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ワンワンを演じるチョーさん

「25年も続けていると、慣れてくるんです。激しいダンスはちょっと疲れますけど、ふだんは疲れるとかはないかなあ」

朗らかな笑顔でこう語るのは、0~2歳の赤ちゃん向け番組『いないいないばあっ!』(NHK Eテレ・月〜金曜8時10分〜25分)でお馴染み、クリっとした目に大きな黒い鼻、緑色の耳が愛らしい“ワンワン”を演じる、声優のチョーさん(64)。

驚くべきは、チョーさんが声だけでなくワンワンそのものを演じている点だ。番組の放送が開始された’96年から、25年以上にわたりチョーさん自身が赤ちゃんと一緒に歌やダンス、体操をこなしている。

「もともとダンスが得意なわけではありません。番組開始当初のワンワンの役目は、出演する女の子のサポート的存在。ただの賑やかしで、歌の中でも『OK』『イエイ』と合いの手を入れる程度で、本格的なダンスをやるわけではなかったんです。

それが10年ほど前からスタジオを飛び出し、イベントなどを開催するようになると、ダンスもするし、歌も歌うようになる。25年間で求められる役割も変わってきました」

‘10年から始まったステージショー『ワンワンわんだーらんど』はチケットが常に入手困難な大人気イベント。そのほかにも、様々なイベントやショーで精力的に活動をおこなう。今年で放送25周年を迎える『いないいないばあっ!』。年末には、これまでの楽曲やワンワンの秘蔵映像が楽しめる特別番組「いないいないばあっ!25周年スペシャル」(NHK Eテレ)が12月26日午前7時25分から、ピカチュウモーニング娘。’21、GReeeeNなどのゲストを迎える「ワンワン25」(NHK Eテレ)が12月31日午前9時から放送される。

25年の歳月が経っても、ワンワンは永遠の5歳児だ。

「番組の収録では、赤ちゃんに自由に遊んでもらって、ワンワンも一緒になって自由に遊んでいます。ただ、赤ちゃんは奔放だから、ワンワンの股の下をくぐったり、まとわりついたり、尻尾をさわってきたりーー。怪我をさせないようにすることだけは気をつけています。赤ちゃんがあんまりに元気なので、たまには『そんなに動かさないで〜』とお願いすることも(笑)」

スタジオやイベント会場に来た赤ちゃんが、ワンワンを目にして泣いてしまうことも、日常茶飯事。「あー、泣いちゃった、ごめんね〜」と接し方は慣れたもので、赤ちゃんが大泣きして困っているママにも「大丈夫、大丈夫。自分のウチだと思ってよ〜」とフォローする、ジェントル“ワン”だ。

■赤ちゃんが喜んでくれることを常に考え続けている

ワンワンへの分岐点は、大学時代教員試験に落ちて演劇の世界に飛び込んだことだ。文学座研究所と青年座研究所で演劇を学び、卒業後は仲間たちと劇団を立ち上げた。

「大学時代は国語教員になりたかったんですが“なんとなく”というレベルですよ。教員試験に落ちたらすぐに諦めることができたくらい。いや、逆に、ボクみたいな自己中心的で無責任な人間が教師になったら、今頃とんでもないことをしているはずなので、落ちてよかったんでしょうね(笑)。でも、劇団だけじゃ食べていけなくて、アルバイトをしながら生活をしていました」

たまたまNHKの教育番組『たんけんぼくのまち』に出演する機会に恵まれたのは’84年。丸メガネ姿のチョーさんが、働く人や地域社会を調べていくという、小学3年生向けの社会科の教育番組だ。この時のチョーさんは犬が苦手という設定だった。

その後、前の事務所のマネージャーから『新しい赤ちゃん番組のパイロット版にでない?』との誘いを受け、それがワンワンのはじまりとなった。

それからあっという間の25年。ワンワンのやりがいはずっと変わらず“赤ちゃんの笑顔を見ること”だ。

ワンワンの姿を見て、赤ちゃんがニコッと笑って触ろうとしてくるだけで、もうほんとに幸せ! (チョーさんの姿で)街中を歩いていても、ワンワンの歌を歌ったり、人形を持っている子がいると、思わず『ありがとうね』と言いたくなります。絶対にしませんけどね(笑)」

実際にチョーさん自身が常に“どうすれば赤ちゃんに楽しんでもらえるのか”を考え、アイデアを出し続けている。『スーパーワンのうた』や、ハンドパペット『パクパクさん・パクこさん』はチョーさんの提案をもとに生まれた企画だ。

さらに、ワンワンが見守るのは赤ちゃんだけではない。25年間にわたり、お父さんやお母さんと接するなかで、その変化をも感じてきたという。

「子供に対する愛情は、今も25年前も全く変わりませんね。ただ、最近は親同士のつながりのようなものが少し弱くなったような気がします。たとえば、イベントで赤ちゃんが泣きだしてしまった時『いいよいいよ~』っていう空気になるのに、昔より時間がかかる。いろんな意味で“ゆるかった”昔に比べ、他人に頼りづらくなっているのかもしれません」

■番組を見ていた子供たちは、ワンワンのことを忘れて当然

今後もまだまだワンワンを続けたいから、体のメンテナンスは怠らない。

「本番後に鍼治療をしたり、毎日5キロから10キロのジョギングをしたりしています。あと、ボクは甘党で和菓子が大好きなんです。『いやいや』と遠慮しながらも、ついつい食べてしまうからか、健康診断のたびに血糖値が高くて『糖尿病予備軍』と診断されていたんです。それでボクの健康面をサポートしてくれるチョー子さん(妻)から、テニスプレーヤージョコビッチ選手が実践しているというグルテンフリーダイエットを勧められたんです。この効果がすごくて、節制してもなかなか下がらなかった血糖値が、初めて下がったんです!」

そして、精神的なサポートをしてくれるのは、犬ーー、ではなく猫だという。

「前に住んでいた家のベランダに遊びに来ていた猫(どんちゃん)がいて、ずっと食べ物をあげていたんです。それで4年くらい前に引っ越しをするとき、チョー子さんと『このままボクらがいなくなったら、猫はどうなるんだろう』と心配になって、町内会の地域猫係さんに相談して飼うことにしました」

当初迎えるのはどんちゃん1匹の予定だったが、恋人(おおちゃん)もついてきてしまい、結果2匹を飼い始めたチョーさん。おおちゃんもどんちゃんも警戒心が強くて、なかなか懐いてくれなかったが、2匹が仲睦まじく過ごす姿は微笑ましかった。

おおちゃんは、’19年の春に天国へ。家族を失うのはとてもつらかったという。けれど、今年に入って、おおちゃん以外にこころを許さなかったどんちゃんに変化が。

「出会ってから10年経ち、おおちゃん以外にこころを許さなかったどんちゃんが、今年5月にようやく触らせてくれるようになったんです。全面的に信頼してくれる姿を見ると、癒されますね」

妻と猫に支えられ、走り続けた25年。番組当初のファンは、みんな大人になっている。

「先日、ある高校で「ワンワン25」の収録をしたとき、学生さんたちから、すごい声援を受けたんです。ちょっと手を振っただけで『わー』『きゃー』って(笑)。

幼い頃に見る番組だから、ふつうワンワンのことはみんな忘れてしまう。でも、その子たちの記憶の底には刻まれていて、姿を見たら思い出してくれた。そうやって、子供たちが親になって自分の子と再び番組を見るときに、またワンワンを思い出してくれたら、そんな嬉しいことはありません。

そろそろ、放送当初に番組を見ていた赤ちゃんが親になり、その子供たちが見るようになってくるころ。そしてその子供のおじいちゃんおばあちゃんは、かつて自分の子供と一緒に『いないいないばあっ!』を見ていたはず。つまり、3世代で見てくれる人が現れ始めるんです。とってもうれしい。今後もずっとワンワンを続けていきたいですね」

最後に、ワンワンから全・元赤ちゃんにメッセージ。

「みんなは成長と共に変わっていくけれど、ワンワンはず~っと変わらずワンワン。みんなが帰ってくるのを待っているからね!」