つかみどころのないキャラクターで周囲を翻弄(ほんろう)するシュウペイと“ノリツッコまない”ツッコミが人を傷付けない笑いと称された松陰寺太勇からなるお笑いコンビ・ぺこぱ。結成14年目の二人は、2019年の「M-1グランプリ」で初めて決勝に進出すると、知名度が急上昇。「お笑い第7世代」のブームも相まって、テレビへの出演回数をみるみると増やし、さらなる人気を獲得していった。そして、12月22日(水)には初めてのDVD「ぺこぱ単独ライブ『P』」(Contents League)を発売。10月3日に東京・草月ホールで開催された第2回単独ライブが完全収録されている他、本編公演後の「アフタートーク」「幕間VTRメーキング&ライブ当日密着」と特典映像もたっぷりと収められている。ぺこぱの二人に、今回の単独ライブを振り返ってもらうと共に、自らの芸風についての考えを語ってもらった。

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■初めての単独ライブは「達成感あった。何をやってもウケる“無双状態”」

――「お笑い第7世代」として番組に出演することも多いですが、実は2008年結成の14年目と芸歴が長いですよね。今回の単独ライブが2回目ということに驚きました。

松陰寺:少ないと思いましたか? シンプルに集客ができないからだと思います。(シュウペイに)無理だよな、当時は。

シュウペイ:松陰寺さんが言っていたのは、「自分で作った曲ができたらやる」とか。

松陰寺:(笑)。1回目(2016年1月開催)の時は確かにちょっとアーティスティックな部分が抜けなくて…。アーティストってアルバムを引っさげてツアーをやるじゃないですか。そういうの格好良いなと思って、そういう言い訳はしていました。けど、シンプルにお客さんも集められないし、周りにスタッフもいないし。(事務所の)劇場があれば、仮に売れていなくても立つこともできたかもしれませんけど、劇場もないので箱を借りるところからやらないといけない。ハードルが高かったんです。

――1回目の手応えはいかがでしたか?

松陰寺:1回目は確か「笑けずり」っていうNHK BSプレミアムの番組に出た後に、僕らのことを知ってくれている人が少し増えたタイミングだったんですよね。

シュウペイ:達成感はありましたね。1回の公演で何回もネタをやることが初めてだったので気持ちよかった。何をやってもウケる“無双状態”に入っているような感覚で。

松陰寺:単独ライブは僕らのことを好きな人が見に来てくれるので、圧倒的なホーム感はあるのでやっていて楽しいですね。

■環境が変わってからの単独ライブ「また違う大変さがあった」

――1回目が2016年でした。2回目の今回まで少し期間が空きましたね。

松陰寺:当時、周りにスタッフさんもいなくてほとんど僕らだけでやっていたので、準備が本当に大変なんです。フライヤーを作るところから始めて、幕間のVTRも自分たちで作っていたので。

――そうだったんですね。2回目となる今回はまた違ったのでしょうか?

松陰寺:僕らの周りの環境は圧倒的に変わりました。

シュウペイ:そういうことができるようになりましたね。

松陰寺:当時は、僕らが何かをやると言っても動く大人がいなかったです。

シュウペイ:1回目は「笑けずり」がきっかけでしたから、その後も何かきっかけがあればやったのかもしれないけど、それもなかったし。俺に関しては「単独ライブってなんでやるの?」って感じでした。

松陰寺:準備も大変ですからね。

――今回の準備は少し楽になったのでしょうか。

松陰寺:いや、また違う大変さがありました。今回は周りが動いてくれるんですけど、僕ら自身に動ける時間がそんなになかったんです。稽古時間にしてもネタを作る時間にしても。しんどかったですね。

――前回より知名度が高まったことのプレッシャーもあったのでは?

松陰寺:当然、そのプレッシャーもありました。単独ライブをやると決まったらニュースにも取り上げていただいたので、「言っただけでこんなになっちゃうんだ」と思いました。

――2019年の「M-1」で注目を集めましたが、その後すぐにコロナ禍に突入したことで無観客に慣れ、有観客で緊張する、というようなことはありませんでしたか?

松陰寺:それはないですかね。無観客の方がやりづらいので、むしろ「いてくれてどうもありがとう」という感覚です。

シュウペイ:確かに。

■2020年「M-1」準決勝敗退は納得「決勝に行くレベルじゃなかった」

――無観客の頃、リアクションを見られないからネタ作りに悩むということはありましたか?

松陰寺:それはあまりないです。単独ライブでやったネタは初卸ろしのものだし、自分たち二人の意見しか参考にするものはないので。ただ、ウケるかウケないか不安な部分は当然毎回あります。

シュウペイ:練習の時は練習通りのことしかできないんですよ。でも本番だと、お客さんの笑いの間を待ったりできるんです。だから本番で調節することもあります。

松陰寺:正解は本番の間なんです。練習通りやるというより、練習はベースにありつつ、本番を正解の間でできたのが今回のライブなんじゃないかなと思います。練習していてもノッてこないですもん。疲れてばっかりなので(笑)。お客さんがいたらノッてくる。

シュウペイ:練習は、とりあえず覚えなきゃというだけだよね(笑)。

松陰寺:僕ら練習中はビックリするくらい声張ってないので。

――確かに(DVDに収録されている)メーキング映像で見た練習シーンでも声を張ってなかったですね(笑)。

松陰寺&シュウペイ:(笑)。

――“ノリツッコまないツッコミ”でおなじみの松陰寺さんですが、そうではない一面を出す機会も増えてきています。“ノリツッコまない”についてはご自身でどう捉えていますか?

松陰寺:ネタに関してはやっていこうかなと思っています。でも変化はつけていきたいです。お客さんももう僕らのことを知っているので、「“ノリツッコまない”をするんだろうな」と思って見ているじゃないですか。だからそのままやるより、どう裏切っていくかということは意識しています。肯定しているようでよく聞いたらめちゃくちゃなことを言っている、とか。

――2019年の「M-1」で話題となるも、2020年は準決勝敗退。当時の結果についてはどう感じていますか?

松陰寺:納得はしています。決勝に行くレベルじゃなかった。僕らは、形は一緒でも漫才の内容が違ければウケるのかなと思って2020年の「M-1」に臨みました。でも、2回戦で全然ウケなくて「あれ? こんなにみんなすぐ離れていくんだ」と思って「やばい」と話し合った。

シュウペイ:2回戦で落ちるんじゃないかと思った。「やべぇ」って。

松陰寺:本当に。ちゃんと「M-1」用に3分でウケる形に作ったんですけど、2019年の追い風を全く感じなくて。だから、そこからちょっと崩したネタをやることで、なんとか準決勝まで行けたのかなと思っています。

――予想される難しさがあるんですね。

松陰寺:ありますね。そこは変化球なネタをやるみんなのテーマだと思います。王道はずっと王道をやっていてもいいじゃないですか。変わったネタになるとインパクトが強い分、次にそれをやった時にハードルが上がってしまう。

シュウペイ:期待されすぎて「どこかを変えてくるだろう」という目線で見られていたのに、「どこが変わるんだ」と探されている間にネタが終わっちゃった。だから反応が悪かったのかな。

松陰寺:でも冷静に考えて、いきなりこんなにテレビに出させてもらえるようになったほど強いネタができたのに、それを早々と手放すわけないじゃないですか。これで世に出られたのに。

シュウペイ:シンプルに笑ってくれればいいのにね(笑)。

――一方、2019年に優勝したミルクボーイは同じ構成でもウケ続けていますよね。

松陰寺:そこの差ですよね。そういう意味でも今のネタを極めたい。だから今回の単独ライブでも、そこまで大きくネタを変えることはしなかったんです。

シュウペイが炎上…松陰寺太勇「僕の中では普通のことだった」

――話の方向が違うかもしれませんが、シュウペイさんがテレビで、“イジられ”を拒否したような展開に「いつものキャラと違う」と炎上騒ぎになったことがありましたね。

松陰寺:「ロンドンハーツ」(毎週火曜夜11:15-0:15、テレビ朝日系)ですね。

――あれもシュウペイさんの中ではキャラを変えていこうという考えが?

シュウペイ:いやいや。あれは違うんですよ。

松陰寺:元々は俺がずっとシュウペイにイジられていた側なんです。力関係で言っても別に俺が上とかじゃなくて、基本フラット。むしろシュウペイの方がちょっと強いくらいで前からやっていたんです。でも、「M-1」に出て「シュウペイでーす」のキャラが広まったことで、「かわいいシュウペイちゃん」だと思っていた世の中の人たちが(ロンドンハーツを見て)ビックリしたんですよ(笑)。僕の中では普通のことだったんです。

――世間の思い込みとの落差が大きかったわけですね。

松陰寺:そうです。もちろん、「シュウペイちゃん」のかわいいキャラがいろんな人に良いと思ってもらえたのはうれしいんです。けど、僕らの13年やっている歴史の中では普通のことだったのに、それを知らない人たちがビックリしちゃった。

――「M-1」以前からファンだった人たちは分かっていたことだった、と。

松陰寺:おそらく分かってくれていると思います。

シュウペイ:今はちょいちょい番組で松陰寺さんをイジったりもしているので、伝わってきたかなとは感じています。当時は衝撃的だったのかもしれませんけど、あの時は流れがあったんですよ。「シュウペイでーす」を拒否した時の話だと思うんですけど、(かまいたちの)濱家(隆一)さんが「シュウペイでーす」ってきたのに俺がしない、っていうお笑いだった。

松陰寺:あそこで(「シュウペイでーす」を)やってもね(笑)。僕らが思っている感覚と世間の感覚との違いは、そこで身にしみて感じましたね。

――それ以降、二人の関係性を変えようとはされなかったのですか?

松陰寺:最近はむしろ等身大の自分たちでやろうかなと思っています。例えばラジオを聴いていただけるとよく分かると思います(笑)。

◆取材・文=山田健史

ぺこぱ(シュウペイ、松陰寺太勇) /撮影:山田健史