12月3日(金)からAmazon Prime Videoにて全5話一挙配信を開始したHITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタルシーズン10。「最後まで笑わなかった者、他者を笑わせてポイントを多く獲得したものが優勝」というルールのもと、今回はシリーズ史上初の“チャンピオン大会”として、歴代の覇者6人が一堂に集結した。

開始当初から『ドキュメンタル』シリーズで総合演出を務めているのが、『ダウンタウンのごっつええ感じ』、『笑う犬』シリーズ、『SMAP×SMAP』など数々の人気バラエティ番組に携わってきた伝説のテレビマン・小松純也さん。そんな小松さんに、ドキュメンタルにおける演出術や、これからの地上波放送とネット配信の在り方について聞いた。

自由に振る舞うためには厳密な“箱”が必要

――まず初めに、『ドキュメンタル』における総合演出の役割を教えてください。

小松:松本さんとお仕事する時は、常に松本さんのアシスタントだと思ってやっています。企画者であり演出家である松本さんが考えていることを具体的なカタチに落とし込んでいくのが私の仕事です。『ドキュメンタル』で言えば、空間のレイアウトやカメラの配置、出演者がそこに向かってくるストーリーをきちんと決めること。その中で出演者が求められている役割をシンプルかつ明確にして、そこからは逸脱しないという“箱”を作っておけば、中に入って何をやってもらっても『ドキュメンタル』になる、ということを心がけています。

――出演者が自由に振る舞うにもしっかりとした枠組みが必要ということですね。「ストーリー」とおっしゃった部分をもう少し教えていただけるでしょうか。

小松:出演者は松本人志という人物から招待状が届いて、100万円を工面して参加することになります。人によって状況は様々なので、もしかしたら借金が必要な人もいるかもしれません。現場で顔を合わせるまで他に誰が参加するかも分からない状況で、一人ずつ部屋に入っていく。笑ったら負けという状況のなかで、一方で芸人としてのスキルを問われる。それをどう受け止めるのかは人それぞれですが、芸人のプライドと欲望の狭間でどのように振る舞うのか、というのが『ドキュメンタル』におけるストーリーです。

――シリーズを追うごとにルールの足し引きもあったりして、番組としてのドキュメンタリー性も見えて面白いです。

小松:基本的に松本さんは全く同じことはやりたくない、という人なんです。常に何かが進化していないといけない。『ごっつええ感じ』の「ザ・対決」とか「the TEAM FIGHT」なんかのコーナーでも、ひとつ面白いのを思いついても次は必ず違うことをやる。常に探求していかなきゃ気が済まないという方なので、大枠は保ちながら、我々もどこにどんな工夫ができるのか考えることは止めないようにしています。

――今回のチャンピオン大会でひとつの節目を迎えて、また新たなフェーズに向かっていくタイミングかと思います。どのような展望を思い描いていますか?

小松:芸人さんたちによるスキルやノウハウがどんどんと充実してきたので、今回は、チャンピオンたちによる頂上決戦が実現できました。今後も実力者たちの戦いを見たいというのを基本路線に、さらに面白くするためのさまざまな議論をしています。

芸人さんにはいろんなタイプがいて、自分から仕掛けていく人もいれば、ツッコミで場を回していく人、ずっと笑いをこらえている状況が面白い人もいると思います。共通して言えるのは、その場の空気を一緒に構築できて、その延長線上に生まれる笑いを分かち合える人。つまりは笑いが大好きな人たちと一緒に作っていきたいと思います。

新たにシャープな個性が次々と現れてくれたら嬉しいので、今まで出たことがない人、我々が見たこともないような芸人さんたちを発掘していく、というのも今後やっていく必要があると思います。

「番組という言葉が消滅していくかもしれない」

――『ドキュメンタル』がスタートした2016年当時は、Amazonでバラエティ番組を制作というと、かなりチャレンジングな試みでしたよね。ネット配信ならではの部分でいちばん気を遣った点はどこでしょうか。

小松:地上波のテレビ番組と比較すると積極視聴が前提になるので、受動視聴向けのバラエティに多用する字幕スーパーなどはむしろ興醒めになってしまいます。画面に映るものが際立つように無駄なものは省いて、そこに映るものの意味とかニュアンスは視聴者が積極的に汲み取ってくれればその方が楽しめると考えました。伝わりやすさの技術で戦うのもテレビマンの役割ですが、本質的な素材の力で見せていくのもやりがいを感じています。

――以前に動物行動学者の先生に『ドキュメンタル』をレビューしていただいたことがあり、「BBCナショナルジオグラフィックの撮影手法と同じで、まるでネイチャードキュメンタリーを見ているようだ」とおっしゃっていました。ライオンが獲物を狩るまでの過程をずっと追うように、『ドキュメンタル』は最初から最後まで見ることで、動物的な生態の変化、個々の関係性の変化を楽しむことができる。面白い部分だけ抽出しても楽しめる他のお笑い番組と違い、連続性を楽しむ視聴方法もネット配信ならではじゃないでしょうか。

小松:地上波のテレビだと断片的だったり、“ながら見”をする視聴者も多いと思います。実のところお笑いというのは脈略のつながりが大切で、その中で破綻が起きるから驚きや笑いが生まれたりします。『ドキュメンタル』の場合はまさに脈略を追いかける要素が非常に強いので、よりそういった見え方をされたんだと思います。

用意してきた予定調和の笑いで成功することは少なくて、その場で生まれたノリに乗っかって、その延長線上で何かしらの破綻が起こる。フリーハンドでやっているように見えて、実はその場の空気の脈略がすべてを支配している。それをちゃんと見逃さないように、それが伝わるような編集や見せ方を心がけているのは事実です。

――「若者のテレビ離れ」と言われるなかで、松本さんもよく「地上波ではできない笑い」ということをおっしゃっていると思います。有料・無料を問わずネット配信のバラエティが栄えている状況を、長年テレビのバラエティ制作に携わってきて、現在どちらにも関わっている立場からどのようにご覧になっていますか?

小松:このテーマは話し出すと止まらないんですけど、地上波のテレビの作り方はここ最近かなり流動的になっている印象です。これまでは受動視聴に向けて制作するのが基本で、積極視聴するような番組は成功しにくいというのが地上波放送の考え方でした。テレビが面白すぎて見入ってしまうと家庭が不和になる、というのはよく言われることです。集中して見たくなるものは配信の特性と合っていると考えられて、だんだんそっちの方に流れていったのは事実です。

――テレビが面白すぎると邪魔な存在になるというのはジレンマですね……。

小松:しかし昨今で言うと、テレビ自体が受動視聴であるべきという考え方もなくなってきている感じがします。人間の意識にはキャパシティがあるなかで、これまで帰宅したらとりあえずテレビを付けていた人が、とりあえずスマホの画面を見るようになって、多くのものをスマホが満たしてくれるようになった。そういう意味で言うと、もういっぺんテレビが積極視聴に立ち返って、見応えというものに向き合っていかなければいけないんじゃないかと個人的には思っています。

――地上波の番組をネットで見る手段も増えてきて、実は今の若者って地上波とかネットとかあまり気にせずコンテンツに触れているのかもしれませんよね。

小松:それはあると思います。「コンテンツ」という言葉に全てが集約されて、もしかしたら「番組」という言葉がだんだん消滅していくかもしれませんね。あえて「配信」と区別して言わなくなっていくと思います。

配信のコンテンツがあふれている現状は、自分が見たいものを見られる非常に便利な状況であることは確かです。一方で、自分でキーワードを入力したり、アルゴリズムにおすすめされたりするのではなく、不意に目にする出会いが少なくなっているのは問題だと思います。例えば私の場合で言うと、NHK BS1で深夜に放送していたドキュメンタリーをたまたま目にして、初めてフェアトレードという問題に意識が向きました。また、最近では東京都緊急事態宣言下にそのニュースを知らなかったという人もいたそうです。配信の世界でどう「公共」を伝えていくのかは今後の大きな課題かもしれませんね。

<小松純也プロフィール>
1967年生まれ、兵庫県出身。1990年にフジテレビに入社し、『ダウンタウンのごっつええ感じ』、『笑う犬』シリーズ、『SMAP×SMAP』、『森田一義アワー 笑っていいとも!』など数々のバラエティ番組制作を担当。2015年から共同テレビに出向、2019年からはフリーとなり、現在は『人生最高レストラン』、『チコちゃんに叱られる!』、『HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル』などの演出・プロデュースを手掛けている。

『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』シーズン10概要

2021年12月3日(金)よりPrime Videoにて独占配信中
話数:本編5話
出演:松本人志(ダウンタウン) 
山本圭壱(極楽とんぼ)、ハリウッドザコシショウ、くっきー!(野性爆弾)、小峠英二バイきんぐ)、久保田かずのぶ(とろサーモン)、ゆりやんレトリィバァ
千原ジュニア千原兄弟)、藤本敏史(FUJIWARA)、後藤輝基フットボールアワー
番組URL:https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B09M78YBG9/ref=atv_dp_season_select_s10[リンク]
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「番組という言葉が消滅していくかもしれない」 『ドキュメンタル』総合演出・小松純也さんが見据えるテレビの未来