NASAの宇宙探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」がついに太陽のコロナにダイブして、その中を通過するという離れ業をやってのけた。人類史上最も太陽に近づいた記念すべき1ページとなった。
NASA科学ミッション部門のトーマス・ズルブチェン氏は、「太陽との”接触”は、太陽科学の記念すべき瞬間で、まさに驚くべき偉業です」と声明の中でコメントした。
これにより、太陽の進化とそれが太陽系に与えた影響について、これまで以上に深い洞察を与えてくれるだけでなく、宇宙に存在する太陽以外の恒星についての謎も明らかとなるかもしれない。
太陽に接触したといっても、光り輝く球の中に突っ込んだわけではない。外層大気の最も外側にある希薄なガスの層、コロナ」に突入したのだ。
太陽はその重力によって集合した巨大なプラズマの塊だ。地球のように固い表面はないが、その周囲を重力と磁力によってまとめられた超高温の大気が包んでいる。
コロナの主な成分は水素原子が原子核と電子に分解されたプラズマで、その温度は100万ケルビン以上と言われている
太陽の重力と磁力は中心から離れるほどに弱まるので、ある地点を超えるとそれ以上プラズマを閉じ込めておけなくなる。ここが太陽の内と外を分ける境目で、「アルヴェーン臨界面」という。
しかし、アルヴェーン臨界面がどこにあり、どのような形をしているのか詳しいことはわかっていない。
[もっと知りたい!→]壮大なる太陽ロマン!10年間の太陽の動きを1時間で見られる高画質タイムラプス動画(NASA)
NASAの宇宙探査機、「パーカー・ソーラー・プローブ」の目的の1つは、それを探ることだ。
8回目のフライバイでコロナ内部の進入に成功
パーカー・ソーラー・プローブは、太陽のコロナを調査するために2018年に打ち上げられた。
2025年までのミッション期間中に合計26回の接近が予定されているが、そのうち7回は金星の重力を利用することでグッと大きく接近する。
これまで8回接近しているが、探査機がコロナ内部に進入したのは4月28日のフライバイが初となる。このデータが地球に中継され、中身を確認するのに数ヶ月かかり、ようやく今回の発表に至った。
以前まで、太陽の研究は外側からの観察によって行われてきた。今回コロナに突入したこのにより、これまで知ることのできなかった太陽内部の貴重なデータを収集することができた。
・合わせて読みたい→サウロンの目のようだ。太陽の黒点が史上最高の高解像度で撮影される
「つまり磁気に支配された太陽の大気の状態を、これまでになかったほど感じられるようになりました」とジョンズ・ホプキンス大学のヌール・ラウアフィ氏は説明する。
NASA's Parker Solar Probe Touches The Sun For The First Time
アルヴェーン臨界面との境界にはシワが寄っている
アルヴェーン臨界面は、中心から10~20太陽半径のどこかにあると推測されている。
今回パーカーがコロナに進入したのは、18.8太陽半径(1300万キロ)の地点で、15太陽半径(1000万キロ)まで潜り込んだ。
そこで観察された磁気の状態からは、アルヴェーン臨界面はシワが寄っているような形状をしている可能性がうかがえるという。
またより内部では、「疑似ストリーマー」という磁気構造も観測された。
8月に行われた9度目の接近で撮影された「コロナ・ストリーマー」。上の段の画像では明るいスジが上方へ、下の段では下方へ移動している。これはパーカーがストリーマーの上下を通過したからこそ、撮影できた風景だ / image credit:NASA/Johns Hopkins APL/Naval Research Laboratory
これは太陽の表面にそびえ立つ塔のような巨大構造で、日食になれば地球からも観測することができる。
パーカーがここに突入するとき、まるで台風の目に突っ込むかのようだったが、一度内側に入ると非常に穏やかだったという。
また詳しいメカニズムは不明だが、パーカーのデータによれば、この構造がアルベーン臨界面の歪みを作り出している可能性があるようだ。
Parker Solar Probe Encounters Streamers on the Way to the Sun
太陽風の磁場のねじれ現象も確認
「太陽スイッチバック」と呼ばれる現象も観測された。これは太陽風の磁場がZ字によじれる現象で、それが形成される原因や場所は今のところ不明だ。
その存在は1990年代から知られていたが、かなり一般的な現象であることが分かったのは、パーカーが調査を行った2019年になってからだ。
今回のダイブでは、コロナ内部で検出されており、少なくともスイッチバックの一部は、コロナの深いところから生じていることがうかがえた。
カリフォルニア大学バークレー校のスチュアート・ベール氏によると、「スイッチバックのある領域は、コロナ底部の小さなじょうご状の磁気構造に一致」するという。
これは既存の理論から予測されることで、太陽風の発生源を具体的に特定する手がかりになるとのことだ。
今後パーカーは、今回よりもさらに近く、9.86太陽半径まで接近する予定もあるとのこと。その時、どんな驚愕の事実を明らかにしてくれるのか? 太陽は今、ホットな場所なのだ。
References:NASA Enters the Solar Atmosphere for the First Time | NASA / written by hiroching / edited by parumo
コメント