電力不足にあえぐ欧州。それは、グリーンエネルギー政策を強行に推し進めたEU(欧州連合)の、化けの皮をはがす事態に発展している。ロシアから天然ガスの供給を一部止められ、EUは苦し紛れに「原子力はグリーンエナジー」とのたまう状況、日本のエネルギー政策に未来はあるのか。投資家として、また、実家で産業廃棄物業も営みつつ、リサイクルや太陽光パネルなどグリーンエナジーにも投資してきた山本一郎氏が、年の初めに世界のエネルギー政策の今後を占う。

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山本一郎:投資家、作家、次世代基盤政策研究所理事)

*この記事は、2022年1月2日公開の「やまもといちろうチャンネル」の動画「新年のご挨拶と、ヨーロッパの『お寒い』エネルギー政策について。」(https://www.youtube.com/watch?v=qkpg1g6VZXw)を書き起こし、一部要約したものです。話が重複したり、大事なことに抜けがあったりしても泣かない。

 心も体も寒い今日この頃、年始早々、「お寒い」と感じるのはEUのエネルギー政策です。

 われわれ投資家の間でも、エネルギー投資に関しては、今流行のSDGs持続可能な開発計画)の名の下に、「環境対策をしっかりやっているESG(環境・社会・ガバナンスの3要素を重視した投資)の銘柄を選んでグリーンエコノミーしていきましょう」というコンセンサスができていたと思うんですよね。

 私も仕事柄、率先してグリーンエナジーの銘柄を購入していますが、ESG投資といっても、標榜している会社が必ずしも内実を伴っているわけではないんですよね。

 エネルギーをざっくり分けると、環境にやさしいと言われるグリーンエナジー(太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスなどから作られるエネルギー)、化石燃料ベースだけど二酸化炭素の回収や貯留などを活用したブルーエナジー二酸化炭素を吐き出すだけの化石燃料の3つがあります。

 日本でも、わざわざ岸田文雄さんが総理大臣になった頃に、「化石賞」などという古いエネルギーにしがみついている国や社会を馬鹿にするプライズを贈られていました。実際には中国やカザフスタン、中東でもどんどん石炭を燃やして電気を作っているのに、そういう国には揶揄する賞を贈らないのを見ると、きっとキッシーや日本人なら嫌がらせしても文句は言わないだろうという謎の安心感があるからなんじゃないかとすら思います。中国に変な賞を贈ると、報道官が顔真っ赤にして悪口言ってくるからね。

 このうち化石燃料は石炭、石油やナフサ、重油軽油の類(原油から派生する素材)や、液化天然ガス(LNG)などを意味します。これらを燃やせば、確かにエネルギーにはなるけど、ガッツリ二酸化炭素が増えちゃうっていうのはご承知の通り。

 懐疑論もまだ根強いですが、二酸化炭素を減らしていかなければ、温暖化ガスの効果もあって気候変動に相当悪い影響を及ぼすのは恐らく間違いありません。ただ、そうも言っていられないということで、海抜1~2メートルくらいの浅い島々が水没しちゃうとか、オランダみたいに埋め立て地で暮らしている人が住めなくなっちゃうとか、そういう地域の人たちのことを考えて「化石燃料はあんまり使うなよ」といっている最中・・・。

 ロシアウクライナに、ジリジリと軍を寄せたわけですよ。

 ここで問題になるのが、ロシアから欧州各国へLNG(液化天然ガス)を供給しているパイプライン「ノルドストリーム2」です。

風力発電プロジェクトでスウィープした三菱商事グループ

 欧州はグリーンを推し進める一方、現実には、ロシアからのパイプラインが送り込んでくれる天然ガスによる火力発電所の恩恵を一番享受しています。

 その中で、ロシアに「お前ら、口ではグリーンとか言っているけど、ウチの天然ガスなしじゃ生きていけないじゃん」みたいに言われ、それで「パイプラインの供給を止めちゃうぞ」と、実際にロシアが供給を一部止めてしまいました。結果、この年末にLNG(液化天然ガス)ほかエネルギー価格がロンドンほか欧州各地で急上昇して、大騒ぎになったのがついこの間のことです。

 原子力をグリーンエナジーとみなすかどうかはEUでも議論が分かれているところではありますが、エネルギー不足とグリーンとの板挟みになったEUの偉い人も、「原子力発電所で作った原子力エネルギーもグリーンだよね」って言い出しています。意味が分かりません。ドイツの「緑の党」とか、今度は「いや、原発はグリーンじゃないけど、天然ガスはグリーンでいいじゃん」などと言い始め、ニュースに接したすべての有識者が驚いて椅子から落ちるようなことになっています。

 理想を掲げるのは構わないし、行動に移すのはまあ許すとしても、状況が悪くなったら根本のところからひっくり返すようなご都合主義もいい加減にしろと思うわけですね。

【関連記事】
ドイツ、原発の「グリーン分類」拒否 天然ガスは受け入れ(https://reut.rs/3sVqloe)

 イギリスイギリスで、労働党党首キア・スターマー卿という野党のおっさんが出てきて、先日の「COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)」で首相のボリス・ジョンソンさんが喧伝していた「脱炭素に190カ国・地域が脱石炭に合意した」と言ってるが、実際には46カ国しか合意しておらず、しかもそのうち23カ国は石炭を消費している国じゃねえじゃんとイギリス議会で事実関係を並べて論戦していました。

 お前らの信じている世界的潮流であるSDGsの足元なんて、所詮はこの程度のものです。

【関連記事】
◎【COP26】 新しい気候合意は「石炭火力発電の最期」を告げる、ジョンソン英首相(https://www.bbc.com/japanese/59272083

 英語の分かる人はこの辺の論戦を見ると面白いんじゃないかと思います。

【関連記事】
https://twitter.com/AdamJSchwarz/status/1460288680153829383

 さすがに日本から見ると、「あれ、原子力って持続可能なエネルギーなの? 脱原発とかって言ってませんでしたっけ、あなた方は」と思いますよね。EUのご都合主義的な環境政策は、いい加減にしやがれよと思うところがあります。

 それもそのはず、日本では確かに脱原発は非常に重要なテーマとなっていますが、世界では原子力発電所の稼働を止めるところもありつつ、逆に新設する効率のいい原子力発電所と地域のインフラ開発をセットで展開する動きが盛んになっています。

 ヨーロッパでは15基の原発が建設中、37基が建設計画中。そればかりか、アジア諸国ではインフラ開発の中核がそもそも原子力発電所になっている場合もあり、33基が建設中、56基が具体的に建設計画の承認が下りているという状態です。日本みたいに福島第一原発事故の処理済ALPS水を海洋放出するのに野党が反対している間に、いろんな動きが起きてしまっている、というのが現状です。

【関連記事】
Asia's going nuclear
https://www.statista.com/chart/26439/number-of-nuclear-reactors-currently-in-construction-or-in-preliminary-construction-stages/

 もちろん、原子力発電に関しては核廃棄物の処理の問題はつきまとう上に、トイレなきマンション論はありますので、中長期的には撤廃するよ、原子力に頼らない電力構成にしようよ、という議論はあってもおかしくはありません。ただ、理想論でもある「脱原発」に「脱化石燃料」のセットで気象変動対策をやり、二酸化炭素を減らし、ゼロカーボン・ゼロエミッションでSDGsだよと言われても、お前この冬の電力消費どうするんだよという問題が現実にあることには変わりはないのです。

 また、日本の再生可能エネルギーの状況はどうなっているのかと言いますと、ちょうど年末にビックリするニュースがありました。

 日本政府は海の上で洋上風力発電を開発しようとしていて、その場所が秋田と千葉なんです。秋田県由利本荘市沖は日本でも唯一と言っていいほど風力発電に使えるまともな風が吹くところです。同じ秋田・男鹿半島の北にある能代市と三種町の沖合、千葉県の銚子沖も有望な場所です。

 この3カ所の洋上風力発電の事業者として、政府公募で選ばれた企業が12月末に発表されました。ここで、他社を圧倒して全勝ちしたのが、三菱商事グループと中部電力グループのシーテックさん(再生可能エネルギー開発に取り組む中部電力のグループ会社)のコンソーシアム(企業連合)です。

 なんで圧勝なのかといいますと、落札した電力価格が由利本荘市でキロワット時(kWh)あたり11.99円と、ほかのエネルギー系ベンチャーが風力発電の「ふ」の字も言えなくなくなるような激安価格だったからです。

 エネルギー方面に詳しい人によると、どう頑張っても、採算取れるのは14.5円ぐらいまでだと言っているわけですよ。11.99円というのは、やればやるほど赤字になるんじゃないかと心配になるほど安い価格なんですね。

 すると、「このプロジェクト発注は本当に妥当だったの?」ということで、ワーワーと年末に騒いでいる時に、欧州で電力危機が発生しました。

ドイツは最悪ブラックアウトする?

 そもそも、洋上の風力でどれくらいの電力が賄えるのかというと、EUでも風力発電なんて全然足りてないんですよ。デンマーク(580万人)やノルウェー530万人)しか住んでいないところで地図をご覧いただければ分かりますが、あれだけの海岸線を持ち風がいっぱい吹いてくるノルウェー沖でも、再生エネルギーだけでは4割ほどしか世帯電力を賄えていません。

 日本で言えば、あれだけガンガン風車を頑張って回していても、今の技術では8%程度の電力しかカバーできないという可能性はあります。つまり、残りの92%くらいはグリーンエナジー以外で何とかしないとダメなんですよね。そうすると、LNGを燃やしたり、フランスのように原子力発電を活用したりしないと難しい。

 EUの電力危機は、再生エネルギーに期待は重要だけれども、そう簡単には電力構成の更新は難しいよということを示しているのです。

 ご承知の通り、フランスは欧州でも随一の原子力大国です。フランスは本土にエネルギー資源が乏しく、過去にエネルギーで苦労した経験があるので、原子力発電は国民にも支持されてきました。

 政治がすべてに優先するフランスにおいては、原子力の原料のウラン植民地カナダほかから持ってきて、フランス国内でウランを精製して、燃やして、テキトーに埋めておけば何とかなるだろうと、農地のど真ん中にボンボン原子力発電所を建ててきました。もともとフランスは、キュリー夫人から原発事故でにわかに有名になったベクレルなど優秀な核技術者を輩出してきたお国柄もあります。

 そのため、フランスでは日本のように、原子力発電所の廃棄物だ、汚染水だということがあまり騒ぎになりません。なっているところもあるけれども、文句言ってデモしているヤツはぶん殴って追い出すことでどうにかなっちゃうのが、フランスという国なんですよ。

 ところが、そのフランス新型コロナには勝てませんでした。新型コロナが思った以上に増えちゃった、それで原子力発電所の稼働計画も縮小している状況です。

 その状況の中で、ドイツが「LNGをロシアに止められちゃったからフランスさん助けてー。原子力で作った電気を融通してください」っていう話になって、フランスは「そんな電気ねえよ」って言っている状況です。

 もし電力供給できなくなったら、最悪ブラックアウト(全域停電)になりますよね。もちろんドイツ人もそんなにバカではないので、別の電源開発みたいな補充的なものをやると思うんですけれど。

結局、勝者は資源国だった?

 こういう状況を見ていると、欧州全体でグリーンエナジーを実現のために、送電網を構築し、お互いに電力供給し合っていくというのはムリな話だなと。地続きなのは電力供給のためのグリッド構築という点ではとても有利なんですけど、各国にも事情があるため、ロシアからいきなりパイプライン止められちゃうなんてことが起きると、共倒れしたくない皆さんは後ろを向いてしまう。当たり前ですね。

 そうなるとある意味、資源国の勝ちなんですよね。「なーんだ、グリーンなんてできねえじゃねえかー」と化石燃料に回帰していくので。原油価格が70ドル台に上がっているのも、その辺を見透かしているからです。

 2014年くらいから、世界的にゼロカーボンの動きと共にSDGsが支持を得るようになり、その結果「化石燃料への投資は悪だ」と、化石燃料関連の投資は下がっていました。石油会社は、炭素税やノンカーボン、ゼロエミッション(環境汚染排出ゼロ)など、どんどんグリーンエナジーのほうに業態転換をしようと頑張っていました。

 もう化石燃料は使わなくなるだろうと、グリーンへの先行投資に力を入れて、化石燃料の投資はあまり増やしてやってこなかったわけです。

 ただ、石油を掘る、もしくはLNGをパイプラインで引くというのは、けっこうな設備投資が必要なんで、今さら「化石燃料でアクセル吹かそう」って話になっても大変です。だから原油価格も上がっちゃう。

 エネルギー全体で見ると、我々のように相場を見ている人間は、「そう簡単にはグリーンエナジーに転換できねーだろ」と思っていたんですが、案の定そうなっているのは、ある程度当然のことだと思うんですよね。

 2021年秋に菅義偉前首相が「オレは総理大臣を下りる」ってなった時、再生エネルギー積極推進派と言われた河野太郎さんが出るかと思いきや、総裁選で負けちゃいました。記者会見でセクシーとか言っていた小泉進次郎さんも、国民から馬鹿判定をされて静かになってしまいました。実は、これで「日本はグリーンエナジーへ舵を切る」など余計なことを言わなくて済んだという幸運な側面があります。

 さらに、先にも述べましたように衆議院解散総選挙後の11月26日にCOP26なる環境関連の大きな国際会議がありましたけれど、岸田文雄新首相は衆院選にかかりっきりで、その会議をブッチしました。このタイミングでも、世界に向けて「日本も脱炭素や!」みたいな大見栄切らずに済みました。

 これは日本にとっては非常に僥倖(ぎょうこう)だったと言えるのではないでしょうか。

 ただ、為替が114円、116円とジリジリと円安になって、原油の価格が70ドル後半から80〜90ドルになってくると、これはこれでエネルギーのほぼ全量を輸入に頼る日本には不利になります。不利な環境下で日本がモノを作り、輸出していくというのは、国力からすると非常に厳しいです。

 だから、化石燃料も確保しながらグリーンも開発し、いい塩梅のエネルギー政策を組んでいかないとねというのが、一番重要なポイントだと思います。

三菱商事グループのお値打ち価格は競争力かも

 先ほど申し上げた由利本荘市や能代沖の洋上風力発電はとても重要ですが、電力としてはまだまだ全然足りていません。

 それを足りるように、採算が合うように再生エネルギーを増やしていくぞとなった時には、長崎沖とか日本海側にいっぱい風車を並べてどうにかしなきゃいけないよねということを皆さん言い始めると思います。

 その時に由利本荘市の11.99円という戦略的な価格(と言っていいのかわかりませんが)、そういう安価な価格で実現可能なら、日本のグリーンエナジーは可能性を持っていると期待していいってことです。長崎ほか、ちょっと洋上風力発電に投資をするには条件が厳しいかなと思われている地域でも、それなりの低コストで風力発電ができる可能性が出てきたという意味において。

 あと、空中の二酸化炭素キャプチャー(捕集)して地下に埋める「二酸化炭素貯留(CCS)」など新しい技術も出ているようなので、日本はそういったところで世界の脱炭素の流れにうまく乗っかっていければいいのかなと。

 それでも電力が足りないということになったら、東南アジアオセアニアなど、二酸化炭素排出の少ない国との協力関係を進めていく必要があると思います。

 そういった国々に水素やアンモニアを生成するプラントを作り、タンカーで日本に運び、これらをエネルギ―源として使うという形です。これからの再生エネルギーは、こういう形で実現していかなければならないと思います。

 ただ、そうなってくると、そういう資源を運ぶための船が足りない、もしくは日本には船を製造する設備が足りないといった問題が出てくるかもしれません。

 いずれにせよ、日本は資源がないし、電力もありません。トヨタの豊田章男さんも、「電力がないのに、本当にEVでいいのか!」とブチ切れていましたけれど、そのあたりを政策でどうやって埋めていくのかということも含め、何が理想で、理想にどう近づけていくのかという議論も踏まえて、現実を見ていく必要があるのかと思います。

 エネルギー政策を考える上で、日本は国際情勢を注視するだけでなく、SDGsも考えなきゃいけなくなったという点において、非常に地政学的だし面白いなーと思ってしまう年初めでした。

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