人々を魅了し、心の琴線に触れるクリエイティブとは何か。

 創作活動においては、五感を刺激し感情を動かすための表現力や想像力が必要不可欠と言えるだろう。

(参考:【写真】YOSHIROTTEN、とんだ林蘭がPicsartで制作した作品

 他方で、“クリエイティブの正攻法”があるわけでもない。

 クリエイターの直感やインスピレーションこそ実は最も重要であり、創作活動の醍醐味なのではないだろうか。

 そんななか、アートや画像を簡単に制作できる写真&動画編集アプリ「Picsart」は、世界最大級のクリエイティブプラットフォームとしてクリエイターの創作活動を後押ししている。

 AIに基づいた約3,000種類以上の多彩かつ操作性に優れた編集ツールや、自由に使える背景・ステッカーなどの素材が豊富に揃っており、多様なクリエイティブや世界観の構築が可能になっている。

 また、2021年11月には新進気鋭のアーティストとして知られるYOSHIROTTEN、とんだ林蘭とのコラボレーション企画を発表した。

 今回は、Picsartを日本で展開するPicsArt Japan合同会社 日本・韓国ゼネラルマネージャーの石田直樹氏とYOSHIROTTEN、とんだ林蘭にクリエイターが活躍するために必要なマインドセットやスキルについて伺った。

<AIのテクノロジーとコンテンツを融合させたプロダクト体験>

ーーまず、Picsartのサービス概要や日本市場での取り組みについて教えてください。

石田:Picsartはサンフランシスコ発のサービスとして2011年に誕生し、現在では世界中で1億5,000万人以上のクリエイターが使うクリエイティブツールとして知られています。これまでの累計ダウンロード数は全世界で10億を突破し、世界最大のクリエイティブプラットフォームとして成長してきました。2019年8月に日本法人を設立し、現在は国内におけるローカライズやマーケティングを進めています。写真や動画、イラストの編集からコラージュエフェクトペイントなどさまざまな用途で使えるアプリですが、他のサービスと比べてユニークなのは、AIによるテクノロジーとコンテンツを融合させていること。

 Picsartは世界中に多くのユーザーを抱えているので、日々膨大な量のコンテンツやデータが集まってきます。それらを、AIの技術を駆使することでプロダクトのブラッシュアップにつなげ、クリエイティブな表現をAIで最適化できるよう、研究開発に力を入れています。クリエイターの創造性向上や多様なニーズに対応するために、より高品質なサービスを目指しながら日々取り組んでいます。

ーー2021年11月にはYOSHIROTTENさんやとんだ林蘭さんとコラボレーション企画を実施しました。こちらはどのような背景で決まったのでしょうか。

石田:今回のコラボレーション企画を行った理由は2つあり、まずはクリエイターの創作活動におけるインスピレーションの源泉として活用してもらえればという思いがありました。Picsart内には数億種類に上るテンプレート等のコンテンツが存在していますが、アーティストとコラボレーションしたコンテンツをプラットフォーム上で展開することで、ユーザーが学んだり新しいクリエイティブを生み出したりするきっかけになると考えました。

 もうひとつは、Picsartを使えばプロの創作活動も可能になるというショーケースにしたいという狙いがあります。弊社の従業員はグローバルで1,000人規模の会社ですが、そのうち80%くらいはプロダクトの開発や解析を行うエンジニアが占めているため、テクノロジーの会社だという自負を持っています。プロダクトを研ぎ澄ませるためにAIの精度や技術向上に取り組んでおり、業界内でも相当レベルの高い水準まで達していると考えているんです。今回プロの創作活動にPicsartを使ってもらうことで、プロの現場でも使えるツールとして発信し、プレゼンスを高めたいという意図がありました。

<アーティストが考えるアイデアの源泉とは>

ーー次にYOSHIROTTENさんととんだ林蘭さんにお聞きしたいのですが、今回Picsartを使用してデジタルアートワークを制作したなかで、どのような思いを込めて作品づくりを行ったのでしょうか。

YOSHIROTTEN:自分の作品として発表するというよりも、自分が普段作っているものを、多くのユーザーが触って楽しんでもらえるような作品に仕上げたいと考えていました。ユーザーが、自由にアイデアや創作活動に取り入れられるようなイメージを投げた感覚に近いかもしれません。Picsartを使って作品づくりをしたのは初めての経験でしたが、思っていたよりも普段使用しているAdobeのソフトと変わらないくらい操作がしやすかったので驚きました。

 一般のユーザーも、Picsartを使うことで効率よく良いクリエイティブを生み出せるのではと感じましたね。自分が作っているレイヤーのデータを渡したら、どういうものができてくるのかと想像しながら、楽しんで制作に励みました。また新たな自己表現のツールとして、これから試してみたいと想像できるようなものにしたかったので、Picsartを高校生の頃から実際に使っていたモデル(miu)を起用したことも作品づくりで意識したことになります。

とんだ林蘭:Picsartを使ったチャレンジ企画があると聞いていたので「挑戦してみたい」という想いから参加しました。私もいろんな人が使ってもらえるような背景やモチーフを数多く散りばめ、作品の可能性が広がるように意識しています。作品を通して制作意欲が湧くように、自分が普段から使っているわかりやすいモチーフを選んだりもしました。ただ、実は私が機械音痴すぎて(笑)。最初のうちはアプリを全然使いこなすことができなかったんです。結構アナログ人間なので、使い方を教えてもらいながら制作していきました。次第に慣れてきたら、やりたいことがいろいろとできるようになったので、Picsartを使ったことがない人もまずは試してみるといいかもしれません。

ーーYOSHIROTTENさんはさまざまなジャンルをクロスオーバーさせてクリエイティブ制作していますが、アイデアの着想はどのように行っているのですか。

YOSHIROTTEN:私はグラフィックアーティストとしてのアートワークと、クライアントから依頼を受けるデザインワークの2軸で活動していますが、両者のやり方は全く異なっています。アートの方はまだ自分が全然できていないことや挑戦してみたいことが発想の起点になっていて、純粋に「やってみたい」という衝動にかられて作っていくことが多いですね。他方でデザインワークは相手が求めるものに対し、課題解決を見出すために提案していくことを意識しています。相手が何を求めているかによってアイデアの源泉は変わってきますが、シンプルに目で見てかっこいい、美しい、楽しい、面白いと思えるような作品になるよう心がけています。

ーーYOSHIROTTENさんが考える、人を魅了するクリエイションを生み出す秘訣などはありますか。

YOSHIROTTEN:自分ができているなと思うのは、音を聞きながらビジュアルを作ることなんです。昔から音楽が好きなんですが、音って目に見えないものじゃないですか。音楽以外でも、風の音とか砂の音とかを聞くことで、知覚的なイメージがあふれ出ててくるんですよ。そのイメージをビジュアルとして書き出し、昇華させていくのが得意ですね。

ーーとんだ林蘭さんはコラージュやイラスト、ペイントなどを主な表現技法としていますが、何気ない日々の生活からアイデアやひらめきを切り取り、クリエイションへと昇華させるために意識していることはありますか。

 何かを意識しているよりかは、身の回りにあるものを制作に生かしています。というより、身近なものしか頭に浮かばないので、何かインスピレーションを得るためにどこか行ったりすることはあまりやっていないんです。日常生活の中で「何か作ろう」と思ったときは頭を動かし、紙に書き出します。コラージュに関してはラフイメージがないので、その日気になったパーツをピックアップし、変形させてみたり数を加えてみたりして無意識に手を動かしながら制作しているんです。ある種、偶発的に生み出していくからこそ、コラージュの良さが伝わると思っていますね。

<台頭するNFTメタバース。Web3.0時代を生き抜くのに必要なこと>

ーーNFTメタバースなど新しいトレンドが生まれてきています。今後Web3.0の世界が到来するなか、クリエイターを取り巻く環境はどのような変化が生じるのでしょうか。

石田:クリエイターへの需要は今度すごく増えてくると考えています。メタバースはヘッドセットを装着しながら生活する世界なので、オフラインでいう農業や製造業のようなものは全くないと思っています。それはすなわち、メタバースが発展するとエンタメやコンテンツの消費が伸び、コンテンツを作るクリエイターへのニーズが高まるということに繋がるはずなんです。また、デジタル上で自分の所有物として証明するNFTが興隆してくることで、NFTアートを作ったクリエイターが報われるようになってくると思います。

YOSHIROTTEN:デジタルアートをやっている身からすると、メタバースのような仮想空間が出てきたことで、さらに可能性が広がると感じています。ありえない景色だったり空想しているものとかを、仮想空間で再現性を持たせて作れることにとても興味がありますし、自分がやりたいと思っている街や星を作ることも実現可能になる世界にとても好奇心が湧いています。また、NFTが出てきたときは「やっとデジタルアートがアート作品として価値を持つようになる」と感じてすごくワクワクしました。

とんだ林蘭:お二人の話を聞いていて、自分も置いていかれないようにしないと思いました(笑)。特にNFTメタバースは自分から情報収集していませんが、もし機会があれば挑戦してみたい気持ちはあります。

<時代に求められるものを創り続けることが何よりも大切>

ーーAIが発展してくると、クリエイティブの制作過程で手助けしてくれるわけですが、逆を言えば誰でもクリエイターと名乗れるようになってきていると思っています。そんななかでも頭ひとつ抜きん出るためには何を意識すればいいのでしょうか。

石田さん:SNSが登場した際も「個人が発信できるようになればジャーナリストは不要になる」と言われていましたが、結果的には今でもジャーナリストが書くプロの読み物の需要はなくなっていません。これは、クリエイティブの世界にも言えることで、みんながAIの技術で簡単に良いものが作れるからといって、時代に求められているものを創り続ける能力や審美眼といったプロフェッショナルの価値がなくなることはないでしょう。

YOSSHIROTTEN:すごいテクニックを持ってやっている人もいれば、類い稀なセンスで作る人もいて、世の中にはさまざまなタイプのクリエイターがいます。そんななかでも、人に影響を与えたり心を動かしたりできることが大事になってくるわけで、それは言葉では言い表せないかもしれません。

とんだ林蘭:一瞬飛び抜けることは誰でもできるかもしれませんが、長い間支持されている人は、クリエイターになりたいと思っているのではなく、「自分が作りたいものを作りたい」と強く考えているのだと思います。長くクリエイターとして活動できる人は、ずっと作り続けたいというパッションを持っているからこそ、どんな状況になろうとも、注目を浴びるようなクリエイティブを生み出していけるのではないでしょうか。

ーーこれまで色々とお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に今後の展望について教えてください。

石田:Picsartは日本での認知度はまだまだ伸び代があると感じています。プロダクト自体は強いと実感しているので、今後はもっと日本のユーザーに使ってもらえるように尽力したいと思っています。また、プロのアーティストとコラボレーションしたクオリティの高いコンテンツを作り、クリエイターのインスピレーションとなる取り組みも継続していきたいと考えています。

YOSHIROTTEN:これまで積み上げてきたものを壊さずに、ずっと自分の作品を作り続けていきたいと思っています。1年後や2年後の目標はあまり考えていなくて(笑)。日々過ごしていくなかで、今までできていなかったことが、いつの間にかできるようになっているので、「次はどんなことにチャレンジするのか」と楽しむ気持ちを持ちながら、今後も頑張っていきたいですね。

とんだ林蘭:自分一人で制作するコラージュとかイラストとかよりも、最近はアートディレクションの仕事の方が楽しいと感じています。クライアントワークとしていただく案件の方が、自分には合っていると思っています。今後は広告などいろいろな仕事をやっていきたいですね。(古田島大介

写真=小嶋修平