(沖 有人:スタイルアクト代表取締役)
マンションの管理費はここ数年、高騰している。要因は人件費の上昇が大きい。管理会社も不採算になることを避けるため、値上げ等の提案をすることも多い。それに対して、入居者で構成する理事会が管理会社の変更を検討することもある。これを通常「リプレイス」と呼ぶ。
その際に最も重要なのは、見積金額ではない。満足度上位の管理会社が支持されている理由は、もっと人間臭いところにある。
不動産調査会社のスタイルアクトは、マンションの資産性評価サイト「住まいサーフィン」の27万人の会員に、2009年から毎年「管理会社の満足度調査」を実施している。
管理会社評価ランキング調査には、管理戸数比較や財務状態比較、管理会社へのアンケート結果なども含まれているが、入居者の一人ひとりの声も反映されている。それも単にネットアンケートを取り、ランキングした調査とは一線を画したものだ。
今回で13回目となる「2021年版」は有効回答数2147と、日本最大級の管理会社満足度調査だ。
有効回答と断っているのは、回答の中に500程度の無効回答があるからだ。すなわち、今回の満足度調査はいい加減な回答者を排除した後の数字ということだ。この調査で集まった、リアルで生々しい入居者の声と満足度との関係性が分かれば、管理会社はどういう方向に努力すればいいのかを理解することができる。現に、過去13年を振り返れば、上位企業が示す最良の取り組みが業界標準へと普及していく過程だった。
この調査結果を基に、何をしたら満足度が上がるかを、われわれが管理会社に直接コンサルティングしている会社もある。そうした会社は年々評価を上げ、上位に食い込む結果を残している。このため、満足度の全体の点数は年々上がっているのが実情だ。
この数字は管理会社の努力の賜物だ。そう言える理由は、アンケートのフリーアンサー(自由コメント欄)などのエピソードなどに如実に現れる。
満足度ランキング、第1位はこの会社
入居者満足度で管理会社をランキングにすると、以下のようになる。ランキングの上位9社が全体の平均値を上回っているので、安心の1つの目安だろう。
【管理会社総合満足度ランキング】
全体総合満足度1位は、野村不動産パートナーズ(74.6ポイント)で、13年連続のトップだ。次いで、僅差で、三井不動産レジデンシャルサービス(74.0ポイント)、東京建物アメニティサポート(70.7ポイント)が続いた。
1位の野村不動産パートナーズは、対応の迅速さ、業務遂行意欲などが高く評価された。理事経験者の評価も高く、玄人受けもいい。2位の三井不動産レジデンシャルサービスは、体系的なサービスとコールセンターの評価が高く、「業界のリーディングカンパニー」と認識されている。3位の東京建物アメニティサポートは、管理人の人柄の良さと管理会社の提案力が高く評価されている。管理戸数10万戸未満では満足度1位だ。
管理会社の満足度の高さを決める3つの要因
満足度に影響を与える要因を分析すると、管理会社の知名度と愛着度、提案力が影響していることが分かる。
知名度は親会社のブランド力に対する安心感と、今回のような第三者調査結果が強く影響する。第三者調査結果は入居者に対して積極的にアピールした方がいい。入居者の満足度が相対的にどの水準にあるのかを明確にすることで、入居者も誇らしく思うものだし、管理会社側もそれに恥じないサービスを自分たちに課すようになり、一石二鳥の相乗効果がある。
愛着度は仕事をしてくれた感謝から発生することが多い。「依頼されたことを早く処置して完了報告すること」は最も重要だがそれだけにとどまらない。フリーアンサーには、以下のような心温まる管理人とのエピソードが数多く並ぶ。
■マニュアルに書いているようなことが遵守されている事例
「400世帯以上のマンションだが、こちらの名前と顔を覚えている」
「管理人は話しかけると、作業を中断し、きちんと話を聞いてくれる」
■印象に残っているエピソード
「例えば警備員さんであっても子供が生まれる日に病院にマンションのカギを忘れたときの話を覚えてくださっていたり、広い意味での家族という印象です」
「子供たちから、管理人さんへバレンタインデーのプレゼントを渡したり、そのお返しをもらったりと良好な関係です」
「子供が間違って非常ボタンを押してしまった時に、怒るよりも何もなかったことに良かったと管理人が言ってくださった。あまり子供が怒られると、萎縮してしまい、本当に大変なときに非常ボタンが押せなくなってしまうかもと心配になったので、この対応には本当に感謝した」
「脊髄の圧迫骨折で入院して退院後、マンションの車いすをしばらく使わせてもらった所、いつも目をかけて下さり、荷物を部屋まで運んで頂いたり、本当に助かりました」
■その結果として、起こることの例
「定年される管理員の方に、お世話になった感謝のかたちとして、居住者から有志でコメントの色紙とプレゼントを用意したことがある」
満足度とは期待値と納得度のかけ算
3つ目の影響要因は提案力だ。近年は費用不足で問題になりやすい大規模修繕工事の進め方についての提案、あるいは人件費高騰に際してサービスレベルの見直しによるコスパのいい提案などが功を奏する。
上記の知名度と愛着度、提案力は期待値が高くないと満足度が上がらない。これはホテルを想起すると、イメージがわきやすい。
一流ホテルに泊まる際に、気の利いたサービスをされると、「さすが、○○ホテルは違う」と納得し、満足度は上がる。それに対して、三流ホテルでぞんざいなサービスを受けると「やっぱりこんなものか」と思うものだ。
満足度とは、そもそもの委託先への期待値とその納得度の組み合わせで決まる。つまり、入居者満足度の方程式は、以下のようになる。
期待値×納得度=満足度
以前、管理業務は「事なかれ主義」の姿勢が強かった。しかし今は違う。入居者に積極的にアプローチし、気持ちよく生活するためのパートナーとしての意味合いが強い。期待値を上げ、納得度にもコミットする姿勢が上位の会社ほど見られる。
その結果は、管理会社の「リプレイス」検討の際に、最も重要な意思決定要素になる。
フリーアンサーには、以下のような事例が出てくる。
「管理組合理事長に別事業者関連の方がなられた際、管理をそのグループの管理会社に変更しようとしましたが、反対したことがあります。高くなっても今の管理会社が良いです」
「管理会社に特段落ち度がないのに、他の理事からいきなり見直し検討の提案があったことに反対。管理会社を変える前に、個別に委託事項を見直す検討に落ち着いた」
管理会社と入居者とは敵対関係でも、お金で割り切れる関係でもなく、信頼して相談できる相思相愛の関係になろうとしている。それに取り組んだ会社が、満足度を超えた幸福度を育むのだ。既に、そのレベルまで来ている。
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