俳優の笠松将が、放送中の大河ドラマ「青天を衝け」(NHK総合ほか)のクライマックス2話(第40回、12月26日[日]放送の最終回)に吉沢栄一演じる主人公・渋沢栄一の孫の敬三役で登場している。さらにその最終回翌日の12月27日(月)から三夜連続で放送される高橋一生主演の「岸辺露伴は動かない」(NHK総合)の第4話にも出演する。

笠松将

2020年には主演映画を含め、出演映画&ドラマ、配信ドラマが約20本。2021年もドラマ「君と世界が終わる日に」(日本テレビ系)、配信ドラマ「全裸監督2」(Netflix)や「エロい彼氏が私を魅わす」(FOD)などに出演。また、2022年は1月12日(水)にスタートするドラマ「ムチャブリ!わたしが社長になるなんて」(毎週水曜夜10:00-11:00、日本テレビ系)にレギュラー出演するほか、主演映画「リング・ワンダリング」(2月19日より全国順次公開)、ドラマ「君と世界が終わる日に Season3」(Hulu2月25日より配信)、ハリウッドデビューを果たしたマイケル・マン監督のドラマ「TOKYO VICE」(WOWOWで春放送・配信)などが待機中。そんな今、注目の俳優・笠松将に、「青天を衝け」「岸辺露伴は動かない」の2作についてたっぷりと語ってもらった。

■体力的にも精神的にも厳しいと思うので、吉沢さんは本当にすごいなと思いました

――大河ドラマは2度目の出演で、2018年の「西郷どん」に続いて、終盤に重要な役どころとして登場しますが、今回の「青天を衝け」の出演が決まった時のお気持ちは?

正直、単純に嬉しいとはその場では思えませんでした(笑)。いいパフォーマンスをして当たり前の場なので、ハードルが高い。そこに途中から入る難しさをどうしても想像してしまって。

もちろん第1回から見ていましたが、僕が出演する終盤まで物語は完結していないことに途中で気付きまして。あ、そうか、まだなのかと(笑)。現場入りする前は吉沢さんがずっと築き上げたものに対して、どういうふうに感情移入をすればいいのだろうと不安でした。でも、現場で彼が大河ドラマの全てを背負っている姿を見ただけで十分すぎるほど感情移入できたように思います。僕が演じる敬三は、吉沢さん演じる祖父の渋沢栄一からのバトンを最後に受け取る役なので、僕自身も吉沢さんに花を添えることができたらいいなと思いました。

――吉沢さんは祖父役ですが、実年齢では1つ下です。そこはカメラ前で対峙する際にネックになりましたか?

吉沢さんが積み重ねてきたものと、考えて捻り出しているものに意味があると思ったので、違和感はそんなにありませんでした。大河という舞台で1年半、同じ役を演じるというのは、やっぱりすごいことですよね。そんな大役は今の僕には想像しづらいですけど、もし来たら、怖いと感じると思うんです。体力的にも精神的にも厳しいと思うので、吉沢さんは本当にすごいなと思いました。

――吉沢さんが「栄一はやさしい敬三に結構甘えてしまっていた」ということをおっしゃっていたのですが、敬三を演じる笠松さんから栄一はどのように見えていましたか?

お父さん(篤二・泉澤祐希)にいろいろあって、その分、話が僕(敬三)に来るんですけど、敬三はおじいちゃんにずっとあこがれていたように思います。決して超えられない壁であるおじいちゃんが何を求めているかは理解できるけど、できる自信がない。でも、やらなきゃいけない。それは僕自身とリンクしているところがあると思いました。吉沢さんがすごいことをやっていて、僕はそれを超えなきゃいけない。自信はないけど、やらなきゃいけないという感覚がありました。

――では、高良健吾さん演じる喜作との関係はいかがですか?

喜作はいい意味で、あんまりプレッシャーがない人なので、僕自身も高良さんとのシーンは、プレッシャーを感じずに臨めました。喜作の「自分は逃げた。でも、後悔していない」というセリフが好きで、すごく人間らしさを感じます。誰もがおじいちゃん(栄一)のように強い人間ではないので、感情移入できて、魅力的な人物だなと。そういう大人たちが敬三というか僕の周りにいてくれるから、いろんな考えを持てるし、僕の人生も「青天を衝け」というドラマも豊かにしているように感じました。

――最終話では笠松さんがモノローグもされますが、どう取り組まれたのですか?

どういうニュアンスで言うかをすごく考えました。語りなのか、敬三の心の声なのか、おじいちゃんにずっと言いたかったことなのか。監督は僕が疑問に思ったことを一緒に考えてくださる、すごく柔軟な方で、例えば、接続詞をなくしていいですか?と相談したときは「ありがとう。それでいってみましょう」と言ってくださったりして、うれしかったです。

――「青天を衝け」という作品に触れて、笠松さんが感じたことは?

渋沢栄一さんという人はすごい人ですが、周りの人物もすごいし、そこから作品の枠を超えて、人ってみんなすごいと思いました。お父さんの篤二だってすごいし、喜作も敬三もすごい。そして、この記事を読んで下さっている皆さんもすごい。僕は何かを成し遂げたからすごいのではなく、大事なのはその過程だと思うんです。成功は過程のおまけで、重要なのはよく考えて、自分と対話して、その時々にベストな選択をしていくこと。それは誰もがしていることなので、人間ってすごいなって。みんなすごくて、尊敬できるなということを感じました。

■「一生さんにはすごく勉強させてもらいました」

――笠松さんならではの視点ですね。では、もう一つの作品についてお聞かせください。「岸辺露伴は動かない」の第4話に出演されますが、2020年末に放送された第一弾はご覧になりましたか?

見ましたよ〜。出ている方たちがすごいし、クオリティーは高いし、「そこ、そこ!」というファン心理を大事にした作品だなと感じました。その秘密はスタッフさんたちにお会いしてわかりました。人物デザイン監修(柘植伊佐夫)をはじめ、衣装さんもヘアメイクさんもむちゃくちゃこだわっているんです。監督(演出)の渡辺一貴さんは特にそうで、最初にお会いした時にすごく楽しそうに説明をされていて。だから、この時も素直に喜ぶだけじゃいられませんでした(笑)。だって、こちらの作品も途中から入ることになるわけですから。

――確かにどちらもそうですね。演じる橋本陽馬役についてはいかがですか?

陽馬の体を作り上げるのは簡単ではないし、できるかなと不安でした。でも、筋肉に取り憑かれた役だから、あの体にならなかったら意味がない。キャラクターを汚したくもないし、自分の名前に傷もつけたくないから、不安だしためらいもありました。でも、気付くとどんどん新しい台本が届くんです(笑)。読むのが怖いと思いながらも、チラチラ台本を読むとだんだん脳みそがやるならこうしないと、とかって考え出すんですよ。そんなふうにどんどん新しい台本が届いて、気付いたら現場にいて、気付いたらこうして取材を受けている(笑)。皆さんにどう見られるのか、怖いです。ガッカリされるのが一番イヤなので。

――撮影期間中に、筋肉に変化が出るようにトレーニングをしたわけですよね?

最初の撮影期間から後半のシーンの撮影まで3週間ぐらい空けてくださったので、正直、そこまでの差は出ないんじゃないかと思いながらも必死に取り組みました。3週間だと人間の細胞まで変わることは難しくて。最低、3カ月は必要ですから。

――そうして、Instagramにアップされている食事制限の歌が生まれたわけですね。

そうです(笑)。何か面白くした方が絶対いいと思ったんです。だって、グチってもサムいし、頑張ってます! とアピールするのも違う。でも、このモヤモヤした何かを消化しておかないとおかしなテンションになると思ったので、ああいうことになりました(笑)。恥ずかしいな〜。

――撮影が終わった時の気持ちは?

もう二度と筋トレしない!って、マネージャーに言いました(笑)。でも、高橋一生さんは粋ですね。終わったら何が食べたいですか?と聞かれていたんですけど、撮影が終わった日に僕が食べたいと言っていたものを全部プレゼントしてくれたんです。「今日だけは好きなもの食べてください」って。

撮影中もいろんな話を聞いてくれて、いろんなアドバイスをくださって。「笠松さんは大丈夫ですよ。笠松さんはもうできていますよ」と、僕の背中を押す言葉をたくさんいただいたんです。僕、初めてじゃないかな? 現場で、一緒に写真撮ってもらってもいいですか?って言ったの。本当に大好きです。高橋二生になりたいくらい(笑)。

――(大笑)。名言出ましたね!

もう本当にやさしくて。それに僕なんかがいうのもおこがましいですけど、やはりお芝居が超魅力的でした。それで何でだろうとずっと考えていたんですけど、いろんなことを考えて、いろんな気遣いをされているんだろうと思いました。芝居って気遣いじゃないですか? 相手役に対しても、自分の役に対しても気遣いが必要だと思うので一生さんにはすごく勉強させてもらいました。

――一番印象に残っているシーンは?

ボルダリングのシーンです。実は練習で一回も成功できなかったんです。だって、部屋の天井を伝うんですよ? 漫画にも同じシーンがあるんですけど、聞いたことあります? 漫画を超える実写って。ボルダリングの先生に「こんなの初心者ができるんですか?」って聞いたら、「無理だと思います。でも、監督が笠松さんならいけると言っていたので」って(笑)。最初は冗談も言ってたんですけど、だんだん怖くなってきて…。そうしたら、本番で2回成功できたんです! 監督にも「ありがとう」と言ってもらえて、その日の帰り道はすごい気分が良くて、思わずマネージャーに電話しました(笑)。

――すごいです。そのシーンも注目します。結局、その後、筋トレは?

あ、その後、復活しました。陽馬が(自分の)どっかにいるなと思います。ジムに行ったら、「橋本陽馬、本当に来てるんですね」と言われました(笑)。放送されたら、もっといじられるんだろうなと思っています。

――「青天を衝け」も「岸辺露伴は動かない」もどちらも楽しみです。

「青天―」の現場はすごくいい緊張感がありながらもあたたかくて、「露伴」はいい意味でいろんな思いがあふれる現場でした。どちらも、純粋に楽しんでいただけたらうれしいです。

取材・文=及川静

大河ドラマ「青天を衝け」と「岸辺露伴は動かない」に出演する笠松将/ 撮影=後藤利江/スタイリスト=徳永貴士/ヘアメーク=松田陵(Y’s C)