代替テキスト
日大の田中前理事長(写真:時事通信

「あたしは4人姉妹の末っ子で、上がみんな嫁いでしまい一人残って店をみていたんですが、男っぽいタイプが好きだったし、一緒に生活してくれるっていうもので……。当時、主人は日大の職員で現役のアマ力士でしたから、結婚式の翌日には大会があって、出かけていきました」

1994年、本誌の取材にこう語っていたのが、所得税法違反の容疑で逮捕された日本大学前理事長の田中英寿容疑者(75)の妻・Y夫人だ。

身長153センチの小さな体で、元アマ横綱の田中前理事長を“尻に敷き”、夫婦の資金管理をすべて掌握していたというY夫人。現在は体調不良で入院中だという彼女は、どんな女性なのか。

■毎年10人ぐらいずつ変わる“息子たち”

もともとは演歌歌手だったY夫人。三波春夫の舞台で前歌をつとめたこともあったという。

「テイチクからレコードを6枚ほど出して、5~6年やったかしら、いい人生勉強になったけど、もう忘れたわよ」

実家はJR阿佐ヶ谷駅東京都杉並区)の商店街で郷土料理店を開いており、近くにある日大相撲部の道場の学生たちも来ることがあった。Y夫人が実家を手伝っているときに知り合ったのが、1歳上の田中前理事長だ。2人は1974年10月に結婚する。

ふたりの間に子供は生まれなかったが、Y夫人はこう語っている。

「子ども? 40人以上もいるのよ。毎年10人ぐらいずつ変わる“息子たち”。場所が始まると、プロになった子どもたちのことが、もう気がかりで大心配。取組が近くなると何回もトイレに通ったり、ケガしないでと祈りながらテレビ桟敷(さじき)にいるんですから」

Y夫人のいう“息子たち”とは、田中前理事長が監督を務めていた日大相撲部の学生たちと、そのOB力士たちのことだ。

■「人生一回しかないんだから勝負するときは、しなさい」

日大相撲部出身で、現役時代は小兵力士として活躍した舞の海秀平さん(53)の角界入りを後押ししたのも、Y子夫人だったという。

「秀平クンのときには、角界入りに家族が大反対、主人も慎重論だったんですが、あたしは、すぐに賛成したんです。『人生一回しかないんだから勝負するときは、しなさい』って。男と違って、女って突っ走っちゃうのよね。それでよく主人とも喧嘩になる」

夫人が経営するちゃんこ店から現金2億円が見つかるなど、金満ぶりばかり注目される田中夫妻。だが、相撲部監督就任から約10年、田中前理事長がまだ日大の理事ですらなかった時代のY夫人のインタビューからは、また別の姿が見えてくる。

「あれだけの学生を(角界)に送っているんだから、さぞいいお金になるだろうなんて、とんでもありませんよ。学生が角界に入るときは、羽織、着物、雪駄まで揃えてあげて、知り合いに安くしてもらっても、一人10万円はかかるんです」

さらに、現役部員についてはこう答えている。

「学生にしたって遠征試合だといえば費用は持ち出しだし、寮費が出るといっても副食代やらで週に5万、6万と出ます。なかには、学費の面倒を見てる子もいるんです。でも、あたしたち夫婦には子どもはいないし、住むところもあるから残しても仕方ないし、子どもたちのためだからと気にはしてませんけど」

■「やっぱりあの人の喜ぶ顔が見たい」

インタビューから14年後の2008年、田中氏は日大理事長の座に上り詰める。報道では日大の関係者や、日大の取引業者がY夫人のちゃんこ店を詣でて、「理事長就任祝い」や「誕生日祝い」など、さまざまな名目で多額の金品を渡していたという。田中前理事長と会うための窓口となっていたのがY夫人とも伝えられている。

「主人には、思ったとおりの自由な生き方をしてもらいたいの。あたしは、主人を信じてついていくだけです。なんでって、主人が喜ぶから、やっぱりあの人の喜ぶ顔が見たいんですもの」

インタビューでそう語っていたY夫人。夫を信じてついていった先に、破滅が待っているとは、このときは思いもよらなかっただろう。