ビジネスコンサルタントの人に話を聞くと、「PDCA」「5S」「マイドアの法則」など、聞き慣れないビジネス用語がよく登場します。しかしビジネス用語、ビジネスの法則のなかにはそのまま信用していいものかアヤシイものもあるようで......。

天使と悪魔のビジネス用語辞典』などの著書で有名な中小企業診断士 平野喜久さんにお話を伺いました。

――ビジネス用語、ビジネス法則と呼ばれるものは、とてもたくさんあるようですが、これらはどのようにして生まれるのでしょうか。

平野先生 商売の仕方というものの根幹は大昔から何ら変わるものではありません。その時々で、例えばコンサルタント、学者といった人々が、さまざまな切り口、見方を「うまい言葉」「うまい言い方」でまとめて提示します。それがビジネス用語や、いわゆる法則といったものになるわけですね。

――いわれてみると説得力があって、「なるほど」とうなずいてしまいますが。

平野先生 もちろん説得力があって、ある程度裏付けがないと、用語や法則にはならないですから。ただ、やはり何でも受け入れるのではなく、注意深く耳を傾けるべきだと思いますよ。

■説得力があるようでも......

平野先生の著書『天使と悪魔のビジネス用語辞典』にはさまざまなビジネス法則についての解説があります。中には、間違って引用されたり、牽強付会(けんきょうふかい)の説となっているビジネス法則もあるようで、平野先生はそれを指摘されています。その例をご紹介しましょう。

●メラビアンの法則
話者が聴衆に与えるインパクトには3つの要素があり、それぞれの影響力を具体的な数値で表した法則。アメリカの心理学アルバート・メラビアン1971年に提唱した。「3Vの法則」「7-38-55ルール」とも。

55%=Visual(視覚情報:見た目・表情・しぐさ・視線)
38%=Vocal(聴覚情報:声の質・速さ・大きさ・口調)
7%=Verbal(言語情報:言葉そのものの意味)

ビジネスでは、スピーチ、プレゼンテーション、営業活動、接遇、就職面接において、「いかに見せ」「いかに語るか」の重要性が指摘される。

*......『天使と悪魔のビジネス用語辞典』P.230より引用

メラビアンの法則は、「コミュニケーションでは言語情報よりも見た目が大事だ」などの主張をするためによく引かれますが、平野先生によればそれは大きな間違いで、なんとメラビアン自身もちまたで引かれる自分の説の誤用について明言しているのです。

平野先生によれば、「メラビアンが実験で確かめたかったのは、視覚聴覚言語で矛盾した情報が与えられたときに、人はどれを優先して受け止め、話者の感情や態度を判断するか」であって、決して言語情報が相手に伝わらないなんてことではなかったのです。

まさに、実験結果が面白おかしく独り歩きしてしまったいい例といえるのではないでしょうか。

●X理論、Y理論
アメリカの経済学者マグレガーが主張した、管理、組織面から見た人間観の類型。

X理論は「人間は本来怠け者で仕事が嫌いであり、強制や命令をされなければ働かない」とする人間観のこと。Y理論は「人間は自ら努力し、目標を達成することに喜びを感じる」とする人間観のこと。

組織においては、目標による管理、参加といったY理論によるマネジメントが望ましいとされる。

*......『天使と悪魔のビジネス用語辞典』P.108より引用

「X理論」「Y理論」と聞くと、なんだかとても科学的な話のように聞こえます。しかし、内容は「人間観」の話で、そういう見方もあるよねといった感じです。

平野先生によれば「不思議なビジネス用語です。人間について、怠け者と働き者という2種類の見方があるなんて当たり前じゃありませんか」です。

●80対20の法則
結果の80%は原因の20%から生じるという経験則。イタリア経済学者パレートが提唱した。「パレートの法則」とも。

在庫の管理方法として「ABC分析」を行う過程で発見された。ABC分析とは、事故を重要度の高い順にA、B、Cとランク付けし、重要度の違いによって管理重点の置き方を変え、全体の管理効率の向上を目指す手法。

最近は在庫管理に限らず、あらゆるマネジメントの場面でこの経験則が応用されるようになっている。

*......『天使と悪魔のビジネス用語辞典』P.240より引用

これは、重要な商品上位20%が、全体の売上の80%を占めている、といった経験即に基づくものです。「管理コストを掛けるなら上位20%の重要商品に掛けろ、そうすれば売上全体の80%に効果が得られる」といった言われ方がされます。

ですが......、平野先生はこの絶妙な「80対20」という比率の「絶妙な説得力」に警鐘を鳴らしていらっしゃいます。例えば「成功した20%の人が、富の80%を独占している」といった言い方をされても、検証しにくいですし、またなんとなく説得力があるような気がします。

平野先生によれば「ポケットに忍ばせておいて、いつでも披露できる、テーブルマジックのようなビジネス用語です」とのこと。ビジネス用語、法則といったものは、よく理解して、注意深く使わなければならないということでしょうね。

■時流に合わせてビジネス用語は生まれる!

――こうしたビジネス用語、ビジネス法則というものは時代によって変わるものなのでしょうか。

平野先生 そうですね。やはり、その時代の需要に合ったものが作られるのだと思います。

――現在よく言われるビジネス用語は何でしょう。

平野先生 今は「アベノミクス」「脱デフレ」ではないでしょうか。経営者の方々とお話をしていると、今までの閉塞感がなくなって、徐々に明るくなってきたという感じです。問題はこれから「アベノミクス」がどのような方向に行くかですね。

――なるほど。若いサラリーマンの人が、研修などでビジネス用語、法則について教えられることがあると思います。若者にアドバイスがありましたらお願いします。

平野先生 そうですね、そういった研修で教わることは、ビジネスの基礎知識です。ビジネスをする上での共通認識、共通語を教わっていると思うのがいいでしょう。海外に行く時には英語の勉強をしますよね。それと同じです。

これからビジネスをしていくと、「ああ、研修で教わったな」と腑に落ちる時がやってくると思いますよ。

――ありがとうございました。

いかがだったでしょうか。ビジネス用語、ビジネス法則といわれるものは本当にたくさんあります。興味を持った人はぜひ調べてみてください。


⇒平野喜久先生のサイト『YOSHIHISA HIRANO website』
http://www2u.biglobe.ne.jp/~hiraki/hiranoyosihisa.htm

⇒平野喜久先生の著書『天使と悪魔のビジネス用語辞典』
http://www.amazon.co.jp/dp/4883994023


(高橋モータース@dcp)


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