JTB日本旅行スカイマークなど、資本金を1億円以下に「減資」する大企業が相次いでいます。税制上、中小企業扱いとなり、優遇措置を受けられるというのが大きな理由のようですが、デメリットはないのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

社会的信用、低下の恐れも

Q.そもそもの「資本金」の意味と、資本金が1億円を超える場合と1億円以下とで何が違うのか教えてください。

大庭さん「資本金とは取引先など債権者を保護する目的で、一定金額以上の財産を会社に保有させる仕組みにおいて、創業者や株主が出資したお金のことです。会計上、会社が一定金額以上の財産を保有している状況が担保されることで、安心して取引ができます。このことにより、資本金額の大きい企業は社会的な信用が増します。

この資本金に関して、税法上、1億円以下の企業が中小企業と位置付けられており、次に挙げるような優遇措置が設けられています。

(1)法人税率に関して、資本金1億円超の法人は一律23.2%だが、1億円以下の法人の場合は年間所得が800万円までの部分に対しては15%で、年間所得が800万円を超える部分からが23.2%となり、税率が有利

(2)交際費の扱いに関して、資本金1億円超の法人は交際費の中の接待飲食費に関する部分の50%のみを経費扱いにできるが、1億円以下の法人の場合は年間800万円までの交際費全額、もしくは、交際費中の接待飲食費の50%のいずれか多い金額を経費扱いにでき、交際費の扱いが有利

そのほか、資本金1億円超の企業のみに課せられる税金もあります。つまり、資本金1億円超の法人は社会的信用が高い一方、1億円以下の企業には税制上の優遇措置が設けられているという違いが存在します」

Q.なぜ、資本金の多少によって、税金の扱いが分かれているのでしょうか。

大庭さん「個人の所得税について、所得額が多くなるほど税率が高くなる累進課税制度が存在することに代表されるように、日本の課税制度に関しては、税負担の公平感を重要視した仕組みが存在します。すなわち、所得の多い人や企業の税負担を重くし、そうでない人や企業の税負担を軽くするという考え方です。

その考え方に基づいて、法人税に関しても『資本金額が大きい企業ほど体力があり、総体的に所得額も多いであろう』という前提で、資本金が一定金額以下(1億円以下)の企業に対して優遇措置を設けているのではないかと考えられます」

Q.大企業資本金を減資して、中小企業扱いになることのメリット、デメリットを教えてください。

大庭さん「資本金を減資して、中小企業扱いになることのメリットは、先述した中小企業に対する税法上の優遇措置が適用されることです。税率が有利になる、交際費の扱いが有利になることによる節税効果が大きくなることに加えて、事業所の床面積や従業員数、資本金、付加価値などによる事業所得以外の要素を対象に課税する『外形標準課税』の対象(資本金1億円超)から外れることも大きなメリットです。

これらによる税負担の軽減により、会社の財務状態の改善を図ることができますが、その半面、次に挙げるようなデメリットも発生します。

・社会的な信用が低下する恐れがある
・株式の価値が低下することを懸念する株主が保有株式を売却することにより、株価が下落する恐れがある
・減資を行うにあたっての株主総会の特別決議や債権者保護手続き、減資確定後の法務局への登記などの手間とコストが発生する

こうした点も踏まえた上で、企業は減資を判断します」

Q.減資したお金はどうなるのでしょうか。

大庭さん「資本金を減資した場合、減資したお金は一般的に、次のような用途に振り替えられます。

利益剰余金として取り扱う
・欠損額の補填(ほてん)として活用する
・株主への配当金として活用する

利益剰余金というのは社内留保のことであり、将来的な事業成長を図るための事業投資や株主に対する配当のための資金として使われます。欠損額というのは税務上の赤字のことであり、その部分の穴埋めを行う(社会的信用を回復させる)ための資金として、減資したお金を活用することがあります。株主に対する配当金として活用するというのは、減資したお金を株主への財産払い戻しのために使うということです」

Q.大企業に入ってくる社員の中には「大手企業だから選んだ」「親も喜んでくれた」といった人もいると思います。減資した場合、そうした社員のモチベーションに影響することはないのでしょうか。

大庭さん「減資をしたとしても、大企業としてのブランドが既に確立されているのであれば、減資が働く社員たちのモチベーション低下に直結することはないでしょう。所属する会社が瀕死(ひんし)の状態にあるということであれば、先行きを案じることで不安に思う社員も出てきますが、『今後、会社がどのように存続して、どのような事業の方向性を目指して、どのような成長を描こうとしているのか』を経営陣が分かりやすく説明することで、社員の不安も払拭(ふっしょく)されるはずです」

Q.今後も減資をする大企業は相次ぎそうなのでしょうか。また、減資をする大企業の増加は日本経済全体や政府にとって、悪影響はないのでしょうか。

大庭さん「資本金の減資は会社の重要決定事項であり、株主総会での特別決議を必要とします。特別決議を行う場合は、行使できる議決権の過半数を有する株主が出席した上で、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となります。つまり、資本金の減資に関しては、大多数の株主の理解が得られないとできないことなので、多くの大企業が追随する流れにはならないと私は考えます。

コロナ禍で観光業界などの一部の大企業が1億円以下の資本金に減資をしたのは、今後の需要の回復が見込めず、財務の改善によって、企業としての存続を図ることが株主にとって大きな利益につながると評価されたからなのではないでしょうか。大企業が必要に応じて、資本金を減資することで事業の存続が図れ、今後の経済の活性化に寄与するのであれば、日本経済にとってはプラスです。一方で、税収減が生じるという面で、政府の政策決定に負の影響を与えることも間違いないでしょう」

オトナンサー編集部

減資のメリット、デメリットは?(2021年6月、時事通信フォト)