火星のグランドキャニオンとも呼ばれている、赤道を横切る巨大な渓谷で、大量の水が発見されたそうだ。
これまでも火星で水が発見されたことはあったが、そのほとんどは凍てついた極地においてだ。
しかしESAとロシアのロスコスモスの共同火星探査計画「エクソマーズ(ExoMars)」の一環として行われた調査では、赤道の表面に近い地下に大量の水(おそらく氷)が存在することが明らかになった。
かつて水が豊富だった火星が今のような姿になった謎の解明や、今後の無人・有人ミッションを遂行するうえで重要な発見であるとのことだ。
水が発見されたのは、火星のグランドキャニオンと称される「マリネリス峡谷」だ。
赤道付近を東西に走るこの深い渓谷は、長さ4000キロ、幅200キロ、深さ7キロに達し、太陽系でも最大規模の渓谷である。
・合わせて読みたい→かつて火星には湖があった。火星の地表に、地球の川にあるような丸い石がゴロゴロしている理由
火星のグランドキャニオンとは言うが、地球の本家(長さ446キロ、幅6~29キロ、深さ1.2キロ)よりはるかに大きい。
火星の表面を横切るマリネリス峡谷(マリネリス峡谷を表面に向けた火星の全球) / image credit:public domain/wikimedia
表面に近い地下で大量の水の存在を検出
水の存在を検出したのは、火星探査衛星「マーズ・トレース・ガス・オービター(TGO)」だ。
TGOの特殊なセンサーは、「中性子」を検出することで、地中1メートルの深さまで「水素」の存在を探ることができる。
中性子は、宇宙から降り注ぐ宇宙線が火星にぶつかったときに放たれる。このとき、土が乾燥しているほどに多くの中性子が生じ、反対に水分があるほどに少なくなる。ここから地中に含まれる「水素」の量を推測するのだ。
マーズ・トレース・ガス・オービター / image credit:esa
[もっと知りたい!→]火星の北極の下に膨大な量の水の氷を発見(米研究)
今回検出された水素が、水分子に結合していると仮定すると、地表付近の40%が水であると推定されるのだという。
水が見つかった範囲は、オランダの面積にも匹敵するそうだ。
検出された水は、氷か、あるいは地中の鉱物に化学的に結びついた形で存在すると考えられる。
しかし過去に行われた調査では、マリネリス峡谷の鉱物にはほんのわずかにしか水が含まれていないことがわかっている。
今回検出された水分量はそれをはるかに上回るため、水は氷として存在している可能性が高いそうだ。
マーズ・トレース・ガス・オービターによる水の分布マッピング / image credit:esa
火星の過去を探るヒント
通常、火星の赤道付近では、水は蒸発してしまう。
しかしそれが存在するということは、マリネリス峡谷にはそれを維持する特別な条件がそろっていると考えられるそうだ。
それどころか、何らかの形で補給されている可能性すらあるという。
マリネリス峡谷の中央部北に位置する大きな谷、カンドル谷 / image credit:esa
今後行われる火星探査の多くは、今回のような低緯度地域を目的地にしている。そのため、水の発見は、そうした将来的なミッションにとって非常に重要なことであるという。
今では不毛な惑星になってしまった火星だが、かつては水が豊富だったと考えられている。今回の発見は、そんな星が今のような姿になってしまった謎を解き明かすヒントになる。
そうした調査からは、過去に存在した可能性がある生命についても何がしかのことが判明するかもしれない。
また今回水が発見されたことで、マリネリス峡谷は、有人ミッションのターゲットとしても、いっそう有望な候補地になったとのことだ。
この研究は『Icarus』に掲載された。
References:ESA - ExoMars discovers hidden water in Mars’ Grand Canyon / written by hiroching / edited by parumo
コメント