『魔法少女まどか☆マギカまどマギ)』で異彩を放っていた怖~い魔女の存在。あるときは、毛虫のように、あるときは首なしセーラー服……。なんじゃこりゃ? と、魔女の出現する異空間も含めて、その演出にショックを受けると同時に、ファンになった人も多いだろう。

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この異空間をデザイン・演出を担当したのが、ご存知、「劇団イヌカレー」のおふたりだ。現在の日本アニメ界で特異な存在である。今回、独占インタビューを試み、驚異の制作秘話を聞くことができた。


■素顔は孤高の野犬……?

劇団イヌカレーは、泥犬と2白犬のユニットである。話しをしてくれたのは、泥犬さん(オス)。

——ロングインタビューは始めてとのことで、どうぞよろしくお願いします。

「よろしくだ、ワンワン

——お犬さんなのに、アニメの演出ができるなんて、えらいでちゅね~……。

「犬という設定の方がいろいろ便利なんだワン!」

——さて、ここから本題に。大成功を収めた『まどマギ』ですが、この作品に参加したことで、人生は変わりましたか?

「あんまり変わらないです。というのも、人の評価を気にしすぎてもいけないので。ネットでエゴサーチはしないようにしています。 メジャーなアニメシーンで自分たちの作品が本当に放送されているのか。自分でも不思議に思っています。実はされていないのではないかと、今だに思うこともあります」

——一般の方の反応を知るのは怖いかもしれませんが、アニメ業界の方からの反応はどうですか?

「今までどおりですね。実は『まどマギ』以前からも地上波の番組制作には関わっていましたから。 『さよなら絶望先生』シリーズのオープニングや、1話全部の演出を担当したこともありました。あと、『まりあ†ほりっく』『うさぎドロップ』『ニセコイ』のエンディングなどです。 メジャーな仕事では、なるべく作品にカラーを合わせるようにしていますが、『まどマギ』では、自分たちの思う通りにやらせていただきました」


■コンテの存在しないアニメ作家

独自の作風を損なわずに、メジャーシーンで活躍できる才能。そのような幸運な出会いはどのようになされたのか。劇団イヌカレーの来歴から紐解くことに。

——ユニットはどのように結成されたのでしょうか。

「ふたりとも、同じアニメの専門学校出身でした。その後、泥犬はアニメの仕上げ会社に就職。2白犬も別に就職していました。
数年後、同じタイミングで個人的な活動を始めようと考えていたので“それなら一緒になにか作ろう”となり、自主制作アニメをつくり、偶然にも運よく仕事をもらっていたら、こうなりました」

——おふたりの作風は、かわいらしいのに恐ろしさもある、個性的な世界観ですよね。それでも、メジャー作品で起用してもらえたのは、なぜでしょうか。

「それぞれのお知り合いのおかげです! 前から知り合いだった方などから、主にお話を頂ていました。おかげで坂本真綾さんの楽曲PVや当時あったデコブログと言うブログサイトのデザインなどをやらせていただきました。 あと『絶望先生』のシリーズディレクターとは同級生だったり。つまり、運が良かっただけです。参考にならなくてすみません」

——アニメ業界でのキャリアがあったから、仕事も依頼されやすかったのではないでしょうか。

「2白犬の描くビジュアル面の実績も大きいです。でも、実作業の役割分担や進め方はすごく曖昧なんです。 初めはざっくりとした方向性はだけを決めて、それから各シーンでどちらが何を担当するか話し、それをお互いにやりとりしていくうちに、どんどんイメージを膨らませて行きます。こんな作り方をしていたので、犬の間では絵コンテがとくになかったんです。 だから初めてメジャーな仕事で間にスタッフを挟まなくてはいけなくなったとき、システマティックに対応できなくて、いろいろ迷惑をかけました。まあ、現在進行形でかけてもいます。今のアニメシーンとはまったく異なる作り方をしていますので」


■新房監督から「あんなかんじで」と

ふたりが一心同体となって、制作に当たる彼ら。人員の代替の効かない、非効率的な制作を貫く。それでも今日の成功の理由はどこにあるのか?

——転機になる仕事はあったのでしょうか?

「転機というか、知名度が上がったのは『まどマギ』からだと思います。ちなみに新房昭之総監督と初めに関わったのは『さよなら絶望先生』です。 【懺・】シリーズでは、OAD版のOPのほか、百六十話(最後の、そして始まりのエノデン)では、丸ごとコンテと演出を担当させてもらえました。 運良くヒマなときだったので、コンテからなにから全部やらせてもらえました」

——この回は、キャラクターの作画も劇団イヌカレーさんが手がけていたので、インパクトがありましたね。それを新房監督が気に入ってくれたと。

はい。まどマギ』立ち上げの際に、新房総監督が『絶望先生』を覚えていてくださって、『懺の番外地OPみたいな感じに』というざっくりとした指示を受けて、あとは各話数ごとにまとめて。 でも僕ら犬らが直接、新房総監督にお会いしたことがあるのは、10回あるかないかです。企画立ち上げ時の打ち合わせにお会いして方向性を伺い、普段は総監督の意向を聞いた監督や演出の方と打ち合わせます。 こちらはシャイなドギーなので総監督などと一緒に食事とか恐れ多いです」

——「まどマギ」の魔女ですが、総監督からダメ出しなどはなかったのですか?

「発注段階では『魔女のいる空間も含めてのデザイン』ということでした。 プロット(文字のみ)では、魔女の空間は、“結界・迷路”とだけありました。『やれるところは、なるべくやってほしい』とのリクエストでしたので、こちらから提案し脚本に追加した箇所もあります。元の作風を壊さなければ、いいとのことでしたので。 例えば、第3話巴マミが、魔女を退治したあとです。紅茶が空から降ってくるシーンがあります。勝利後にティーをエレガントに啜ればカッコイイかもと2白犬がコンテに追加表記で入れてみたら、採用して頂きました」

 アニメプロジェクトの立ち上げ初期からかかわったため、好き放題にできたという魔女の異空間。しかし、ときには苦い経験も……。

次回も「まどマギ」制作秘話を教えてくれた。乞うご期待!

<後編へ続く>

取材・文=武藤徉子

一見してイヌカレー劇団と分かる『さよなら絶望先生』のイメージイラスト