12月4日から約2週間、メタバース上で開催されていたバーチャルイベント『バーチャルマーケット2021』が閉幕した。本イベントには80社以上の企業やIP、アーティストが協賛として出展したほか、約600ブースの一般出展者が参加しており、メタバース上で行われたバーチャルイベントとしては非常に大規模な部類に入る。 本稿では同イベントを振り返りながら、メタバースの未来について考えていきたい。
【画像】多数の企業が参加したメタバース上での展示会『バーチャルマーケット』

・100万人以上の来場者数を記録したメタバース上の大規模イベント

 『バーチャルマーケット』とは。HIKKYがメタバース上で開催しているVRイベントだ。HIKKYはVR/AR領域での大型イベントの企画・制作・宣伝、パートナー企業との新規事業開発を主業務とするVR法人で、2018年に第一回となる『バーチャルマーケット』を立ち上げた。今回が7回目の開催となる。来場者数は100万人を超え、2021年には「バーチャルリアリティマーケットイベントにおけるブースの最多数」としてギネス世界記録(TM)に認定された。

 バーチャルマーケットは、協賛出展者や一般出展者がブースを出展し、メタバース上で様々な展示をしたり、3Dモデルなどを販売するイベントだ。展示即売会をイメージしていただければわかりやすいと思う。現実世界の展示即売会と異なり、現時点ではその場ですぐに商品を買うことはできず、購入するためのウェブページへのリンクが用意されている。

 だが、見るだけにはとどまらず、販売されているアバターの試着ができたり、ブースに設置されている様々なオブジェクトに触れて遊ぶことができるなど、インタラクティブな楽しみ方ができるのが特徴だ。

 『バーチャルマーケット』にはすべてのコンテンツを楽しめるPC版「VRChat」での参加に加え、入れる空間が一部に限られるがVRデバイスのOculus Questで入れるQuest版「VRChat」、そして一部協賛ブースのみの対応になるHIKKYが開発したスマホやPCのブラウザ上で動作する「Vket Cloud」など、複数のアプリケーション・サービスによって参加できた。

 今回、筆者はPC版「VRChat」で本イベントに参加したので、その前提で話を進めさせていただきたい。

・業界や業種を問わず様々な協賛出展者が集まる

 協賛出展者は非常にバラエティに富んでいた。マーベラスバンダイナムコエンターテインメントアークシステムワークスなどといったメタバースと親和性が高そうなゲーム会社はもちろん、テレビ朝日や大丸松坂屋百貨店SMBC日興証券など、一見バーチャルやメタバースから遠いように感じる企業も出展していた。

 これらの出展企業は企業ワールドというワールドに出展していた。今回は「パラリアル秋葉原」と「パラリアル渋谷」という2つのワールドがあり、それぞれのワールドにブースを構えていた。それぞれ名のとおり現実世界の秋葉原と渋谷を模したワールドになっている。

 協賛企業のブースはどれもかなり力が入ったものになっていた。来場者がポスターや動画を見るような受動的なコンテンツだけでなく、バーチャル上で触れてミニゲームを楽しんだり、アバター着替えたり、写真撮影などを行なうような能動的なコンテンツを多数見ることができた。もちろんキャンペーンなども行われており、そこへの導線も用意してある出展者が多かった。

 1番筆者の印象に残ったのは証券会社のSMBC日興証券だ。「株価連動ジェットコースター」と題し、リーマンショックアベノミクスで大きく上下した日経平均株価ジェットコースターのコースにしたアトラクションが設置されていた。実際に体験したが、アトラクションとしての出来も良く、様々な出来事で株価が上下したことが体感とて伝わるユニークな体験だった。

 またアークシステムワークスのブースでは、同社が発売中の格闘ゲームGUILTY GEAR -STRIVE-』に登場する人気キャラクターのバーチャル衣装が販売されるなど、同作のファンには嬉しい出展をしていた。

 これらはあくまでも一例で、出展者ごとにカラーが異なる多様な展示をしていたのが印象的だ。

・企業がメタバース上のイベントに出展するメリットとは

 さて、それでは企業がメタバース上のイベントに出展する狙いはどこにあるのだろうか。もちろんその場で商品を購入してもらえることもメリットの1つだが、それは副次的な狙いだろう。

 ひとがバーチャルマーケットというメタバース上のイベントに協賛することの話題性だ。メタバース上で開催される大規模イベントというのは国内外を見ても珍しく目新しいものだ。そんなイベントに協賛出展すると、“先進的でユニークなことをしている”という印象を消費者に与えることができるだろう。またその話題性から各種メディアなどで取り上げられたり、SNSなどでの情報拡散も期待できる。

 個人的に最も大きいと考えるのが、メタバース上だからできる”体験”だ。メタバース上の空間は現実世界の物理法則に引っ張られることがない。端末の性能上の制限やブースの広さとの兼ね合いから、完全に自由に好き勝手な展示をすることはできないが、重力を無視した巨大なオブジェクトを配置することもできるし、家具のような現実世界では重い物も片手で掴んで好きなように配置することもできる。そういった特徴から生まれる“ユーザーの体験”は非常にユニークで、企業にとってもそれを提供できることは大きなメリットだと言えるだろう。

 筆者はメタバースで鍵になるのは“体験”だと考える。メタバースという仮想空間の中に入り、そこで様々な体験をする。それはWebサイトを見る、YouTubeなどで動画を見るという受動的なアクションではなく、もうひとりの自分自身がいるもうひとつの世界で、現実ではできないような(もちろん現実でできる体験でも良いが)体験をする。

 そのユーザ体験が現実世界にも影響を与える。今回のイベントで言えばそれが企業に対する印象を良くしたり、購買意欲につながったりといった結果をもたらすだろう。

メタバースはあくまでもインフラである

 いまは「メタバース」という単語ばかりが先行していると感じている。徐々に盛り上がりを見せていた言葉だが、メタ社(旧:フェイスブック社)の社名変更で一気に話題になることが増えた。

 だが、筆者はメタバースはあくまでも土台だと考える。その土台の上にどのようなコンテンツを乗せて、ユーザーにどんな体験をさせるかに注目するべきだろう。

 『バーチャルマーケット』で言えば、コンテンツが出展者のブースであり、そこできる体験がいちばん大事な部分だ。

メタバースの未来はどこにあるのだろうか

 メタ社のマーク・ザッカーバーグは7月22日のThe Vergeの記事で、メタバースは「モバイルインターネットの後継者」だと述べている。この発言には筆者も同意する部分が多く、メタバースというのは特別なものではなくなると考えている。

 いまは遊んだり、誰かとコミュニケーションをとるなど、エンタメ寄りのコンテンツが多いのは事実だ。また今回のメイン会場になったアプリケーションであるPC版「VRChat」の実行にはそれなりに性能の良いデバイスが必要なため、現在のインターネットのように年齢や性別を越えて国民の多くが当たり前に使える、という状況にはなっていない。

 すでにスマートフォンでプレイできるメタバースプラットフォームも登場している。今後も技術革新が進むと、いつでもどこでもどんなデバイスでもメタバース空間に接続できる日が来るだろう。

 そうなった未来では、人々が当たり前のようにメタバースに接続し、いまネット通販で本や服を買うように、メタバース上で実際に試しながら買い物をするようになるかもしれないし、Netflixなどの動画サブスクリプションサービスがメタバース内で動画コンテンツを提供し、それをなかで誰かと一緒に見られるようになる、といったことも可能になるだろう。

 メタバースの普及にはこれまでのインターネットのような、バナー広告を見るだけ、動画広告を見るだけという受動的なアプローチではなく、インタラクティブな体験が鍵になるはずだ。

 インターネットが我々の生活に溶け込んだことによって、ライフスタイルは大きく変化した。今後はメタバースがわたしたちの生活に溶け込むことでライフスタイルが変化することになるだろう。まさにそれは次世代のインターネットといえる。(でんこ)

バーチャルマーケット2021の様子