2002年にテレビ朝日に入社したのち、2015年から初期メンバーとしてABEMAの制作局に出向。宮本博行氏は、『チャンスの時間』や『見取り図エール』など数々の人気番組でプロデューサー兼総合演出を担当している。ヒットコンテンツを生み出し続ける彼が、日々考えていることとは。注目の芸人や、絶対にチェックしているラジオ番組。そして、ABEMAにかける熱い想いを語ってくれた。

参考:お金、恋愛、酒、タバコ……すべてを「笑い」と変える、人気芸人たちの知られざる魅力

・ABEMAに必要なのは、視聴者との共犯関係

--まずは、テレビ業界を目指したきっかけを教えてください。

宮本博行(以下、宮本):小学生の時からテレビっ子だったんです。その頃から、漠然とテレビ番組を作る人になりたいと考えていました。『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)や、『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)とか、大好きでしたね。

--テレビ朝日に入社されて、初めてのお仕事となると。

宮本:最初は、深夜帯の『虎の門』(テレビ朝日系)でしたね。そのあとに、『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)を担当するようになりました。

--そのなかで、転機になった出来事というのは。

宮本:明確なポイントは難しいですが、『ロンドンハーツ』の時に、加地倫三さん(※テレビ朝日・コンテンツ編成局第一制作部 エグゼクティブプロデューサー)に教えてもらったことは、すべて勉強になりました。

--具体的に、どのようなことが?

宮本:細かい技術はもちろんですが、「出ている人全員に愛情を持って、編集やロケをしなさい」と言われたことが、印象に残っていますね。

--2015年、ABEMAの制作局に出向されてからはいかがですか?

宮本:当時は、いまほどネット上に動画コンテンツがない時代だったんですね。だから、何が正解なのかも分からない。テレビの真似事をしても、テレビには勝てないじゃないですか。だから、“新しいテレビ”としての立ち位置をどう作っていくのか。これは、いまだに模索している状態です。

--テレビとは、形態が大きく異なりますからね。

宮本:そうですね。ひとつの転機になったのが、バナナマンの『バナナTV』です。この番組に関しては、すごくミニマムに作ろうと思っていたんですよ。テロップも音楽もほとんど入れないとか。そうしたことによって、視聴者との距離が縮まった気がしています。ABEMAは、自分事に感じられるメディアにしていきたいんですよね。テレビだとどうしても、画面の向こうで起きていることを観る……という感覚になると思うんですけど。ABEMAには、中毒性のようなものが必要なんだと思います。あとは、視聴者との共犯関係。画面の奥のものが、自分の世界に入ってくるかのような感情を湧き起こさせたいです。

--テレビとの差別化をするために、決めたルールはあるのですか?

宮本:過度な演出をしすぎないとか。いかにも、テレビ的な作りにはしないと決めていました。音を入れて、テロップを入れて……とか。『チャンスの時間』(ABEMA)あたりからは、その感覚がつかめてきた気がしています。

--『チャンスの時間』、すごく面白いです!

宮本:ありがとうございます。『チャンスの時間』は、いまの時代に引っかかる部分を面白く映し出せていますよね。人の欲を刺激する企画が多いというか。欲の部分をピックアップすると、どんどん過激になってしまう懸念があるのですが、バランス感覚が優れているスタッフが多いので、いいところに着地できています。千鳥の面白さと、番組のテーマの掛け算がうまくハマっているんですよね。千鳥って、つまらないことに対して、「つまらないんじゃ!」って笑いにできる人たちなんです。

--大悟(千鳥)さんの喫煙所ドッキリ(大悟の人間性検証ドッキリ)とか、『チャンスの時間』は、人にフォーカスを当てる企画が多い気がしています。

宮本:僕、人間くさい企画が好きなんですよね(笑)。大悟さんの人間性検証ドッキリは、象徴的な企画かもしれません。YouTubeの影響もあるのかもしれませんが、地上波でも人にフォーカスを当てる番組が増えてきている気がしています。『水曜日のダウンタウン』(TBS系)や、『あちこちオードリー』(テレビ東京)など。かつてのテレビは、基本的に他人ごとで笑うのがメインでしたが、いまは自分事に感じさせる企画が増えている印象を受けます。みんな、どこかしらに自分との類似点を探したり、憧れを抱いたりしているんですかね。

かまいたちニューヨーク見取り図……それぞれの個性の見分け方

--番組を作る時に意識している宮本さんらしさというのは。

宮本:バラエティに関しては、放送初回からドーンと跳ねるのが難しかったりするんですね。なので、視聴者に「こういう番組なんですよ」と分かってもらうための入り口をはっきりさせるようにしています。実際にいまやっている3番組も、テーマが明確になっているんですよね。かまいたちの『ぜにいたち』(ABEMA)は“お金”、ニューヨークの『ニューヨーク恋愛市場』(ABEMA)は“恋愛”、見取り図の『見取り図エール』(ABEMA)は“青春”というように。

--「かまいたち×お金」「ニューヨーク×恋愛」「見取り図×青春」という組み合わせは、どのように決められたのですか?

宮本:彼らが活動している媒体を見た上で、決めました。地上波にもすごく出ている方々なので、既存のものとは被らないようにしつつ。ニューヨークに関しては、「芸能人と付き合いたい!」とか言っているじゃないですか。だから、恋愛というテーマが合うのでは? と思って。見取り図は、これから“お笑い青春”を駆け抜けていくイメージがあったんですよね。

--ニューヨークさんに関しては、『シャッフルアイランド』(ABEMA)や、『こんな美人をフルなんて』(ABEMA)など、ABEMAの恋愛番組でもMCをされていましたよね。

宮本:そうですね。2人とも独身というのもあって、昔のロンドンブーツと近い雰囲気を感じたりするんです。スタイリッシュさもあり、ちょっぴりヤンチャな部分もあり。

--ABEMAの番組は、中堅芸人さんの活かし方も上手いイメージです。

宮本:芸人さんって、色々なタイプの方がいらっしゃると思うんですよね。40代になって味がでて、時代にマッチする人もいる。それこそ錦鯉なんて、50代で『M-1グランプリ2021』(テレビ朝日系)優勝していますし。20代の芸人が同じネタをやって、面白いか? と問われると、分からないですよね。年齢問わず、これから面白くなりそうな人材は常に探しています。錦鯉も、早い段階で『チャンスの時間』に出演してもらっていましたし、ぺこぱとかも出ていたので。新しい人材の発掘というのは、ひとつのテーマでもありますね。

--そういった人材は、どういう部分で見極めているのでしょうか。

宮本:ネタが面白いというのはありつつ、人としての面白さを感じる瞬間がある方。しっかり作り上げたものが面白いと感じる人もいるのでしょうが、やはり、いまの時代は人としての面白さが大事かな。それは別に、破天荒な人生を歩んできた……というわけではなく。普通に学校を卒業して、お笑いが好きで芸人を目指した人でも、人としての面白さはどこかにあると思うので。

--いま、宮本さんが注目している芸人さんはいらっしゃいますか?

宮本:もう世に出てしまいましたが、空気階段とは何かやってみたいなと思っていますね。ラジオとかも、人間臭さがあってすごく面白いので。

--ラジオもよく聴かれるのですか?

宮本:兄の影響で、小学校の時からラジオが好きだったんですよね。ハガキもたまに送ってたりして。よく、『Come on FUNKY Lips!』(文化放送)聴いてたなぁ。最近のだと、『バナナマンのバナナムーンGOLD』(TBSラジオ)、『オードリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)、『空気階段の踊り場』(TBSラジオ)、『おぎやはぎのメガネびいき』(TBSラジオ)、『有吉弘行SUNDAY NIGHT DREAMER』(JFN系)の5本は絶対に聴いていますね。

--そのほかに、いち視聴者として面白いと感じるメディアはありますか?

宮本:テレビ、ラジオ、ABEMA以外の動画配信サービス……基本的になんでも観ますね。バラエティ番組が多いですけど。観る側からすれば、選択肢が増えててありがたい時代になりました。作り手としては、話題が分散してしまうので苦しいところではありますが……。そう言えば最近、YouTubeで外国の方が日本食を食べているのを観るのが好きなんですよね。

--それは、どこに面白さを……?

宮本:多分、『バナナTV』で海外に行ったりしていたのもあって、海外に興味があったんでしょうね(笑)。ガハハと笑うわけではなく、「上手に食べるな~」と思いながら観るのが楽しいんです。あとは……相変わらずバナナマンは好きですね。彼らが出ているものは、だいたい観ています。

--ほかの媒体を観ている時に、職業病が出たりすることも?

宮本:ありますね。「その手があったか!」と思ったり。最近では、『水曜日のダウンタウン』を観て思いました。あの企画は、ネットでやってても観てしまうだろうし。バランスがいい番組なんですよね。

--では、最後に。2022年以降の構想を教えてください。

宮本:バナナマンと一緒に、面白いものを作ってみたい。これは、常に思っていますね。もう3年くらい前になりますが、『設楽統の妄想ドキュメンタリー』はやっていて楽しかった。いま考えると反省点もありますけど、もう1回やりたいと思っています。あとは、空気階段のように勢いのある若手が活きる番組を作れたら。そして、自分のなかでバラエティの正解を出したい。「これだ!」と思える作品を作りたいです。配信で当たっているバラエティって少ないと思うので。そういった番組を作っていけたら。YouTubeでもない、テレビでもない、ABEMAならではの“何か”が見つかるといいなと思っています。(取材=中村拓海/構成=菜本かな)

宮本博行氏(撮影=はぎひさこ)