人間の負の感情から生まれた呪いが、人々に禍をもたらし、時に死へと導く。そんな不条理な世の中で、多くの人々を救うため、自らの信念と命を懸けて戦いに挑む呪術師たちの姿を描く「呪術廻戦」。「週刊少年ジャンプ」にて連載中の芥見下々による原作コミックとテレビアニメが大ヒットし、初の映画化となる『劇場版 呪術廻戦 0』(公開中)も大きな話題を集めるなど、“呪術”人気の勢いはとどまることがない。

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幼少期に結婚の約束を交わした幼なじみ、祈本里香を交通事故により目の前で失った乙骨憂太。“呪い”と化した里香に憑かれた彼は、彼女の強大な力が自身の周囲に危害を加えてしまうため、人との関わりを避けて生きてきた。里香の呪いに苦しみ、自身の死を望んでいたそんな乙骨の前にある日、呪術高専の教師である五条悟が現れ、彼を呪術高専に編入させる。乙骨は呪いについて学ぶことで、里香の呪いを“解く”ことを心に決める。

週刊連載が開始する前に全4回で短期集中連載された「呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校」を原作とする『劇場版 呪術廻戦 0』。テレビアニメの主人公である虎杖悠仁の先輩にあたる乙骨たちが1年生の時の話を描くストーリーで、そのタイトルの通り、「呪術廻戦」のエピソード0と言える。ゆえに劇場版から観ても十分楽しめるのだが、オンエア時には書店から単行本が消えるほどの人気を博したテレビアニメもやはり見逃せない。

そこで本コラムでは、2020年10月から2021年3月までに放送されたテレビアニメから、名シーンの数々をピックアップ。世代も性別も超えて、ファンの心をわしづかみにする「呪術廻戦」の魅力を紹介したい!

■「オマエは強いから人を助けろ」「大勢に囲まれて死ね」(虎杖の祖父)

第1話で主人公、虎杖悠仁の祖父は、亡くなる直前に「オマエは強いから人を助けろ。手の届く範囲でいい。救えるやつは救っとけ。迷ってもいい。感謝されなくても気にするな。とにかく1人でも多く助けてやれ。オマエは大勢に囲まれて死ね」という言葉を遺す。「大勢に囲まれて死ね」とは、「人生のなかでたくさんの仲間を作れ」ということにほかならない。それまでごく普通の高校生だった虎杖の胸には、祖父の遺言が深く刻まれ、その後の彼の生きる指針となる。

呪霊に襲われた際、呪術高専1年の伏黒恵に逃げるよう言われた虎杖が「こっちはこっちでめんどくせえ呪いがかかってるんだわ」と返したように、高校生が自分の死に様を決めてしまうほどの強さを持った祖父の言葉は、回想シーンで何度も繰り返し登場する。その力は、ただの遺言というより、確かにもはや一種の呪いと言えるかもしれない。

祖父が「最期に言っておきたいことがある。おまえの両親のことだが…」と言いかけた時、虎杖が「興味ねえって」と、話を遮ってしまうシーンも印象的だ。両親のこともほとんど覚えていないという虎杖は、登場人物の誰よりも出生が謎めいている。彼の並みはずれた身体能力はどこから来ているのか?はたして祖父はいったいなにを話そうとしたのだろうか?

■「自分が死ぬ時のことはわからんけど、生き様で後悔はしたくない!」(虎杖悠仁)

最強の呪術師である五条悟に導かれ、東京都立呪術高等専門学校へやってきた虎杖。第2話では、編入するにあたって、学長である夜蛾正道の面談を受けることになる。だが、夜蛾に「呪術高専になにしに来た?」と尋ねられた虎杖が、「そういう遺言なんでね。俺はとにかく人を助けたい」とあっさり答えたところ、「不合格だ!」と言われてしまう。「君は自分が呪いに殺された時も、そうやって祖父のせいにするのか?呪術師に悔いのない死などない。いまのままだと大好きな祖父を呪うことになるかもしれんぞ」という夜蛾の言葉にハッとした悠仁は、真剣に自分の頭で考え、「自分が死ぬ時のことはわからんけど、生き様で後悔はしたくない」という答えを導きだす。この言葉が合格の決め手となる。

自分の行動を他人のせいにしない、という大切なことに気づいた虎杖。呪術師になるという選択は、祖父の遺言だけでなく、自分の意思によるものだとはっきり認識する瞬間だ。

■「若人から青春を取り上げるなんて、許されていないんだよ。何人たりともね」(五条悟)

第6話では、死んだはずの虎杖が、両面宿儺との契約によって生き返る。呪術界の上層部が虎杖の命をねらっていると感じた五条は、虎杖蘇生の事実を伏せたまま、彼を呪術師として鍛え上げることにする。呪術高専の医師、家入硝子に「じゃあ、虎杖がっつり匿う感じ?」と聞かれた五条は「いや、(京都姉妹校)交流会までには復学させる」と返答。その理由が「若人から青春を取り上げるなんて、許されていないんだよ。何人たりともね」というものだ。ちょうどオンエア時は、コロナ禍で行動が規制されていた状況下、学生たちの胸にリアルに響いたセリフでもあった。

性格的に教師には向いていないことを重々自覚しながらも、五条が呪術高専で教鞭をとっているのは、旧体制の腐った呪術界を根本から変えるべく、強く聡い仲間を育てるという夢のため。時にはスパルタでハードな任務を生徒に投げることもあるが、心の奥底では、いましかない彼らの青春時代を大切にしたいと思う五条の優しさが表れている。

実は劇場版でも、五条がまったく同じセリフを言うシーンがある。2度となると、セリフの持つ意味にも重みが出てくるわけだが、呪術高専の生徒たちといえば、青春どころか、日々命も失いかねない壮絶な戦いに身を投じているのが現状だ。五条が守りたかった彼らの青春が戻ってくる日は、いつ訪れるのだろうか。

■「私は大人で、君は子ども。私には君を自分より優先する義務があります」(七海建人)

五条が「信用できる後輩」と呼ぶ、1級呪術師の七海建人が登場する第9話。殺人事件現場の映画館に乗り込んだ虎杖と七海は、2体の敵に遭遇する。七海は呪術高専卒業後、一度、会社員をやっていただけあって、クセの強いキャラクターぞろいの呪術師のなかでは、まっとうな感覚の持ち主。「勝てないと判断したら、呼んでください」と七海に言われた虎杖が、「ちょっとナメすぎじゃない?俺のこと」と文句を垂れると、「ナメる、ナメないの話ではありません。私は大人で君は子ども、私には君を自分より優先する義務があります」と言う。

一見、不愛想だが、本当はとても情が深く、いざという時には必ず身を挺して守ってくれそうな安心感がある七海。大人の自分が、子どもである学生たちを守るという彼のスタンスは終始一貫しており、第11話で七海が「この仕事をしている限り、君もいつか人を殺さなければいけない時が来る。でも、それはいまではない。理解してください。子どもであるということは、決して罪ではない」と虎杖を諭すシーンも印象深い。

子どもである相手が自分より強いかどうかは関係ない。ガキ扱いするというのとも違う。純粋に大人が正しく子どもを守ろうとする姿が随所に描かれているのは、本作の魅力の一つだ。七海のことを「大人オブ大人」としてリスペクトする補助監督の伊地知潔高もまた、第12話で「私たちの仕事は人助けです。その中にはまだ君たち学生も含まれます」と虎杖に言うシーンがあるなど、その精神は他キャラクターにも受け継がれている。

■「私は綺麗にオシャレしてる私が大好きだ!!強くあろうとする私が大好きだ!!」(釘崎野薔薇)

第17話の京都姉妹校交流会で、東京校1年の釘崎野薔薇と京都校3年の西宮桃が対峙した時のやりとりは、大人の女性ファンにも強く支持された名シーン。「顔の傷も男なら勲章、女なら欠点だもんね。女はね、実力があっても、カワいくなければナメられる。当然、カワいくても、実力がなければナメられる。分かる?女の呪術師が求められるのは“実力”じゃないの。“完璧”なの」と、女性呪術師として生きる苦労を語る西宮に対し、釘崎は「“完璧”も“理不尽”も応える義務がどこにある?テメェの人生は仕事かよ」「男がどうとか、女がどうとか、知ったこっちゃねーんだよ!!テメェらだけで勝手にやってろ!!私は綺麗にオシャレしてる私が大好きだ!!強くあろうとする私が大好きだ!!私は『釘崎野薔薇』なんだよ!!」とバッサリ切り捨てる。

「ガラスの天井」という言葉があるように、日本の組織で働く女性が痛感する実態を言い表すかのような西宮のセリフ。そして、多くの女子がシンパシーを抱くこのセリフに、真っ向から立ち向かう釘崎のかっこよさ。当たり前のように空気を読み、周囲に合わせることを求められるいまの世の中において、“自分”というブレない軸を持つ釘崎の姿は清々しく、見ているだけで励まされる。

思い返せば、第3話、呪術高専に来た理由を虎杖に尋ねられたシーンで、釘崎は「田舎が嫌で東京に住みたかったから」と答えている。そんな理由でも命を懸けられるのは、「私が私であるためだもの」というセリフも彼女らしくて、かっこいい。言い訳をせず、自分がやりたいことを軸にして生きる魅力的な女性キャラクターたちが登場することも本作の特徴の一つだ。

■最強の呪術師、五条悟の領域展開「無量空処」

テレビアニメシリーズで最もインパクトのあったシーンの一つが、第7話で、特級呪霊の漏瑚と対決する五条が初めてアイマスクをはずし、領域展開「無量空処」を繰りだす場面だ。この少し前、五条と虎杖は、すでに漏瑚の領域展開「蓋棺鉄囲山」に取り込まれている。ふつうの術師なら、漏瑚の領域展開に入った時点で焼き切れてしまうところだが、五条はいたって冷静。「領域に対する最も有効な手段。こっちも領域を展開する。同時に領域が展開された時、より洗練された術がその場を制するんだ」と虎杖に解説しつつ、圧倒的なパワーで漏瑚を無下限の内側へと引き込む。

無限の情報を流し込まれ、“知覚”や“伝達”といった、あらゆる生命活動に対し、無限回の作業を強制された漏瑚の不可思議な感覚を、鮮やかに表現したビジュアルは圧巻!五条の最強ぶりに加え、初めて明かされた彼の素顔はファンを熱狂させた。

東堂葵の脳内にあふれだした“存在しない記憶

第15話、京都姉妹校交流会での対戦中、京都校3年の1級呪術師、東堂葵に「どんな女がタイプだ?」と聞かれた虎杖は、少々戸惑いつつも「ケツとタッパのでかい女の子かなぁ…ジェニファー・ローレンスとか」と答える。自分とまったく同じ好みだとわかった瞬間、東堂の脳内に“虎杖と過ごした中学時代”という、あるはずのない記憶が流れ始める。

当初はただ虎杖を倒し、すぐに立ち去ろうとしていた東堂は、このシーンを境に、虎杖のことを自分の大切な親友だと認識。彼をより強い呪術師にするために、接近戦闘や呪力の流し方を懇切丁寧に指導していく。実際、東堂のおかげで、虎杖のレベルは短時間のうちに格段に上がり、第19話では、特級呪霊の花御を相手に“黒閃”をキメるまでの術師へと成長するのだ。ギャグ色の強い東堂の妄想は、結果的に虎杖の今後にとって重要なシーンとなった。

■姉妹校交流会2日目の野球戦

緊張感に満ちたエピソードが多い本作のなかではめずらしく、ほのぼのとした気持ちにさせてくれた第21話の野球戦シーンの楽しさも忘れられない。いったん中止になりかけた姉妹校交流会だが、五条は勝負の決着を“野球”で決めることにさりげなく誘導。こんなところにも、できる限り学生たちにいましかない青春を送らせたいという五条の想いが感じられる。

キャラクターがバッターボックスに立つ時に表示される、名前とポジション、一言情報の選手紹介テロップは、原作者の芥見下々によるアニメオリジナル。キャラの性格とポジションが絶妙にマッチしているのがさすがだ。初日の交流戦だけではわからなかった、京都校メンバーの人柄も垣間見れてうれしくなる。本当はいたって普通の高校生である彼らの学生らしい日常風景の明るさと、明日からまた命懸けの戦いが待ち受ける残酷な現実とのギャップ。今後の彼らの無事を祈らずにはいられない、愛すべきシーンである。

伏線が非常に多く、見るたびに新しい発見があり、ストーリーが進むにつれて、深さがどんどん増していく『呪術廻戦』の世界観。息をのむ迫力のアクションシーンが満載で、人生哲学に通じるような名言もたくさん。本編と地続きになっている『劇場版 呪術廻戦 0』でも、これまでのアニメを上回る名シーンを見つけてほしい!

文/石塚圭子

普段は目を覆っている五条の素顔が初めて公開された/[c]芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会