日本中に考察ブームを巻き起こした連続ドラマ「あなたの番です」(2019年日本テレビ系)の劇場版が現在公開中。マンション住民を巻き込んだ“交換殺人ゲーム”が起こっていなかったら?という、もう一つの世界を描く予想もつかないエンターテインメント作だ。

【写真を見る】ドラマ放送時は、一見、穏やかだが、狂気じみた早苗の行動も話題に

リレーインタビュー6回目は、穏やかな口調で一見常識人に見えつつ、息子・総一(荒木飛羽)のことになると狂気じみてしまう、402号室の住人・榎本早苗を演じた木村多江にインタビューした。

――劇場版ができると聞いて最初はいかがでしたか?

ドラマで死んじゃったり捕まったりしている人が多いので、どうやって映画になるんだろうと思いました。でも“もう一つの世界”と聞いて、これはいいなって。またみんなに会えますから。私、結構みんなと会えなくてロスが続いていたんですよ。

――木村さんが演じる早苗さんもドラマの中盤で捕まってしまいましたもんね。

そうなんです。後半、あまりみんなに会えず、さびしいなと思いながら撮影が終わっちゃったので。だから映画の撮影のときは同窓会みたいにみんなと盛り上がっちゃいました。本番ギリギリまでみんなおしゃべりが止まらなくて。スタッフさんたちも撮りたいんだけど、どうしたらいいのか…みたいな時間があったりして(笑)。楽しくてしょうがなかったです。本当に、撮影しに来ているのかおしゃべりをしに来ているのか分からないくらい。話題はやっぱり美容についてが多かったですね。

――本当に皆さん仲が良かったんですね。

2クールのドラマということもあり、撮影期間が長かったのもあると思います。ドラマのときから私たちも知らないことがたくさんあったので、台本見ては驚いたり考察したり、また考察している方たちのYouTubeを拝見して「あっバレている」と思ったりして(笑)。結構、考察している方たちの動画はためになりました。バレているから違うお芝居にしたり、こちらが安直にやったことが意味深に映っていることを知れたり…。考察している方に逆に助けていただいてキャラクターが作られていったと思います。

――早苗はすごくおっとりしていてそうで、息子・総一のことになると愛しすぎて一気におかしくなるという役どころでしたが、木村さんはどのような人物だと思われていましたか?

もちろん総ちゃんを監禁していることや人を殺していることは分かっていたので、いい人ではないのですが…。人生って選択の連続でその選択をたまたま間違えちゃうことってあるじゃないですか。それも追い詰められたりしたら人ってそっちはダメと分かっていても選んでしまったり…。

早苗さんはその選択で、ことごとくダメな方を選んじゃった人なのかな?と思っていました。そして常にそっちを選択してしまう、どこか追い詰められている雰囲気があるというか…。

まぁ途中、私も「どこに暴走するの? ちょっと待って!」と思うくらい暴走していっちゃって置いていかれそうなときもあったんですが(笑)。でも演じながらどこか俯瞰して早苗さんを見て、楽しんでいました。

――そんな早苗さんを劇場版で再び演じましたが、いかがでしたか?

一度、早苗さんを演じて、やはり総ちゃんへの愛は本物だと確信していましたし、焦って間違えてしまう人ということは分かっていたので、キャラをブレずに演じられました。逆にドラマのときよりも早苗さんで遊べちゃうみたいな余裕を持ちながら演じられました。

――劇場版はCGを多用したり、船内で撮影したりと迫力満点でしたね。

本当の船の中で撮って船上を体感できたのは楽しかったです。あと最終的にはCG と合わせていたりするのですが、セットもすごく豪華で。あまりCGの中で撮影しているという感じはしなかったです。

お気に入りのシーンはたくさんあるのですが、今回、早苗さんは身体を張っています。私、あまり水が得意ではないのに、水難事故に遭ったかのような水攻めな感じになっていて。本当に撮影は大変でした。ちなみに私は泳ぐのも全然ダメなので、事前にお風呂で顔をつけて呼吸の練習をしたりして臨んだのですが、上手くできているか…。ぜひ楽しんで見ていただきたいです。

――それにしても劇場版はドラマ出演者がほとんど集まり本当に豪華でした。

ドラマではそこまで一堂に会することはなかったんですが、映画だと全員が一緒のカメラに収まっていたのはぜいたくでしたね。私も、「あっ、みんないる!」とイチ視聴者のように喜んじゃって(笑)。集合しているシーンは本当に高揚して、うれしくなっちゃいました。ただみなさん忙しい方たちばかりなので、スケジュール調整が大変そうで…。撮影も撮れるところから撮りましょう!みたいな感じで、なかなか会えない人もいたりしました。あと撮影予備日がなく、これ撮り切れなかったらどうなるんだろう?みたいな日がいくつもあって(笑)。現場は和やかなのに、間違えられない緊張感はありました。

――そんな豪華出演者がクセのあるキャラクターを演じるのが面白いですよね。

役者さんの1 人1 人のキャラクターがすごく立っているんですよね。怖いんだけど面白いという。“あな番”が多くの方に支持された理由として作品の構造や考察する楽しさと同じくらい、キャラクターの面白さがあると思います。

犯人が分かった後も、あのキャラクターはこのとき何をしていたんだろう?と探したくなるというか。そして皆さんが細かいお芝居をされているので、その思いを裏切らず、何回見ても楽しめるようになっています。今回は、ドラマとは関係性が変わってきたりしているので、なんでそうなったのかを想像しながら見るとまた楽しいと思います。

――木村さんがお好きなキャラクターは誰ですか?

私は生瀬(勝久)さんが演じていた田宮さんです。一見普通なんだけど、ちょっと変わっているクセのある感じが好きでした。映画では、田宮さんが結婚パーティーの司会をしているのですが、本編はちょっとしか映っていないのに、歌を歌ったりと自由に演技をされていてもう本当に見ていて楽しくって。

みんなテストではたくさん笑い、本番では笑いをこらえて撮影に臨みました。でも田宮さんだけではなく、皆さんに共通することなんですが、極端ではあるんだけど、現実にちょっといそうなところがあって…。それがリアルだなと思います。

――最後に劇場版の見どころを教えてください。

巧みに緻密に構成されているので、本当に誰が犯人なのか分からないと思います。とにかくひとつひとつを見逃さないように、考察しながら楽しんでいただきたいです。

“あな番”は怖くてたまらないのに次が見たくなる、スパイスがいっぱい入っている作品です。驚きがジェットコースターのように次から次へと起こり、刺激しあって、刺激物を取らずにいられなくなるというか…。あのドラマを見ていたときの感覚を呼び戻す劇場版。とにかく面白い映画になっているので、ぜひ楽しんでください。

取材・文=玉置晴子

「あなたの番です 劇場版」で榎本早苗を演じた木村多江/撮影=玉井美世子/スタイリスト=成子美穂/ヘア&メーク=佐藤優