フィギュアスケート全日本ジュニア選手権が、2021年11月19から21日の3日間、愛知県名古屋市、日本ガイシアイスアリーナにて開催された。男子の1位から6位、女子の2位から7位の選手は、12月22日からさいたまスーパーアリーナで開催されている全日本選手権へと推薦出場する。いずれも将来が嘱望される逸材揃いだ。

【画像多数】島田麻央、住吉りをん、三浦佳生…全日本ジュニアの出場選手たち

■全日本では観られないが、次世代エース候補筆頭、島田麻央

女子ではノービスから推薦出場した島田麻央の飛び級優勝が実現し、大いに盛り上がった。難しいエレメンツを入れることのできないショートプログラムこそPCS(演技構成点)が伸びず、4位スタートとなったが、「60点を超えられたのは良かった」と前向きに捉えていた。

フリーでは4トウループを着氷。その他の要素も完ぺきに揃え、逆転優勝を果たした。シニアの全日本への2段階飛び級の推薦は得られないのだが、来季はジュニアに上がり、より活躍を観る機会も増えることだろう。

元々は東京の選手で、2019年の全日本ノービスで優勝した際にもインタビューをさせてもらっている。その頃にはトリプルアクセルへの挑戦を話してくれていたのだが、その後京都に移籍し、トリプルアクセルよりも先に4トウループを跳べるようになるとは想像していなかった。

これだけの逸材となると環境が重要になるが、幸いなことに現在お世話になっている木下アカデミーの育成環境は素晴らしく、何の心配もないだろう。順調に行けば、ロシア勢と互角に戦える選手になれるかもしれない。そんな選手がようやく日本に現れたことを喜びたいと思う。

■世界ジュニアでの活躍を期待したい、住吉りをん

惜しくも2位となった住吉りをん。実力がありながらなかなか波に乗れないシーズンが続いていたが、今季は好調さが目立つ。8月のげんさんサマーカップでの優勝が転機になったように感じた。

以前はエレメンツおよび前後のつなぎに余裕がない演技との印象だったが、それが夏以降は大幅に改善された。今回も優勝候補だったのだが、フリーでのミスが響いてしまった。

ジュニア卒業間近の住吉りをん、あるいは吉田陽菜の活躍に期待したい気持ちもあったのだが、島田麻央のエレメンツの素晴らしさが上回った結果となった。

■全日本での巻き返しを期待したい、吉田陽菜

同じく優勝候補であった吉田陽菜は、明らかに実力は伸びているのだが、歯車がかみ合わずに苦労している。全日本ジュニア後に、自身初の国際大会として派遣が決まっていたゴールデンスピンのジュニアカテゴリーが中止となり、このことはメンタル的にも堪えたようだ。

彼女はまだISUポイントを持っておらず、このままシニアに上がると国際大会への派遣で苦労することになる。住吉りをんも出場が決定していたジュニアグランプリファイナルが中止となり、ISUポイントを獲得する機会が失われた。コロナ禍の影響が特に大きいのがジュニアカテゴリーだ。両名とも全日本選手権で最大限のアピールをして世界ジュニア選手権への派遣を勝ち取ってもらいたい。そして今季こそは世界ジュニア選手権が無事に開催されてほしいものだ。

■他の推薦選手も多士済々

他の全日本選手権への推薦出場選手にも触れておきたい。千葉百音はかつての回転不足、エッジエラーの癖を乗り越え、素晴らしいジャンプを跳ぶ選手になり、見事に表彰台に上った。大技が一つ身につけば十分に世界で戦える選手になるだろう。

田中梓沙は、フリーでミスが出がちな傾向はまだ残っているのだが、まずは怪我を乗り越え、復活してくれたことを喜びたい。柴山歩は今季急成長を遂げた。特に西日本ジュニアでの優勝は見事だった。全日本ジュニアではミスが出てしまったものの、安定感のある選手という印象だ。スタイルが良く、バレエの振付も良く似合う。

中井亜美は新潟から千葉のMFアカデミーに移籍し、演技のスタイルが大きく変わった。以前は持ち前の身体能力で元気に跳ね回っている印象だったが、現在は中庭コーチの指導の下、技の丁寧さや表現力にも気を配っているようだ。いずれも素晴らしいホープばかりだ。全日本選手権での活躍を期待したい。

■男子の推薦出場組は逸材が揃う!

男子の全日本選手権出場組も見逃せない。まずは見事な優勝を遂げた三浦佳生。フリー演技後、キスクラで見せた涙が印象的だった。幼少時から彼を見てきた方ならば同意してくれるだろうが、昔は万全な状態で試合に臨めることが少なく、実力を発揮できないことが多かった。今は本当に落ち着きが出て、素晴らしい選手になったと感じる。幾度かコーチの変更があったが、今のチームが肌に合うのだろう。

ジャンプの才能では佐藤駿、鍵山優真に引けを取らないどころか、年齢を考えれば二人にも勝っているかもしれないレベルの選手だ。全日本選手権では「フリーで最終組に入ることを目標にしている」と公言するなど、推薦出場組の中でも最も楽しみにしている選手だ。

壷井達也は、本来ならば今季はシニアに上がっても良かったのだろう。だが神戸大学へ進学し、環境が激変。加えて怪我による出遅れもあり、ジュニア残留で臨んだ今回の全日本ジュニアだった。それでも4回転サルコウに果敢に挑戦するなど、シニアで戦う準備は着々と整いつつあるようだ。

吉岡希は、演技中のポジションが実に美しくなった。以前のジャンプばかりに注力していた頃の演技とは大きく変貌を遂げている。

片伊勢武は美しい表現力にトリプルアクセルの安定感が魅力だ。この試合ではそのアクセルにミスが出てしまい、点数が伸び悩んだが、全日本での巻き返しが楽しみだ。

大島光翔は、今季最も進歩したと感じている選手の一人だ。観客を魅了する独特の表現力は幼少時からの変わらぬ持ち味だが、近年はジャンプでの進化が著しい。今回は4ルッツに挑戦するまでに成長した。トリプルアクセルは完全に手のうちに入れ、以前苦労していたフリップも得意なジャンプにまでなったようだ。全日本の舞台で「道」を演じるのが楽しみだ。

中村俊介は、トリプルアクセル、4トウループ共に、あともう少し、というところまで来ている。大技でミスをした後に演技全体が荒くなってしまうのがもったいない点だ。覚醒まで、本当にあともう少し。期待したい。

写真・文: 中村康一 / Image Works

女子優勝、島田麻央/中村康一 / Image Works