東京都の離島、神津島から本土に戻るには、船舶のほか航空機も利用できます。使われる機体は全国でもここだけのプロペラ旅客機「ドルニエ 228-212 NG」。そして降り立つ地も、羽田ではなく住宅街の中にある調布飛行場なのです。

タクシー運転手「快適になった航空機」

往路、客船で東京都の離島 神津島に来ていた筆者(安藤 昌季:乗りものライター)は、村営バスの運転手から「新中央航空は今の航空機になってから、快適になりました。以前は8人乗りで、機内に通路もなく、狭かったですよ」と教えて頂きました。復路は空を飛んで帰ろうかなと考えていた時のことです。

以前この神津島を発着していたのは、「BN-2 アイランダー」という小型機です。客室内に2人掛けの座席が4列設定されていますが、座席ごとに側扉があり、通路はない馬車のような客室でした。巡航速度は257km/hと新幹線よりもやや遅いもの。そんな超小型機が主力だった神津島航路ですから「今の航空機」となっても小型。でも快適とは、いったいどのような機体でしょうか。

目指す神津島空港は村営バスと航空便の接続が悪く、島内から空港に向かうにはタクシーが便利です。島内タクシーは3台のみなので、利用できないこともあります。筆者は市街地から30分ほど歩いて坂を登り、空港にたどり着きました。

神津島空港は、滑走路が1本にターミナルビルのみとシンプルな構造です。許可を得て、新中央航空のプロペラ旅客機「ドルニエ 228-212 NG」(以下228NG)を見せて頂きました。

この機種は、もともとドイツのドルニエ社が製造した双発旅客機です。ドルニエ228の初飛行は1981(昭和56)年ですが、228NGはドルニエ社から形式証明を引き継いだルアグ アビエーション(ドイツ)が製造。コクピットを電子化したり、プロペラブレードの枚数を増やしたりして性能を高めました。新中央航空が、2011(平成23)年に世界で初めて導入しましたが、現在も国内ではここだけの運行となる、とてもレアな機体といえます。

安全講習を空港で受ける なぜ?

228NGを間近で見た印象は「意外と大きい」というもの。その全長は16.56mです。つい最近の2021年12月、国内線に投入されたボーイング787-9旅客機は全長62.8mですから、旅客機の中では小型であることは間違いないのですが、高速バスの「大型車」が全長12m、在来線鉄道車両が一般的に1両20mと考えると、バスと鉄道の中間という印象です。

側扉は、搭乗時に展開すると階段になります。客室内は最後尾が3人掛け座席、その前の列(入口の横)が2人掛け座席で、それ以外は1+1列の座席が7列並び、定員は19人です。

客室の内幅は1.5m程度で、マイクロバスより狭く、乗用車より広い印象でした。1人掛けの座席はリクライニングせず、テーブルもありませんが、最大50分程度の飛行時間であり、座り心地は良好でした。機内にトイレはありませんが、側窓が広いことも含めて、快適性は最新のジェット旅客機にも劣らないと感じます。

見学を終え、一般客と共に保安検査を受け、待合室で待機します。変わっているのは、通常の旅客機では離陸後にフライトアテンダントが行う救命胴衣の使い方などの安全講習を、空港内で行うことです。これは小型機のためアテンダントが同乗せず、かつ飛行中に座席からの移動が禁止されているからです。

チェックイン時に、搭乗する人は体重を申告し、荷物の重量も計測されます。小型機なので、重量が偏らないための配慮です。どの座席に座るのかも、搭乗直前に告知され、好きな座席を選ぶことはできません。

「バラバラバラ、ブォォォン」プロペラ機ならではの音

筆者は4列目の進行方向左側を指定されました。すぐ横に翼とエンジンが見え、迫力は満点です。離陸するとエンジン音は、ジェット機の「ゴオォ」ではなく、「バラバラバラ、ブォォォン」。プロペラ機ならではの音です。滑走路を離れると、神津島上にある国内最短800m滑走路の空港が、海上に浮かぶ航空母艦のように見えます。

離陸後に、気圧の変化をほぼ感じないことにも気づきました。これは、228NGが客室を与圧しないからです。それもあって、飛行高度は推定1800~2000m程度。進行方向左側に見える富士山よりも低く飛びます。ジェット旅客機は高度1万m付近を飛びますから、見える景色がとにかく近いです。

進行方向右側の景色を同行者に聞きました。それは伊豆諸島を見下ろすもので、島の細かな造形が見えて絶景とのこと。この高度の低さは、最後まで感じました。巡航速度が355km/hと遅い(ジェット旅客機は800~900km/h程度)こともあり、本州上空に到達しても、景色がゆっくりと流れていきます。

着陸する飛行場は羽田でも成田でもありません。住宅地の中にある調布飛行場です。長らく国が管理していたこともあり、旅客機が離着陸するイメージはあまりないかもしれませんが、機体はサッカー場である味の素スタジアムの脇に降りていきます。2021年現在、定期旅客運航しているのは新中央航空のみ。日本唯一の機体もさることながら、神津島~東京便はとてもレアな路線といえるでしょう。

取材日は快晴だったこともあり、機内は満席。揺れもほぼない快適なフライトでした。

新中央航空のプロペラ旅客機「Dornier 228-212 NG」(2021年11月、安藤昌季撮影)。