アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』から誕生した人気グループ・Aqoursのメンバーであり、ソロアーティストとしても活躍する斉藤朱夏が、12月10日にワンマンライブ「朱演 2021 『つぎはぎのステージ』」を神奈川パシフィコ横浜国立大ホールで開催した。

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■素晴らしいステージになる予感は、幕開けからすでにあった

この日のライブが、斉藤朱夏のこれまでのソロキャリアの中で最も素晴らしいステージになる予感は、思えばその幕開けからすでにあった。

開演予定時刻の19時を少しだけ過ぎ、ピアノの旋律が会場に流れる中で、まずは4人のバンドメンバーがステージに姿を現す。そして少し遅れて、斉藤朱夏ゆっくりとステージの中央へと歩を進める。彼女を照らす、ピンスポットライト。そこに浮かび上がる、白のノースリーブと白のスカートに身を包んだ斉藤朱夏

次の瞬間、彼女が大きく息を吸い込む生々しい音が、マイクを通じて会場全体に聴こえてくる。息を吸い込んだ斉藤朱夏は、アカペラで歌い出す。“天才なんかじゃないし / 才能もないし / だから汗と涙をシャワーに流し”と、「ワンピース」の一節を歌う彼女の声だけがパシフィコ横浜国立大ホールに響き渡る。その時、鳥肌が立つような感覚になった。

「ワンピース」は、1stフルアルバム『パッチワーク』に収録された、彼女のリアルな心情を綴った歌詞が印象的な楽曲だが、その一節をアカペラで、しかもライブの始まりに歌う彼女の声は、とても力強くて澄んでいた。

彼女の性格を思うと、きっと恐ろしく緊張していて、とてつもなく不安だったことは想像に難くない。それでも、よく通る声で見事に独唱した。その歌声からは、今まで以上に強い意志と覚悟が伝わってきた。だから、ふっと鳥肌が立つような感覚になったのだと思う。

そして、その鳥肌が立つような感覚は、ライブが進むにつれて素晴らしいステージになる予感へと、さらには確信へと変わっていった。

「ワンピース」に続いて披露されたのは、デビューミニアルバムのタイトル曲「くつひも」だ。心地いいスイング感とナチュラルな歌声が、とても心地いい。

続く「恋のルーレット」を歌い終えたあとは、この日最初のMCでファンを彼女らしく熱く煽り、「あめあめ ふらるら」、赤を基調にしたワンピースに着替えてからの「パパパ」「ぴぴぴ」と続く流れでは、持ち前の明るさで会場に一体感を生み出していく。

そして、2度目のMCのあとに、最初のクライマックスは待っていた。

■とにかく、歌声を通して思いがダイレクトに伝わってくる

まずは、ライブでは初披露となった7曲目の「36℃」だ。ウィスパーボイス気味に歌い始められた同曲は、冬の恋心を描いたバラードなのだが、すっと伸びていく歌声や時折聴かせるファルセットボイスが素晴らしい仕上がりだった。

そのあと「よく笑う理由」の歌い出しでは、アコーステイックギターと歌のみでのパフォーマンスを披露する。「よく笑う理由」は、アルバム『パッチワーク』でも大きなポイントとなっているスロウナンバーで、彼女が“よく笑う”複雑な理由が赤裸々に歌われていく楽曲である。この曲での斉藤朱夏の歌唱は、今までの彼女の歌では聴いたことがなかったような、激しい感情がほとばしるものだった。とにかく、歌声を通して思いがダイレクトに伝わってくる。

そのエネルギーが、アコースティックギターと歌というシンプルなセットだったことを差し引いてもなお、本当に生々しく迫ってきたのだ。この時点で、素晴らしいライブになる予感はほぼ確信になっていた。前回のライブから約4か月、斉藤朱夏の“歌の力”は掛け値なしに強く、しなやかになっている。

「よく笑う理由」を歌い切ったあとは、もう1本のアコギパーカッション、ピアノを加え、アコースティックセットが続く。披露されたのは、「ヒーローになりたかった」と「セカイノハテ」だ。

ここでの彼女はしっとりとした歌声を聴かせ、ボーカリストとしての確かな成長をさらに証明する。そこから、再びバンドセットで「しゅしゅしゅ」「Your Way My Way」と繋いでいくが、アップテンポでスピード感があるナンバーでもボーカルの力が褪せることはない。

MCを挟み、本編のラストを飾ったのは、4つ打ちのリズムが高揚感を生み出す「またあした」。そのリズムに合わせて、観客からハンドクラップが発生する。リズムに乗せて大きく手を振り、「ありがとう!」と笑顔で叫ぶ斉藤朱夏。こうして、ライブはいったん幕を下ろした。

またあした」を歌い終えた斉藤朱夏がステージをあとにすると、すぐにアンコールを求める手拍子が鳴り始める。鳴り止まない大きな手拍子に引き寄せられるように、Tシャツとジーンズ着替え斉藤朱夏がステージに戻ってきた。アンコールで歌ったのは、彼女の生き様を歌った「もう無理、でも走る」とライブで声が出せない現状も相まって胸に響く「声をきかせて」だ。

アルバム『パッチワーク』の幕開けを飾る「もう無理、でも走る」と同作のラストを締めくくる「声をきかせて」を最後の最後に聴かせてくれた形になったが、2曲とも生命力が弾けるような歌声が、とても印象的だった。

■早くまた斉藤朱夏の“声をきかせて”ほしい

最後までステージを見て、やはり斉藤朱夏史上最高のライブになる予感、そして途中で感じた確信は間違っていなかったなと思った。

今までの彼女は、良くも悪くもその強い思いがどうしても先走ってしまうきらいがあった。しかし、この日のライブでは彼女の強い想いと歌声が美しくシンクロし、しっかりと音楽的カタルシスを生み出すことに成功していた。その背景にあるのは、何より彼女自身の歌い手としての成長であることは間違いない。あの笑顔の裏で、彼女が人知れず歌を磨く努力をしてきたことが、この日のライブを見てよくわかった。そんな、素晴らしいライブだったと思う。

ライブの最後には、2022年4月に東名阪で開催される“朱演 2022 LIVE HOUSE TOUR『はじまりのサイン』”の開催が発表された。アンコールのラストで歌われたのは「声をきかせて」だったが、むしろ早くまた斉藤朱夏の“声をきかせて”ほしい。次は、再び斉藤朱夏史上最高のライブを更新してくれる。この日のライブを見終わった今は、そんな予感がしている。

(取材・文/大久保和則)

■SETLIST(2021.12.10@パシフィコ横浜 国立大ホール)

01. ワンピース

02. くつひも

03. 恋のルーレット

04. あめあめ ふらるら

05. パパパ

06. ぴぴぴ

07. 36℃

08. よく笑う理由

09. ヒーローになりたかった

10. セカイノハテ

11. しゅしゅしゅ

12. Your Way My Way

13. またあした

アンコール

14. もう無理、でも走る

15. 声をきかせて

2022年2月に2nd写真集を発売する声優・斉藤朱夏/【Photo by Viola Kam[V'z Twinkle]】