(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

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 トヨタ自動車が大規模なEVシフト構想を発表した「バッテリーEV戦略に関する説明会」(2021年12月14日)の3日後、トヨタ自動車東京本社(東京都文京区)を基点とした新型「レクサスNX」報道陣向け試乗会に参加した。

「NX」は2014年に初代モデルが登場したレクサスブランドのクロスオーバータイプの1台で、レクサスのラインアップでは「UX」と「RX」の中間に位置するモデルだ。2021年10月に日本国内での発売は始まっているが、半導体など各種部品の納入遅れなどが影響し、10月時点で注文から納車まで約半年かかる状況にある。

 実車を見て“車格が一気に上がった”という感想を持った。

 まず、ボディサイズが先代モデルより大型化した。全長は20mm増の4660mm、全幅も20mm増の1865mm、全高は15mm増の1660mm、そしてホイールベースが30mm増の2690mmとなった。左右タイヤの中心線を基準とした幅であるトレッドは、前輪で35mm増の1605mm、また後輪で55mm増の1625mmとなったことで、ドッシリと落ち着いた雰囲気がある。さらに、ホイールサイズが18インチから20インチへ。それによりタイヤ径が720mmから740mmとなったことも、ドッシリ感を生んでいる大きな要因だ。「次世代レクサスデザイン」と称する立体構成とボディ面の表現によって、艶やかさと大胆さを上手く演出している。

 インテリアは、14インチディスプレイVersion L、F SPORTに設定)のタッチディスプレイが大きな存在感を放つ。「Tazuna Concept」と称するデザイン思想を徹底し、各種スイッチ類、シートなど室内空間全体として先代モデルに比べて圧倒的に質感が上がった印象がある。

「プレミアムな電動感」を体感

 走行性能はどうか。

 用意されたのは、レクサス初のプラグインハイブリッドPHV)車「NX450+h F SPORT」(738万円)と、ハイブリッド(HV)車の「NX350h version L」の2台だ。それぞれ約1時間半にわたり都内で試乗した。

 プラグインハイブリッドのシステム構成としては、2.5リッター直列4気筒エンジンと電池容量18.1kWhのリチウムイオン二次電池である。トヨタRAV4 PHV」(ベースモデル469 万円)とほぼ共通だが、走行感としてレクサスらしい上級さ、快適さ、静粛さ、充実さをしっかりと感じとることができた。

 ハイブリッド車の「NX350h version L」では、走行中にアクセルを強めに踏み込んだ場合、また停止中でも必要に応じてエンジンがかかるなど、「ハイブリッド車はエンジンの存在感が大きい」ことを改めて実感した。一方、プラグインハイブリッド車からは、明確な電動感が伝わってきた。単なるEVモードというイメージではなく、“プレミアムなバッテリーEVそのもの”という印象だ。

 先日の「バッテリーEV戦略に関する説明会」で豊田章男社長は、レクサスブランドの全モデルで2030年までに北米・欧州・中国でEV100%、そして2035年までにグローバルでEV100%とすると発表した。

 トヨタは2021年3月にオンラインで実施した「LEXUS CONCEPT REVEAL SHOW」で、2025年までにレクサスの全車種に電動車を設定するとしていた。具体的には、バッテリーEV、プラグインハイブリッド車、ハイブリッド車などを含む約20車種の新型開発と改良という表現だったが、それから半年後には、一気にEVシフトを表明したことになる。

 背景にあるのは、政治主導によって大きく動き始めたグローバル市場における電動化の動向だ。

 欧州連合(EU)は2021年7月に、欧州グリーンディール政策の一環として「2035年までに欧州域内で(事実上)新車100%をバッテリーEV(または燃料電池車)化」という方針を表明した。また、同年8月には米バイデン政権が、「2030年までに乗用車とライトトラック(SUVピックアップトラック)の新車50%を電動化(バッテリーEV、プラグインハイブリッド車、燃料電池車)」すると発表した。それらの動きがレクサスの電動化方針に影響を与えたことは間違いない。

「NX450h+」が新たな“基準”となるか?

 今回の試乗後、「レクサスインターナショナル」カンパニーの関係者らと意見交換したところ、レクサス2035年完全バッテリーEV(または燃料電池車)化について「販売店もユーザーも十分許容できるものになるはずだ」との声が聞かれた。「レクサスオーナーレクサスに対する購入動機を持つ人たちの多くが、環境問題を含めた社会全体の変化に対する意識が強いから」というのが、その理由だった。

 その見立てについては、1980年代レクサス北米事業開始からレクサス事業をグローバルで定点観測してきた筆者としても基本的には同感だ。

 特にレクサスオーナーにとって、社会全体の変化の「基準」として、独メルセデス・ベンツの動向に対する関心は高いはずだ。プレミアムブランドの老舗であるメルセデス・ベンツは2021年7月に「市場環境が整えば、2030年にグローバルで新車100%をバッテリーEV(または燃料電池車)化する」と宣言している。日本を含むグローバルにおけるレクサスオーナーの多くが、「(バッテリーEVへと変化する)時が来た」という感覚を持ち始めているのではないだろうか。

 そうした中で、レクサス初のプラグインハイブリッド車である「NX450h+」は、レクサスオーナーレクサス販売店関係者にとって、レクサス電動化本格化時代を実感する新たな「基準」の車になるのではないか。

 そして、先日のトヨタ発表にあるように、NX450h+を追って、クロスオーバーSUV「RZ」がレクサス初のバッテリーEVとして登場することで、日系プレミアムブランドのEV化の流れができていくことになるだろう。

 豊田社長は「バッテリーEV戦略に関する説明会」で、2030年までにグローバルでトヨタブランドとレクサスブランドでバッテリーEV新車販売数を年間350万台とすると発表した。この350万台を豊田社長は「自動車産業界における基準」と呼び、部品サプライヤー、販売店、インフラ関連事業者、国、地方自治体、そしてユーザーとともに、本格的な電動化社会に向けた転換のあり方を議論していきたいと語った。

 今回の新型レクサスNX試乗を通じて、トヨタが言う「基準」について肌感覚で分かったような気がした。トヨタおよびレクサスバッテリーEVシフトについては、今後も様々な現場からレポートしていきたい。

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