で日本の選手やアメリカの選手たちが勝てないということにでもなったら、もうオリンピックの大義は完全に崩壊してしまいます。無理を承知で本音を言わせてもらえれば、どこか違う中立の立場の国で(五輪を)やってほしい」

 中国が幅を利かせる北京五輪東京五輪以上に、さまざまな意味において物議を醸し出す“危険な国際イベント”となってしまいそうな雲行きだ。

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