12月6日、大手就活ナビから発信されたメールに「大東亜以下」という「学歴フィルター」がかかっていたというツイートが物議を醸しています。就職活動中とみられる大学生が投稿したツイートは話題となり、複数のニュース社も取り上げる事態となっています。大手就活ナビは取材に対し、「事実関係を確認中」とコメントを発表しています。

 学歴フィルターとは、学生が企業にエントリーをする際、偏差値の高い有名大学の学生が他大学よりも優先的にエントリーができるというものです。

就活ナビという存在

 まず、就活ナビについて説明します。学生が企業にエントリーする際は、エントリーフォームにプロフィルを記入しなければいけません。これが就活ナビといわれているシステムです。就活ナビは申込企業から掲載料を頂戴して、情報を掲載することで成立するビジネスモデルです。

 つまり、企業と学生の橋渡しをする存在ではありません。学生に対して公平な機会を与える装置ではありません。就活ナビはWindows95が発売され、ネットが一般化してきた時期に多くが上市されました。現在はリクナビとマイナビの2強と言われています。

 母集団を管理するには、大学名、出身地などの属性別に管理をする必要があります。企業は入力された情報に対して選考結果のフラグを立てたり、進捗(しんちょく)を確認します。学生情報をもとに個別囲い込みをするなら、偏差値の高い有名大学にアプローチが集中することは自然の流れでした。つまり、かなり以前から、学歴フィルターは存在したということです。

 学歴フィルターはネットが一般化する前から存在しました。昭和40年代にさかのぼれば、今よりもはるかに辛らつな学歴採用が存在していました。日本を代表する重厚長大型企業や金融機関の多くは大学別による幹部候補生採用を明確に打ち出していました。

 いまだにその流れが残っていますが、変わったことは企業がオブラートに包むようになったことです。私はこのような当たり前のことがなぜ、いまさらクローズアップされるのか、不思議だと考えています。大学の就職部では事前に説明しないのでしょうか。

学歴フィルターの仕組み

 次に、学歴フィルターの仕組みについて説明します。学生が志望する企業にエントリーすると、旧帝大、早慶上、その他国公立、MARCHG、関関同立、成成明、日東駒専大東亜帝国、それ以外などのフォルダーに振り分けられます。

 企業は大学名によって、フォルダーを自由に設定することができます。毎年、ネットで話題になる、エントリーできない現象は次のような仕組みによって発生します。

 会社側がセミナー旧帝大100%、大東亜帝国10%に設定すれば、旧帝大は100%申し込みができて、大東亜帝国は10%に制限がかかります。つまり、10人に1人しかエントリーができません。

 過去、まったくエントリーできない現象が匿名情報サイトで話題になり、炎上したことがありました。その反省から、希望校でなかったとしても数%でもエントリー可能にするのが常套(じょうとう)です。

 これで、企業側は厳選採用を演出できます。なぜ、演出が必要なのでしょうか。それはテレビCMや新聞広告を見れば分かりやすいと思います。広報とは自社を消費者(お客さま)に効果的に宣伝する機会です。採用広報も同じことが言えます。企業にとって、学生は採用対象者であると同時に、広報対象者である消費者(お客さま)だからです。

 会社説明会は企業にとって、CMや広告と同じ、いや、それ以上の宣伝効果を得られる場として捉えられています。例えば、化粧品や食品メーカーがテレビCMを作るとき、まず、企画を練って、キャスティングをして制作に入ります。放映の時間帯や回数にもよりますが、億単位の膨大な予算が投下されることになります。

 ところが、採用はどうでしょうか。会社説明会を開催すれば、入社希望の学生が企業が用意する場所に勝手に足を運んでくれます。誰に言われるまでもなく、丁寧に詳しく、企業研究までしてくれます。テレビCMはたったの15秒か30秒ですが、会社説明会は長時間です。会社説明会は集まった学生に対して、長時間、広報できる貴重な機会なのです。

 学生に与えられる情報は「学生を吸引するために意図的に用意された情報」であることを理解しなければいけません。A社というメーカーがあったとします。「当社は旧帝大、早慶上以外は採用しません」と公表したら、批判が殺到して不買運動が起きるかもしれません。実際には学歴フィルターがあっても、企業はその事実を認めないでしょう。

人物重視というウソ

 社会人に必要な素養として、「コミュニケーション力」というものがあります。しかし、数分の面接で、それらの有無を見分けることはまず困難です。面接で見分けられない人物の素養よりも、大学名やSPI等などに重きを置くのはむしろ、当然の流れといえます。

 企業にとって、採用活動はビジネスですから、良質な学生を確保したいと思うのは仕方ないことです。学生、エントリーシートの書き方、良い印象を持ってもらうための面接官トレーニング、自己分析などを行いますが、本質的な解決にはなりません。

 今、コロナ禍で採用数は減少し、小手先では内定が取りにくくなっています。有名大学であれば有利であることは事実ですが、学生にも内定を獲得するための「戦略と戦術」が求められています。また、大学の就職部においても、表面的ではなく、役立つ情報を伝えることが望まれます。まずは正しい情報をインプットすることが必要でしょう。

コラムニスト、著述家 尾藤克之

「学歴フィルター」は存在する?