ピクテ投信投資顧問は12月8日東京駅近くのJPタワーホール&カンファレンスで「日本オフィス開設40周年記念 ピクテ・スペシャル・ジャパン・ツアー2021」を開催した。同社が参加者来場型のセミナーを開催するのは2年ぶり。マスクの着用やアルコールによる手指の消毒の他、ワクチン2回接種証明、または、72時間以内のPCR検査での陰性証明の提示を求めるなど万全の感染対策を行った上での開催になった。同社代表取締役社長の萩野琢英氏(写真)は、「日本円の価値が劣化する中で、資産を守ることが非常に重要になっている資産保全の時代を迎えている」と現状を分析し、個人金融資産の過半を占める現預金について「分散された金融商品」での運用に切り替えることの必要性を語った。

 萩野氏はセミナー冒頭で、「現在の経済環境は、1930年代と50年代をミックスしたような状況だと思う。政府が負債を膨張させ、貧富の格差が広がり、急速な技術革新が進行している」と語った。1930年当時は、石炭から石油へのエネルギー革命が進行し、大恐慌からの回復をめざした低金利時代で負債が膨らんでいった。そして、第二次世界大戦につながる戦争の時代を迎え、戦後はハイパーインフレに悩まされた。強調されたのは、インフレだ。「日本では長引くディスインフレの時代で現金でも問題ないという意識が強くなっているが、実は日本円が年2~3%程度の水準で下落しているように、日本の現金の価値はジリジリと減価していて、今後は、インフレによって一段と現金の価値が失われる時代になる」ということだ。「これから10年、20年は、過去の経験則が通用しない時代になる。通貨価値の下落に備えて、資産配分を見直すことが急務だ」と来場者に呼びかけた。

 そして、セミナーでは、現状を理解するために同社が注目している様々な経済指標等について過去の推移を紹介していった。たとえば、円の価値は、1971年8月15日の「ニクソンショック(ドルと金の兌換停止)」によって当時1ドル=360円という固定相場が終了し、1995年8月の1ドル=80円割れの水準へと円高が続いた。そして、この95年を円高のピークとして緩やかな円安の時代に入った。物価水準を考慮した実質的なドル円の水準は95年8月が1ドル=100円程度だったが、2021年8月には約250円程度の円安水準にまで下落している。

 この間、日本の1人当たりGDPは95年には米国をも上回る4万4210ドルだったが、その後は概ね横ばいで、米国やシンガポール、香港などに次々に抜かれていった。2020年の日本の1人当たりGDPは4万146ドルであり、25年を経過してマイナス成長になっている。これは、日本人が相対的に貧しくなっていることを示している。また、1人当たり平均賃金を見ても日本が相対的に貧しくなっていることはわかる、米国は1990年の4万6975ドルから2020年には6万9392ドルになったが、日本は1990年の3万6879ドルが20年には3万8515ドルと微増にとどまっている。1990年当時には日本よりも平均賃金が低かった英国が3万2675ドルから4万7147ドル、韓国が2万1830ドルから4万1960ドルとなり、日本を追い抜いて行った。

 一方、世界各国の通貨価値の下落は、金(ゴールド)に対する各国通貨の相対価値の推移をみると明らかだ。1900年を100とすると、独マルクが1920年早々にゼロの水準に下落した。次いで、仏フラン1929年の大恐慌前に20の水準に下落し、大恐慌を機に、米ドル、英ポンド、日本円が下落し、第二次世界大戦後には日本円と仏フランがゼロ水準に落ち込んでいる。その後、71年のニクソンショックを経て米ドルと英ポンドも価値を減じていく。結果的に2020年には、米ドルが1.16、英ポンドが0.31、日本円が0.01、仏フランが0.01、独マルクが0.00になった。金は、通貨として最も強かった米ドルに対しても120年間で86倍に値上がりしている。それほど各国の通貨の価値が下落した。これは、今回のコロナ・ショックで各国の中央銀行が「量的金融緩和」を実施して市場に大量の通貨を供給するなど、必要に応じて各国が通貨供給量を増量することによる結果だ。政府が通貨を発行し、その結果として通貨の価値が減価する傾向は、これからも続いていくだろう。

 このような現状認識のもとで萩野氏は、「徹底した分散投資によって通貨の下落から資産を守ることを考えなければならない」と力説した。分散投資を行う理由は、今後の経済変動に伴って、どの資産が優位な状況になるのかわからないためだ。

 たとえば、経済成長とインフレの関係は一般的に、「物価上昇と伴わない景気拡大(景気回復の初期)」から「インフレを伴った景気拡大(景気過熱)」、そして、「景気減速と高い物価上昇(スタグフレーション)」から「低成長と低インフレ(景気後退)」を経て、再び、景気回復の初期に戻るサイクルを繰り返しているといわれる。このサイクルの局面に応じて活躍する資産クラスが異なるのだ。現状のような「インフレを伴った景気拡大」には「株式」、「ハイイールド債」、「商品」などの値上がりが顕著だが、次の「スタグフレーション」に進むと、「株式」はほとんど値上がりせず、「商品」と「金」の値上がりが大きくなる。しかし、さらに進んで「景気後退」になると「商品」は大幅なマイナス、「金」も動かないで、「国債」や「投資適格社債」などが優位になる。さらに、景気回復の初期段階では「株式」が最も大きく値上がりするなど、景気の様相によって上昇する資産が異なる。

 景気の転換点の見極めが難しいことに加え、例えば、「株式」であれば、どの株式が良いのか、「商品」といっても、どの商品なのか見極めることは極めて難しい。したがって、できるだけ広範囲に、かつ効率よく組み合わせたポートフォリオ運用を心がけるべきであると結論している。この考え方は、ピクテ社が1805年の創業以来、215年以上にわたってプライベート・バンクとして「顧客の財産を守る」ことに徹してきた歴史的な経験にも裏付けられた結論だ。ピクテ社では、従業員の企業型年金の運用にも分散投資の考えを取り入れ、「マイクロファイナンス」や「絶対収益型」「ヘッジファンド」「プライベート・エクイティ」などのオルタナティブ資産(代替資産)を30%程度組み入れる運用を行っている。萩野氏は、「特に、国内の個人金融資産の55%を占める現預金が、通貨下落の影響を受けやすい。この部分を年率2.0%~2.5%で成長が期待されるような低リスクの運用商品に置き換えることが望ましい」と語っていた。

 なお、同社には株式や債券のみならず、金やオルタナティブ資産を組み入れてバランスよく運用するアセット・アロケーション型のファンドが複数ある。リスクを抑えた多資産分散の「ピクテ・マルチアセット・アロケーション・ファンド(愛称:クアトロ)」、株式・債券・金・現金等の配分比率を機動的に変更する「ピクテ・アセット・アロケーション・ファンド(愛称:ノアリザーブ)」、ESGへの取り組みを配慮した「ピクテ・サステナビリティ・マルチアセット・ファンド(愛称:モンド)」、株式の配分比率が高く資産成長を狙う「ピクテ・ダイナミック・アロケーション・ファンド(愛称:アルテ)」、そして、株式と金を主な投資対象として配分比率を機動的に変更する「ピクテ・ゴールデン・リスクプレミアム・ファンド(愛称:バーゲンハンター)」などのファンドだ。これらを必要に応じて組み合わせて使うことも選択肢となろう。

インフレから資産を守る! ピクテ日本オフィス開設40周年記念セミナーで徹底した分散投資の必要性を力説